お花結び

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俺と王子と情熱と

時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。

        ジノザキ

Adventus 02

「なんか、考え込まなきゃいけないような内容だったって事ッスか?」
「……」
「まただんまりかよ」

 コクリと王子は琥珀を一口。ゆっくり嗜むその姿すら、まるで俳優のように絵になっている。

「そういうわけでも……、フ、あるのかな」
「?」
「だってもう来ないはずのキミがいきなりこうして来てしまって」
「スイマセンね、ぶしつけに。俺だって来ようと思って来たわけじゃないんで」
「……」
「しょうがないでしょ、頼まれちまったんだから」
「そうだよね?だから」

「わざわざありがとう。だから、もう少しだけ。カップが空になる間くらいの猶予はいいだろう?」
「作戦練るのに時間が足りない、っつー事ッスか?」
「……」
「あからさまなの、珍しいッスね」
「……」
「ま、いいですけど。どうせ要件済んだらすぐ帰るんで」
「この……」
「?」
「このサプライズが嬉しかった分、現実の整理がままならないだけだよ」
「あんたよっぽど今動揺してンですね。少し考えた後の台詞がそれかよ」
「……ハハ、そうかもしれないね。ちょっとセンスなかったかな」
「そッスね」
「……」
「突発取材で豪胆なあんたがこんなになっちゃうのバレたら大変だな。せめて試合前は絶対こういう事がないようにちゃんと後藤さんにも話を通しておかねぇと」
「よろしく頼むよ。ホント嫌なんだ」
「あんたが言えよ」
「なんで?やだよそんな」
「自分の事だろ!」
「ボク“達”の事だよ」
「この減らず口。俺から言っても王子が崩れるなんて信じてもらえるわけねぇだろ?」
「ハッ……違いない」
「んだよ、そんなに俺フロントに軽く見られてるわけじゃねぇからな?」
「なんだい?キミが自分で言ったんだろ?」
「っせぇな!」

 いつもより妙な王子に噛み付く俺。嬉しかったという彼の言葉が、俺のヘソを曲げさせた。別にこんな会話していたいわけじゃない。けれどずっと、彼とこのままこうしていたい。日常の中の些末な幸せ、そんなものに枷され始めて、少しずつ本題から離れていく。本題、俺の、本題。

(駄目だ、これじゃ同じ事の繰り返しで……)

 淡々とした王子は淡々としたまま、コーヒーを舐めるような速度でゆっくり惜しむ様に味わっていた。いつものようにサマになっても、そんな風に飲む王子を見たのは今日が初めての事だった。

 カップが空になるまでと言われた事で、俺は飲む手をすっかり止めた。何故ならこの宙ぶらりんな時間を、俺もまた一秒でも長いものにしたかったから。そして長くしたい理由は、やっとたどり着いた俺の一つの回答案を、王子に採点して欲しく思ったからだ。王子の早退によってしくじりを感じた。チャンスはその場でモノに出来ねば、次があるとは限らない。

「王子」
「ん?」
「ちょっと休憩っつーんだったら、本題入る前にちょっと話いいですか?」
「話?」
「はい」
「なんの話……なのかな、改まって」
「あ、取りあえず先に……この前、俺……色々スイマセンでした」
「何が?謝るような事、された覚えなんかあったかな」

 王子のこの反応は勿論想定の範囲内。素知らぬ顔をされたところで、感情的になれば元の木阿弥。だから俺もまた王子がやったように、相手の反応に干渉を受けず、努めて冷静に言葉を重ねた。

「あの日は酷く混乱してて。あれから考えてたんです」
「……」
「王子の言ってた事。ずっと」

 盗み見た彼の横顔には、なんの動揺も浮かばなかった。ただ同じような無反応のままに、知らぬ存ぜぬを決め込んでいた。

「間違ってたら言ってください。王子、俺にあの日……」
「……」
「俺が知らぬ間に色々自分を誤魔化してる事、俺に教えようとしてたんですよね?」
「……」
「あんたが俺をからかうからって、俺が全部を王子のせいにして……でも本当は俺、自分が勝手に王子の事を」

「待って、違う」

 急な制止。けれどその声は今までと同じ。何ら激する事無く淡々と。

「何を言ってるの?ボクわからないよ」

 顔色にしろ同じ事。ほんの僅かな色味すら上がる事なく、ただ口調と同じに極めて抑制されたまま。

「わからないって、いや……そんな」
「そんな、何だい?元々キミをからかうのが好きだって話は、十分キミ自身知ってる事じゃないか」
「そうだけど、って違う、そういう事じゃなくて」
「もしかしてあれかい?悩み過ぎて、わかってた事もすっかりわからなくなってしまったのかい?可愛いねぇ」

 不思議な言い分。奇妙な違和感。また彼は俺を振り回そうというのだろうか?そう思いかけて違うと感じた。

「だってあんたさっき俺が来て嬉しかったって、それって俺がちゃんと言われた意味を理解して戻ってきたんだと思ってくれたからですよね?」
「そんなわけないだろう?鴨がネギしょって歩いてきたなって愉快に思っただけの話さ」

 そして俺は確信に至る。マグをローテーブルに置いてすぐに、王子の胸ぐらを乱暴に掴んで、思い切り睨め付け、こう言った。

「馬鹿か?王子。だったら尚更、俺にそんな事言うわけないだろ?」

 絶対に感情に流されてはいけないとは思っていた。けれど抑えきれない強引だった。

(言い方だけでも俺は理性的に言えただろうか?)

 けれど王子は相も変わらず、俺の顔を一切見ない。

「随分乱暴だね」
「それをさせてるのはあんただろうが」
「……」
「んだよ」
「……」
「やっぱりそうだ。なんでも人のせいにすればいいって、あんた今俺にそう思ったろ」

 やっぱり彼は俺を見ない。

「コーヒー半分も減ってねぇな。どうやらあんたの作戦、全然まとまらないらしい」

 締め上げる胸元、信じられない。俺は今王子をこの手に捕まえていて、彼は身じろぎも出来ずにただ簡単に傍に居た。

「この天邪鬼が。あんたが自分で言ったんだ王子.。覚えてないわけねぇよな?」
「……」
「あんたは俺を好きだと言った。そんで、俺もあんたが好きだって。なぁ、王子」
「どうだったかな?」

 素直な返事なんて待ってない。

「でも何をどうしてもその事を認めきれない俺の為に、あんたは途中から俺を切る努力を始めたんだ。でもそれがまだ間に合ってない。そういう意味なんだろ?違うのか?」
「えらいポジティブだね。いっそおめでたいよ」

 好きにしろとでも言わんばかりに、やんわりと両目を閉じて言う。笑いもせずに王子はそうして、だから尚更、確信した。

(この人の表面上の言葉に惑わされるな)

 解は手が届く場所にまで近づきつつあるのだから。

「おめでたいのはあんたの事だろ?俺の事を舐めてんじゃねぇよ」
「随分勇ましい話だね」
「あんたみたいな手厳しい先生に随分鍛えられたからな」
「ハッ」

 小馬鹿にするように鼻で笑い、その姿にカッと来た俺は更に、王子をソファに押し倒した。

「待っ……」

 咄嗟の王子の制止も聞かず、だからそのままカップも傾いだ。ローテーブルに、床に、ソファに、王子に、俺に、彼の琥珀が降りかかる。まだまだその熱は残っていたので王子は反射的に熱がった。でも火傷をする程ではなかったと思う。

「……何、酷くない?こういうの」
「酷いですね」
「多分とれないね、このシミ」
「かもですね」

 おそらく俺の乱暴に大いなる屈辱を受けているであろうはずなのに、王子はやはり努めて冷静に俺に言った。感情が消えていれば消えているほど、彼の中に冷静とは全く逆の、強く激しい動揺を見た。そもそもこんな真似を簡単にさせるわけもない人なのだから。

(ほら、らしくねぇ。俺があんたにこんな事出来るとか。そうだろ?)

 胸倉を掴んだままでマウントを取る。見下ろす王子は照明が眩しいのか、しらりとした風情のままで、その目はソッポを向いたまま。

「こっち向けよ、王子。ビビってンスか?」

 飼い犬の乱暴の挑発にも乗ってこないで、ただ大人しくそこにいる。彼の気性から考えてみるに、これも絶対あり得ない。だからこそ、そうなのだ。やっとやり方も掴めた気がする。

「……王子、お願いします。こっち、向いてくれませんか?ちゃんと話がしたいんです」
「この状態のままでかい?」

 ゆっくりと一度目を閉じ、同じ速度のままで俺を見上げる王子のその目は、真っ黒に深く何も掴めず。時折こうなってしまう王子の姿が、なぜあんなにも怖かったのかと今は不思議にすら感じていた。

(これは、この顔は。王子の本当を隠す、その為だけの?表情をつくる余裕がないだけの……)

 ここには必死な隠匿があるだけであり、微塵の嘘も存在しえない。おぼろげながらそんな気がした。

「王子はただ……俺に合わせてくれてただけ、なんですよね?」

 何の返事もないままに、けれど王子は阻止もしない。だから俺は勝手気まま、言いたい分だけ話を続ける。

「あの日俺は堪らなかった。あんたが傍に居て、俺の横に寛いでて。気付かないままに自分の思いが熱く滾って、そう、気持ちが酷く高まってしまって。王子は俺より先にそれを見ちゃったんですね。だから」
「……」
「だから俺に、いいよおいで、って?」

 胸が熱い。

「訳わかんない俺に、大丈夫だよ、落ち着いて、って。言ってくれてて」
「……」
「でも、俺は逃げたんだ。何度も何度も。好きのギリギリまで近づきながら」

「違う、からかうなって、否定して、否定して、ついにはそこを踏越えるんじゃなく、流されるままにバランスを崩して……そうやって自覚のないまま、あんなにも王子に引き寄せられて」

「王子はそれも全部わかって、迷いながら、それでも」

「俺の事、本当に好きだって思ってくれてたから」

「これじゃあんまり可哀想にって?やり直しだって。あれは俺が失敗したからなんでしょう?そういう事、あんた俺にちゃんと言ってた。全部、説明してくれてて」

 口調は至って冷静に。何度も何度も心掛けて。けれどそれを言葉にすれば、気持ちが溢れて止まらない。俺は王子の事が好きで、彼はあんなにも受け入れた。

「そのまま強情な俺が壊れてしまわないようにって……気持ち、曲げて、守ってくれた。そうですよね?王子?」

 その口調は切々と。どうか解を教えて欲しい。けれど王子は。

「随分と楽しい妄想だね」
「な……」
「凄く愉快」
「なんで?王子、今更だ、俺はちゃんと自分で認めた。これで合ってるはず。なのにどうして」
「キミはボクを好きさ。それはそう。自分で認める事も出来た。それはとっても偉いと思う。キミの事だ、割と大変だったんじゃないかな。ねぇ?」

 その褒め言葉は慇懃無礼。彼のカラーが嫌味に色付き、その毒々しさに息を呑む。

「でも、待ってよね。その後キミはなんて言った?」
「なんて、って……」
「随分とボクっていう人間を滑稽な性格にさせてくれたもんだ。流されるキミが可哀想だったから?何それ、そんな事思うわけがないだろう?」
「だって王子は」

 慌てて彼の言葉を止めるにも、俺にはなんの抑止力もなく。

「手に入れようと思えばいくらでも、確かにボクはそう言ったよ?でもそれをやらない理由が間違ってる。ボクがつっかけてキミを転ばせてもありきたりでつまらないからだよ。キミがうんとボクの事が好きだって、それをしっかりと自覚をした上で」
「……」
「自分の意思でボクに飛び込んでくる。キミが自分で勝手に転ぶ。その方がずっと滑稽に決まってる。だからだ」
「そんな」
「フフ、キミはいつも溌剌としてていいねぇ?今回は別に呼び水も用意した覚えないけどよくもここまで間抜けをかまして……」
「……やめろ」
「乱暴は嫌だけど、今みたいな情熱的な感じ、嫌いじゃないよ?」
「王子、そうじゃない」
「ああ、確かに。嫌いじゃないどころか……だって思惑通り好きって言わせたんだもの、キミみたいな不器用な子に。最高の気分さ」
「そうじゃ……」
「その上で純朴なキミの心を思いっきり踏みにじれば、きっと、もっと爽快なんだろうね?」

 最高と爽快を口にするその表情はやはりとてもとても冷めていて、彼は凪いだままの情動の姿で俺に淡々と宣言をする。

「だからボクの勝ちだよ?悪いけど」

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