俺と王子と情熱と
時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。
Adventus 01
「……わかったかい?ザッキー」
けれど無表情から変化する王子の、その口許に浮かんだ笑みのようなものはかなりぎこちないものだった。
「王子……」
「なんだい?」
彼の中に必死さを見る。この直感が錯覚なのかどうなのか、ハッキリわかるはずもない事だった。
(けど……もう、そう割り切ってこのまま行くしかない)
何故なら俺はわかりかけていたからだ。それほど、今のこの組伏す体勢は俺にとって重要だった。
「だから、なんでそれを言う?」
「何がだい?」
両手で掴んだ王子の襟元。想像も出来なかった無謀な展開から得たたった一つの事実が、俺を極めて冷静にする。
「本気なら今の言葉、全部隠していればいい事だ。そしたら何も知らない俺は腕の中で延々踊って、あんたの言う惨めで笑える姿を晒し続ける」
「……」
「その方がもっと楽しめるって、本来の王子なら絶対そうする。今の言葉、この場でちっとも必要ない。意味がない」
「だからそれは、より大きくキミの心が挫かれる瞬間を見たいからで……」
「違う、断言できる。暴露に似せた嘘なんかついたところで、全然騙す事なんて出来ねぇんだよ」
「キミにボクの何がわかる?」
「プレイスタイル見てれば俺じゃなくたって誰でもわかる。あんたは遊んだ後の環境リスクが上がるような真似、絶対にやらない。そこに保険が効かない限りな」
「……」
「あんたはなんだかんだ言いながら、そこまで俺の事舐めてない」
手で、足で、王子に触れる。適切な空調の中で俺は、知らないうちにびっしょりと汗ばんでいた。燃えるように熱い感覚、自分はこんなにも王子が好きだったのだと、今改めて思い知る。
「無駄なんだよ。なぁ、これが知恵比べの答えなんだろ?」
「……」
「何とか言えよ!」
「自己評価も高すぎると馬鹿を見るよ?全部ハズレに決まってる」
「じゃあ、当たりだ」
「キミなんて単純でつまらない。言ってるだろ?」
「じゃ、やっぱり厄介に思ってるんだな」
「違う、簡単すぎるからボクは」
「寧ろ手を焼いてる?」
「鬱陶しい子だね、そういうのボクは嫌いだ」
「じゃ、好きなんだ」
「……」
「ほら、詰まってしまう。あんた今、大分ヤバいみたいッスね」
「ザッキー、もういい加減に」
「王子、ずっと待たせてて、ゴメンナサイ」
「何言ってるの?何も待ってなんか」
「ややこしいのは、もううんざりって言ってましたもんね」
「今の方がうんざりだ」
「あの日の俺を見て、王子、俺らの関係性大きく変えようとしてた」
「そんなの知らない」
「俺が憶えてる」
「……」
「王子、もっとなんか言ってください。言いたい事。他には?」
「言いたい事?」
「本物の嘘つきは本音を混ぜるし。何でもいい。俺に話してくれませんか?王子、俺は知りたい」
「どれだけ話したところでキミはボクを理解しない。真偽の程なんてキミに振るい分けられるはずが」
「本当は理解して欲しかったんですよね?ずっと待ってた」
「待ってない、キミにそんな力なんてない事くらい最初から」
「でも、ずっと望んでいたのでしょう?」
「うるさい、違う」
「好きです」
「黙ってくれない?」
「俺は王子と話がしたい」
「これじゃ堂々巡りで」
「出口はすぐそこだろ?王子」
「ないよそんな」
「道案内してたあんたが何迷子になってんだよ」
そうして王子が静かに静かに。
「キミが……」
脱色したように褪せた声色。ボソボソと呟く力ない言葉。俺は耳を傾けるように、王子に僅かに身を寄せた。きっとここからが本当の言葉。
「キミがそういう感じになるだろうって。全てがそれを踏まえた嘘なんじゃって、もしかしたらって。キミはそうは思わないの?」
「……」
「キミを更に深みに嵌める為に、そうやってついた、一周捻った嘘つきなボクの罠だと。そんな風には考えない?」
「思いません、王子」
「何故?残念ながらボクにはこの流れもまた全部わかっていた事だよ?キミが見つけたと思った新しい道も、事前にボクの引いた道の一つだ」
「……」
「キミは出口と間違えて、新しいボクの迷路にこうして迷い込むんだ。自信をもって」
「王子」
「ボクは知ってる。キミは絶対に勝てない。どうしても」
「……怖いですか?王子?」
「怖い?」
「はい。自分の中に見える悪意が怖い?王子。それも言ってましたよね?」
「……」
「王子俺ね?もうそんな事全然思いません。思わなくなりました」
「ザッ……」
「だって、」
胸元を両手で。そこには拘束以上の意味があって、俺の手にした一つの事実に彼は気付いているのかいないのか。しかしそんな事は今更どうでもいい話だった。
「もうやめようってあんたは言った。素直になれば楽になれると。それを逃すべきじゃなかったんだ。あれは王子の最初の、本当の言葉だった」
顕著な印が俺の背中をそっと押す。もう少し強く、そうすれば王子も?
「かまって欲しいのに突っぱねる俺を、あんたはいつも甘やかしてた。それも当たり前の様にだ。いつも嬉しかった、優しくされて……でもあの日、もっとって。無意識に物足りなさを感じた俺の状態に王子が気付いて、だから」
「……」
「そこからの王子は本気で。あんたらしくもない率直な言葉を、あんなに」
そう言って俺は、もっと彼から伝わる真実の理由を感じていたくて、気付けば耳を押し当てていた。もっともっと、力が欲しい。
「初めて自分の気持ちをあんなにものせて、」
俺の手をも振るわすような、そんな激しい彼の心音。その強さは俺の熱さと同様、その愛の深さを色濃く示し続けていた。
「俺の勝ちだ、王子。俺、ちゃんと……気付けたでしょう?王子の答えを」
隠しようもないそれらについて、彼はもう取り繕う術も持たないのだ。何故なら。
(言葉はあらゆる嘘をついても)
全ての答えは、知恵比べの解は。こんな簡単な場所にあったのだと、俺はそんな事を理解した。
「もう、いいんです王子」
「俺、もうこんなにも好きです、王子の事」
「多分、王子が俺を思うのと同じくらいに」
俺は王子に知って欲しかった。彼と同じに、俺の情熱が強く激しく心の音を打ち鳴らし続けていた事を。
「だからもう逃げ出さねぇ。言って欲しいならいくらでも。王子、何回言えばいい?」
「うんざりするほど待ってくれてた。何回言えば、あんたの今が報われる?」
「もう俺、逃げ道の確保、いらないんです。王子」
「転べば痛いものだよ。でもそれを見せてボクに笑えと言うのかい?」
「そんな事しないでしょ。転ぶ前に、優しいあんたは手を差し伸べる」
王子が何も答えないので、顔を上げてみれば、やはりその目は何も捉えずただただぼんやりと真っ黒だった。王子の思考は俺とは違う。想起の錯綜は錯綜を呼んで、逆に思考の枝葉の行き過ぎた細分化故に、その表情は最早無思考であるかのようだった。気配の消えた王子の存在。ただそんな彼がとても愛おしく思った。何故ならこれは俺のせい。理性と欲望が葛藤を重ねて、それでも王子が考える事は、恐らくはいつでも俺の為の最善だからだ。
薄く開く唇に、俺はまるで吸い寄せられるように。それはほんのり苦みがあって、けれど全然嫌じゃなかった。
押し当てたそれを離して数秒。ジッと見つめ合ったその後に王子が言う。
「意味がわからない」
これもまた必要以上に抑制された声色であり、彼が感情を殺せば殺すほどに闇雲に己の心が掻き立てられていくのを感じていた。口からそれが零れ落ちていくのが少し怖くて、無言のままで王子を見返す。彼もまた。提示された俺の答えを彼の頭脳が分析する。是か。非か。瞬断の王子のガラにもない長考、本当に彼は思考が間に合ってないようだった。その事実がまた大いに俺を興奮させた。
そして挙句に彼が言う。まだまだ分析に足りないからと俺からの情報を欲しがって?
「ザッキー。今のボクには理解出来ない。キミが何を言いたいのか、何をやりたいのか。本当はキミが、何を望んでいるのかも」
協力を求めるかのようなそれは実際、勢いを殺しにかかる一言だった。王子は自らリスクを負う時、俺に時々フォローを強いる。今は不足する自分の能力の補助に、俺の理性を求めていた。曰く、流されるな。押し相撲の相手に共闘を望むというこの馬鹿げた選択は今、彼の導き出す最適なモノの一つであったろうか。
(でも王子、違う。俺、自分でも驚くくらい冷静です。心配しないでいいんだ、別に王子にのせられてるわけじゃない)
「大丈夫です。俺の中には今、矛盾、ないです」
「……」
「言ってる事。やってる事。今はそれが全部、俺の望む全てです」
衝動的なだけではない事。俺の答えが地に足をつけたものである事。彼が押し留めようとすればするほど、俺はしっかりと伝わって欲しいと願った。果たして俺は上手くやれるのだろうか?
「わからなくてもいいです、別に。本当は多分わかってんでしょうから」
「こんなの、凄く変だよ。キミがキミじゃないみたい。でもキミらしいのかな?」
「ハ、確かになんか変ですよね。どっちなんだろ?」
「何それ」
「いう事とやる事バラバラとか……慣れない事、するもんじゃねぇって事ッスかね」
そうしてもう一度王子の胸に顔を埋めて、もうずっと二人抱き合ったままで。あんなにも壊れそうになっていた互いの心臓が次第に元の穏やかさを取り戻すまで、ずっと二人で寄り添い合った。それでも沢山沢山耳を澄ませて、俺は王子を延々堪能した。
(そうだ。こういう事だ。俺もわかった、王子。思いが強いと、それに当てはまる言葉が全然見つからない)
今の気持ちを伝えたい。けれどちっとも上手く言えない。あの日の王子は自分の言葉を陳腐と言った。このほろ苦さを、彼もまたあの時味わったろうか?
(あ……苦いって言えば、)
感じた苦みはもう唇には残っていなくて、それを追うように息をする。欲しいのは味。得られるのは。
「コーヒーの……匂い」
呟いている事すら気付かなかった。彼が返事をした事実により、俺はそれを認識する。
「ああ、さっき盛大にこぼしたからね」
「……スイマセン」
「本当は全然悪いなんて思ってないんでしょう?」
「思ってますよ、一応。ちょっと乱暴だったとは……反省してます」
「フ、そうなの?意外」
彼の体の温かさと、一定の速度を保つ振動。感じても感じても感じたりない。そんな事を思っていた。喋る王子の声ですらも体中に沁み込ませながら、それでも足りないと切望した。
(もっと、こうして話していたい。何でもない話を、何でもないみたいに。なんかくっつきあって話すだけで全然理解度が違ってくる。さっぱりわからない王子の心が、まさに手に取る様にわかる気が)
(王子は?伝わってっかな、俺の気持ち……)
尋ねる事も叶わず、俺はそのまま触れ合う全身から王子の存在感を得ていた。もっと彼を知る言葉が欲しい。でも、それを呼び込む言葉が全然見つからない。
(俺ね、こんなに好きですよ?……王子は?今、何考えてっかな)
[maroyaka_webclap]
