俺と王子と情熱と
時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。
Felice Anno Nuovo! 01
後片付けして、歯ブラシ借りて。俺達の夜はもう目の前だ。そんな気持ちでソファに戻れば、いつの間にかコーヒーのシミは簡単な処理で片付けてあった。王子の魔法のようなその手早さに、俺は脱帽しつつも心を痛める。
(こうしてみると思ったより結構派手にやらかしてる……)
「こら、そんな顔しない」
「いや、でも」
「だからいいって。ラグだけはもうしょうがないけど、ほら、ソファは意外と無事だった」
ポスリと明るく座って見せては、チョイチョイと指先で俺を呼ぶ。おずおずと隣に座れば、王子は既に雑誌を片手に、いつものように過ごす準備で。
俺の戸惑いに気付いたように王子が僅かに首を傾げて、けれど俺は返事出来ない。
(さっきの続き、なんて空気じゃ……ないよな?)
心の中の呟きだった。けれど王子はお見通し。
「あっれー?もしかしてまたボクを押し倒す事考えてるの?」
からかうような意地悪な瞳が、居た堪れない恥ずかしさを呼ぶ。やはり何も言えないでいると、王子は続けてこう言った。
「それとも今度は押し倒されたい?」
突然の強欲な艶めかしさに、目を見開いて息を呑む。
「冗談だよ」
そうして彼は再び“冗談”という。
(はー、ビビった。なんつー顔すんだ、この人)
「油断ゆっだーん」
(え?)
それは気を抜いたと同時の事で、受け身もとれずにあっけなくソファに押し倒された衝撃に思わず俺は王子に罵声を浴びせる。
「痛ってぇ!てめぇ何すッ」
「てめぇ?誰に向かって言ってんの?」
「ッ!」
「ザッキー、ねぇ、誰に?」
驚くほどの冷徹な声。うっすらと口角の上がる僅かな微笑はキッカーの王子そのままだった。全く思考の読めない表情は優男のそれのままで、でも気配だけがガラリと変わる。体重以上に重たい威圧が俺の全身を覆い尽くす。
さっき俺が乱暴した時、不意打ちながらも彼は待てと俺を制した。けれど今は。
(王子に先、声掛けられたのに!俺、何も出来なか……)
まだ倒された衝撃によって、クラクラと軽い眩暈がしていた。
「本気でやるならこれくらいやらないと“乱暴”にならない。わかった?」
これは所謂、悪質なチャージのお手本だった。彼の目は俺をぬるいと挑発していて、更には下手くそと笑っていた。意図的な俺の行為はカードを呼び込み、自分のそれは故意か過失かもわかりにくくてその効力も劇的だと。
「楽しみだなぁ、もうキミはボクを恐くない。確かに聞いたよ?可愛いザッキー」
「う……」
「提示された道は迷いの小道で、それでもこれでいいんだよね?そうでしょう?キミが自分で断言したんだ。逃げ道なんてもういらないって」
興奮か警戒かもわからないままに、王子の言葉で心臓が高鳴る。
「どこまで本気か。キミは何もわかっちゃいないよ。ボクの事も、自分自身の心の事も。だから一緒にわかっていこう?キミがどこで音ねをあげるかを」
これが示された彼からの指針。
「ねぇ、自ら望んで踏みにじられる、そんな今のご気分は?」
「王子……」
「キミは絶対にボクに勝てない。でも、助けを呼んでも許さないよ?だってキミ、生意気なんだもの」
「あ……」
「保険なんてね、強い者にはいらないんだよ。力でねじ伏せればいいだけだから」
本当に俺は知らなかったのだ。王子の事、自分の事。愛を語らぬ彼の口からはこんな言葉が零れ落つ。
「今からやるの愛の営みとかなんかじゃないよ?単なる凌辱。わかるかな?」
「や、やめろ」
「ちょっと、早速駄目じゃないか、まだまだキミには頑張って欲しいのに。ボクの事が好きだって何回でも言ってくれるって言ったのに」
「待っ……」
「それがボクへの愛の証なんだろ?酷い事されながらでもキミは言うんだ。ボクの気の済むまでね」
「強情なのに従順なとこ、ボクに沢山見せてくれるね?もう二度と御免だって思うくらいにボクがたっぷり訊いたげる」
仰向けになっているとライトが眩しい。彼が目を逸らした理由を知る。逆光の王子は無表情で、獰猛のままに暗さを増す瞳が印象的。そんな時に王子が言う。
「さあ、一回目だ。言ってごらん?」
俺がしたのと同じように、片手が胸元を掴んでいる。よりよいやり方でおさらいをして、俺より多くのデータを拾う。
「すっごいドキドキしてるね。緊張?興奮?それとも、怖い?」
「……」
「ボクはね、さっきめちゃくちゃ興奮しちゃった。フフ、どうしようって思うくらい。知らん顔するの、大変だったな。気付いてた?」
(王子、馬鹿にしてるんだ。俺のやってた事、全部全部観察してて、嵌められたふりして、俺を嵌めて?)
「さあ、ザッキー。言って?ボクに」
この場に不似合いな程の甘い声。俺は王子が掴めない。目の前の確証は実際遠くて、それに触れるも叶わない。
「言って?好き?」
「それ、なんの、遊びッスか?俺わかんねぇよ、そんな事させて、どこが楽し……」
「どこが楽しい?ボクに欲情して感じるキミのその屈辱がだよ。それが楽しい」
「ば、馬鹿馬鹿しい。なんでそれが屈辱に……俺は別に」
「……」
暗く冷たい観察眼。ない知恵を振り絞って、必死になって考える。今の状況、乞われている事。意味なんてわからない。なら?
「俺は王子が本当に好きだ。別にその事に苦痛はない」
「……」
「こんなの言わされたところで、全然屈辱なんて感じない。これでいいッスか?我儘王子」
指示に従った時の彼の変化は、殆ど俺からはわからない。でも?
「ザッキー、もう一回」
「!」
「言ってごらん?屈辱じゃないなら平気でしょ」
「……好き、です」
「もう一回」
「王子、しつこいッスよ、なんで?」
「もう一回だ。言いなよザッキー。キミの疑問には興味がない」
屈辱なんて感じない。でも平気だなんてありえない。王子は俺の苦悩を知りつつ、勢いのままに“何度でも”と言った俺の失言を突いていた。
(え?……失言?)
「ザッキー、もう一回」
(あ……王子、これって)
やるしかないと単純に、けれど王子はそんな言葉を吐き捨てた。本物の嘘つきは本音を混ぜるし、この繰り返しはレッスンか何かか?
(王子は一体何を言った?……愛の証を見せろと言った)
わかってきたのは彼の真意。見えざるものは本質かどうか?そんな事も、どうでもよかった。
「好きです。平気だ。何度でも言える」
ありったけのこの思い、伝われ伝われと言葉にする。すると王子は僅かに変化し、甘さを増してもう一言。
「ザッキー、もう一度」
そうして、じっと耳を澄ましている。一言毎に、身を伏せる王子の、その心境を推し量る。
(王子、もっと?)
繰り返される、告白ゲーム。王子は俺の事を試しているのだ。
「好きだ、王子。本当だ」
乞われるがままに言葉を紡ぐと、彼の唇が降りてくる。塞ぐように食む感触が、ゾクゾク脊髄に快楽を生む。
「キスだけでザッキー、もうキミはイッチャいそうなくらいな、とってもいやらしい顔してる」
そう呟く王子こそが。俺はそれを言いたかった。けれど彼のウットリとした瞳が、微かな接触だけでは飢えていた。
「ザッキー、もっと。ボクの事、好き?」
俺の心を王子は試す。未だ彼の心は知らず。それでも俺は王子を乞い、王子は俺の気持ちを乞うていた。熱い熱い舌先の感触、そんなものが俺の口内を舐る。ゆっくりと侵入を謀るそれは、真に俺を犯していた。
凌辱を口ずさむ王子の行為は、甘く優しく、俺を蕩かす。確認に確認を重ねる言葉の、その先にあるものは何なのか?
「繰り返して、もっと、言って。キミはボクを、どう思う?」
彼のキスがやむ毎に、それに飢えて、好きを言う。告白はもうキスのスイッチ、何回も何十回もそれをする。唇が這い、舌先が嬲る。それが欲しくて、好きを言う。
「脱がすよ?ザッキー、いいよね?」
やがて極当たり前の様に王子は剥いだ。それでも時折値踏みをするその瞳が、常に俺を測っていて、俺は触れ合いの為に好きを唱えた。
――怖い?
好きを乞う中に暗喩を見る。けれど王子のその指先にはもう愛そのものしか感じない。だから王子を鵜呑みにしながら、ただ従順に指示を待つ。他人に触れられた事のない体の部位を、王子が紐解き、彼はこれを凌辱と定義した。
(王子、凌辱ってなんだ?俺、今、すごく幸せだ)
いよいよそれに触れた瞬間、俺は小さく声を漏らした。明らかに一線を超える行為を、俺はそのまま受け止める。
「王子……」
「気持ちいい?ここ、凄く熱いね」
「王子、好きだ……」
「好きな人に弄られると、そんなに気持ちがいいかい?ねぇ、ザッキー」
馬乗りの王子のその表情など目を瞑る俺にはわからなかった。両手が自由なこの俺なのに、されるがままに彼を見上げる。うっすらと笑みを浮かべる綺麗な王子は、その指で俺のを握り込む。その瞳はずっと俺を眺め、まるで支配に酔っているような感じだった。まさにステレオタイプのエロスを前に、俺の体が痙攣する。
「可愛い。見てて?ボクがキミをイカせてあげる」
艶めかしく彼の指先が、俺の快楽を引っ張り出す。気持ちが良くて、あまりに良すぎて、俺は上半身をくねらせる。
「お、王子、王子」
「好き?」
「好き、だ、だから!王子、これ以上、俺、もう」
「言って、もっと」
「あ、王子、そこ、んぅ……ッ」
「好きって言わないと、ザッキー」
「好き、王子、……好き、ッ、……あぅ、す、好き……好きッ」
もだえ苦しむ俺の上から、押し殺すような笑い声が聞こえた。両手が彼の膝頭に触れ、力が入りかけては我慢している。王子は必死な俺の気遣いが面白いらしく、その手の甲を数本の指先でクルクル嬲る。
「よっぽど、こじらせちゃってるんだね」
「ひっ」
俺の反対の手の甲にも王子のその手が添えられる。その指先の性的な湿りが卑猥でそれ一つにしても興奮した。
「ザッキー、いい格好だよ」
そうして屹立したそれを見下ろしながら、王子が満足げに溜息をつく。そんなわけもないはずなのに、その吐息が俺に届いた気がした。追い詰められて苦しい程の、淫らな王子のその指先が、恋しくて恋しくて戸惑いながら俺は小さく哀願する。
「……王子?」
「そんなにいやらしいと、冗談が冗談で済まなくなる」
持ってて、と微かな声で指示をする。
「な、」
彼の両手が俺の両手を、俺のそれに添えさせる。そして僅かに濡れた己が中指を卑猥な目線でたっぷり舐ってやる事は。
「ッ!」
ズルリとそれが侵入していく、未知の不快とその痛み。俺は一瞬何が起きたか、あまりにあまりでわからなかった。両腿を押さえつけるように馬乗りにされているせいで、まるで芋虫になったように何も出来ない。
「んッ!」
そしてそれはズルリと再び内部から去って行く。挿入された時の不快とは逆に、背筋が何やらゾクゾクした。苦痛からの脱却が呼ぶ、解放感というものだろうか?これもまた未知の感覚であって、一瞬の事で頭の中が真っ白になる。
「あー、楽しい。ザッキー凄く驚いてる」
「な……」
「いい顔。でも心配しないでいいよ?まだ冗談の範疇だから」
「じょ、冗談……って、何です、か?」
「ボクの事、好き?」
「王子!」
「好き?こんな事されても、まだ、好き?」
小首を傾げて、無表情。
(こんな事されても?なんだ?どういう意味だ?)
「ボクはキミより原始的で、それでもキミは大丈夫?」
「大丈夫?って?」
「キミの愛はロマンティックだ。ボクはもっと単純でパッショネイトな」
「?」
「ルーマン。知らない?別にいいけど。形が違う事だけわかってくれれば」
「わかりません」
「ボクを本気で愛するならば、キミは我慢を強いられる。そういう事だよ」
この段になってようやく俺はわかってきた。
「それが、王子の愛って事ッスか?」
「……」
「ようするに今……俺の事、好きって……言った?」
「さあ、どうだろう?」
「……」
「これがなんだかわからない。ボクは当たり前だと思うのだけど、人を傷つけるのは確からしいし」
「?」
「でもボクはボクのようにボクを愛する人を許さないから。単なる我儘なだけかもしれない」
「わかりません、王子、それは」
「わからなくていいよ、ただ、ボクを好きだと。それをずっと言ってくれれば」
「……」
「どんな目にあわされても、ボクの事だけ見ててくれれば」
そう言いながら、キスされた。セクシャルな世界からたっぷりと甘い愛の世界へ。ウットリとしながら埋もれていくと、王子が続けてこう言った。
「尻尾を巻いて逃げ出さなければ、いつか欲しいものを貰えるかもよ?」
「……」
「ボクの事、好き?」
「好きです」
「本当に?」
「本当です」
「じゃあ、ボクに耐える事で、それをボクに信じさせて?」
そういって愛撫する彼の指先から、やはり俺は愛そのものしか感じなかった。王子は俺の言葉を欲し、愛を欲し、その度俺から溢れるものを、丁寧に丁寧に回収した。
体中を舐めまわされた。何本もの指を入れられた。ややはね癖のある王子の髪は少し汗ばむ頬に張り付く。脱がない衣服の胸元も乱れて、自然にのぞく白肌も卑猥。互いの息が少しずつあがり、いよいよその時が来ると感じた。
「やめて欲しい?」
それは王子が凌辱と呼ぶもの。嫌がるとわかっていると言わんばかりに、さりげなく彼が言葉を混ぜる。俺は今日の行為の中の初めての、巧妙な罠なのだとハッキリわかった。全ての流れはこの一言の為。彼は音をあげる事を待っている。
フルフルと首を横に振れば、王子は切なげに眼を細めてこう言った。
「本当は?」
彼は限りなく言葉を欲した。でも、今の言葉こそが王子の葛藤。己が愛の形を原始的な情愛と評し、それでも王子はこれを問うのだ。しかもこんな土壇場で。
(王子、それは性欲じゃないッス。かと言って理性なんかでもない。自分でわかってますよね?そんな事)
見つけて広がる王子の矛盾。欲望と理性の葛藤と見えたものは、欲望と愛の葛藤であった。当たり前の事を彼は否定し、そうする事で愛そうとしていた。傷つけたくないと王子は言って、ボクは人を傷つけると言う。
「好きな人と、したい。当たり前の事ですよ?王子?」
まるで、ボクがキミにそれを強いているからだ、とばかりに彼は何も返事をしない。彼は今、俺の本当を一生懸命に測っている。
「いいから王子、してくださいよ。俺も早くしたいんだから」
率直過ぎる物言いを受けて、彼は無表情のままに行為を始めた。
「ぐ、ぅッ!」
あてがい、押される、王子の力。大きく股を開いた俺の場所へ、無理矢理な強引さで割り込んでくる。指とは違うその質量に思わず苦痛の声が漏らすと、王子はまだ観察を続けて、針を打つ医者のようにこれを言う。
「痛いよね?」
「う!」
「痛いって言いなよ。ほら」
これは王子との知恵比べなのか?半ばわざとと思わんばかりの、あまりに激しい性行為だった。
「あ!」
「意地っ張り、やめてって、叫べばいい。壊れるよ?」
歯を食いしばりながら目を開けてみると、両足を高く掲げたその間から髪を揺らす王子が見えた。見下すその視線もまたジッと食い入るように俺を犯し、今自分に何が起きているのかの臨場感が更に増す。
「初物って、きっつい。フフ、出血しちゃうかな?ほら、言いなよ。勘弁してくれって。出血どころかこんな場所の筋肉断裂したら大変だよ?」
残酷な言葉と激しい蹂躙。それでも愛しか感じられない。優しく甘やかすばかりの人だった。でも今、こんな酷い事をしてしまえるほど、王子は俺を愛している?
「……」
「聞こえないよ、ザッキー」
内臓が掻き回される感触とは、多分こういうものなのだろう。中にあると苦しさがあり、なのに抜けると物寂しい。でもこの行為を以って、王子は今まさに快楽を得ている。俺が王子を摩擦し続け、俺が快楽を作っているのだ。
(やっべ、気持ちいい……王子、俺で感じてる。俺にこんな事して、興奮して、固くなって、こんなに、めちゃくちゃ感じてるんだ)
俺を犯している王子の立場、思いを馳せればゾクゾクした。王子は女には困っていなくて、でも今、俺とこれをする。生殖行為にとてもよく似た、けれど純粋な快楽の為だけの、そんな後ろ暗くさえある、俺達二人の秘密の行為を、王子が楽しみ、俺は喜ぶ。
マゾヒズムに酔うわけではない。けれど、この痛みがとても激しい程に、俺はこれを情熱とした。
(そうか王子が怖いって言ってたのって)
そんな事を体で知る。
「あ!?」
「ザッキー?」
「あッ、んん!」
犯されている自分、犯している人。その情熱を感じる程に、延焼するかのように体が燃える。王子のそれが繰り返し繰り返し、火のついた場所を擦りあげて、初めて自慰をして得た快楽のように、知らない恐怖が体を巡り始める。
(なんだこれ、気持ち悪い、でも、なんだ?そこ、王子、もっと)
挿れている王子にシンクロしていた。そんなはずが変わっていた。王子は俺の性器を触って、なのに快楽の源はもうそこからだけではないのだとわかった。もどかしくて、苦しくて、気付けば無意識に乞うていた。
「あ、どうし、て?そこ、王子、んッ!」
どうすればこれから解放されるのか、ただ闇雲に王子に縋った。何が起きているのか俺にはわからず、けれど彼はわかったようだ。
「……ここ?」
「あ!んぅ!そ、もっと、好き、おう、じ、して、あ!」
執拗すぎる程執拗な形で、王子が願いを叶えてくれる。体が震えて、何かが出てくる。射精のようなすがすがしさのないもどかしいばかりの強い快楽に包まれ、たらたらと王子の手の中、俺は精液を垂れ流す。
「やだ、ザッキー、やらしすぎ」
「あ、あぁ?う……、何、」
苦しい程に気持ちが良くて、その瞬間に王子が言った。
「駄目、もう無理。ゴメン」
「うぁ!?」
今まで以上に激しい揺さぶり。圧迫どころではない、激しさだった。挿入された場所だけでなく、体中に熱が広がる。もう俺は我を忘れて動物が鳴く様に声をあげて、快楽の中で快楽にまかれた。流れ落ちる汗の感触は、俺のものと、王子のそれと。苦しくて苦しくてどうにかしたい。なのに延々、こうしていたい。
「いや!王子、イッ」
そして今度は先程とは全く違う、そんな強い吐精だった。なにもかもから解放されるような勢いのままに俺は断続的に王子を締め上げ、時同じくして達した王子が吐き出したそれの熱さを自分の内部で感じていた。この瞬間の充実した思いは、スタジアムで感じる高揚に同じ。クチュリと卑猥な音を立てて、後ろから王子の愛が漏れ出たとしても、何するでなくただ陶然と、虚空を眺めて口も開けたまま指先一本動けなかった。
(なんだ?ヤバい。これ、めっちゃヤバい)
あまりにあまり、ただそんな事を考えていた。途中まではただの行為で、なのに意識が半分なかった。まだ俺は自分を取り戻しきれず、そんな時朧気に何かを感じ始める。
(あ……お、うじ?)
乱れた呼吸のその人は、しがみ付く様にそこに居た。全身をぐったりと俺に預けて、汗ばむ首筋が頬に触れる。そして何より感じられるのは、叩かれるように強い心音。事後の王子の色気も健在。擽るうなじのその髪の毛が、俺を全身総毛立たせる。
暫くそのまま、ずっとこのまま。そんな気持ちでいるところだった。
「……何これ、ヤバすぎ」
「え?」
自分が呟いてしまったと思った。けれど王子の言葉だった。
「あっつ……」
悩ましげに前髪を掻き上げ、彼はゆっくり身を起こす。それがとても忍びなくて、縋るも腕には力がなかった。手の甲で汗を拭った姿も、やっぱりどことなくエロティックだった。
「え?王子?」
そして俺はドキリとする。今更シャツを脱いだからだ。たった今までセックスをして、なのに彼の裸にいたたまれない。頬が染まって顔を背ける。そんな俺に、王子は言う。
「汗かいちゃった」
照れ笑い。ぽーんと子供のようにシャツを投げ出し、もう一度王子が俺に言う。
「あっつくて、」
ゆっくりと唇を寄せながら更に言う。
「ザッキー、すっごく、いい」
部屋の空気に晒された汗が、ひんやり地肌に気持ちがいい。そう感じたのもつかの間の事で、思考の定まらぬ獣のままに熱さが広がり、俺達はただ夢中になって二人必死にまぐあった。どうにかなってしまいそうだった。
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