お花結び

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俺と王子と情熱と

時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。

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Adventus 22

 引っかかる物言いについて質問をしても、明瞭な解が戻ってくることは殆どない。それでも俺は王子に問うた。

「……どういう意味ですか?」

 俺はいつも問わざるを得ない。何故そんな事を言うのか。何を思ってそれを言うのか。好奇心を煽られ、サラリと躱され、これはまるでピッチの外で行われる、俺達二人の為だけの苦しく楽しいマッチアップ。何度も何度も繰り返される、俺の本気と王子の遊びの、そんな勝負事の一時だ。

「……」
「王子?」
「うーん……?」

 本も顔も上げないで、お留守な心のままで楽しげにそれを言う。

「つい、って何が?」
「んー……つまり……ボク、キミが好きなんだよ。だからつい……ね……」

 そこには一欠片の気持ちの存在も感じられない。あるのは何分の一の王子もその言葉には入っていないような空虚さだった。

「またそういう事、ったく王子は」
「……なぁに?」
「なんでいっつも」

 そう、これを言う時の王子はいつも同じで、恐らくはそれが程度の低い俺には十分効果的な対応と彼が判断しているせいだろう。こうして出鱈目そのものでもリップサービスで好意を示せば、こうして噛み付く俺は簡単に足を取られて浮き足立つ。その性質を何度も安易に弄ばれる。軽い戯れとして扱われる。つまり彼の集中力を欠いた手抜きの姿を、こうして彼の中に見る度俺は、悲しい屈辱と無力を感じる。

「狡いだろ……説明になってねぇ」
「そう?なってるでしょう?」
「全然なってない!」

 まあ、王子の繰り出す工夫のない同じ技に繰り返し引っかかってしまう俺が未熟だから致し方ない。何度彼に気のない言葉を投げかけられても、やはりその度に俺はうろたえてしまうのだから。愚かで間抜けな俺の事を、一体王子はどう思う?
 目を本に、耳を映画に奪われたままの、凛として存在する麗しのこの人は、俺に何を思うだろう?
「今はあんたのそういう冗談で遊ぶつもりじゃなくて、俺はなんで」

 そう、彼が情熱とは対極の言葉の他に俺にくれるものはあるのだろうか?
「なんであんたが笑ってて、そんで、何を忘れてたっていうのかって聞いてん……」

 けれど当然そこには返事はなくて、

「たまには俺の事、ちゃんとまともにとりあってくれても」

 目を伏せ、心の大半を書籍に埋没させる王子がそこにいるだけだ。

「王子!」
「うん、……怒鳴らなくてもちゃんと聞いてるよ」

 意識半分、上の空。王子は変わらず気のない返事を繰り返す。チグハグな室内のムード、映画の二人はクライマックス。韻を踏む様にリズミカルな男の口説き文句と、それに絡まる女の興奮過多な喘ぎ声が俺の耳に障って非常に不快な気分だった。

(まるで俺達二人じゃないか。切迫するのはいつも自分で、相手の男はいつも歌うように遊び半分)

 俺の質問に聞いてるよという王子の意味不明な返事があって、それを最後に会話は途絶えた。けれどやはりこの沈黙を気にしているのは俺一人で、王子の心は無関心。苦々しい思いでわざと聞こえないくらい小さい声で文句を言う。本当に聞いてるのか聞いていないのか。そんな事を試したくなるのはガキの行為。わかってはいる。

「結局、返事する気なしかよ」
「ん?何?」
「俺の話、聞いてんのかなって」
「……」

 ちゃんと聞いているのかと思ったのもつかの間、結局軽く返事をしたと思ったらすぐまたこれだ。再びフワフワと笑みを湛えて、音もなく彼は物語の中へ帰っていく。

(今はもう俺の相手するのも面倒くさい……そういう事か?王子)

 こんなにも俺が王子を見てる。けれど彼には全く関係がなくて、まるで一人でいるかのように過ごすだけ。うつろう王子が去っていく時、俺は自分の無意味を痛感する。

「俺……」
「ん、待って、ザッキー、今、」

 ヒラヒラと軽くその指先が、犬にお預けをする飼い主のように空を舞う。

(今はもうそんなにも本とテレビに夢中で、あんたは俺なんてどうでも……)

 微笑み、フワフワ、その口許に。俺とは関係のない世界で綻ぶその美しさはまた格別で、しかし身を切る孤独を体感させる。

「王子、聞けって」
「……」
「話の途中だろ?」
「……」

 王子の微笑。浮かんでは消え、消えては浮かび。それは手が届くほどに近くにあって、なのに俺とは接点がない。悔しさに歯噛みして俺はいよいよ。

「王子!無視すんなよ!」

 その王子の『ながら姿』に腹が立って、俺はプツリとリモコンでテレビを消した。俺は彼のそのシャボン玉のようなあやふやな美しさに触れてみたいと思わざるを得ないから。

 この段になってやっと王子が顔を上げる。映像が消えたテレビ画面に視線を移して、キョトンと瞬きを二、三、する。俺がした事に反応を返す王子を見るのは結構好きだ。たとえ次の瞬間訪れるのが彼の怒りの感情だとわかっていても、俺は時折これをするのを抑えきれない。

「もう、今すっごくいいとこだったのに」

 大袈裟な溜息を一つする仕草で、寧ろ彼にとってこの映画がかなりどうでもいいものだったという事がよくわかった。本気で彼が怒る時はリアクションが薄く、ピクリと引き攣るその眉ひとつで室温がぐっと下がる気がするからだ。

 テレビを消された王子の俺を流し見るその目は何か言いたげなもので、でもなんだか不思議にポヤリと僅かに弛んでおり、想像していた不機嫌のそれではなかった。

(馬鹿か俺は……何ホッとしてんだ?怒ってんのはこっちの方なのに)

 けれど『まあいいか』と言わんばかりに王子が再び本を読み始めてしまったので、元の木阿弥にガッカリする。

(んだよ……結局……)

 王子は俺に素っ気ない。それはいつも、いつもの事だった。

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