犬の俺だってわかる事
特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)
飼い犬の中のタブーの記憶
突然、トイレ大丈夫かと王子は言って、さっき行ったところだと返事をしたら、そう、と答えた王子は何故か、いきなり俺の襟ぐりを掴んで来た。
「こっち来て」
首が閉まってとても苦しい。よろよろとよたつきながら王子の後をついていく。
「な、痛い、はなっ……ね、王子、何す……」
「ちょっと頭冷やしてもらう」
そうして無理やり連れてきた場所は。
「あ……」
そこは書斎。本当に悪い事をした時のお仕置きの為の場所だった。昔子犬だった頃の俺に躾上一番効き目のあるのがここだったからだ。天井までびっしり詰まる本棚を見ていると、心の底から不安が広がり、俺は昔からここに来るだけでちょっとしたパニック状態になってしまう。それ程書斎が苦手だった。
「そこは……や、やだ!王子、やめてください……ゴメンナサイ、ゴメンナサイッ」
意味もわからず反射的に必死で謝る。でもここに連れてくる時の王子はどんな事があっても絶対にいつも俺を許してはくれなかった。目の前には鎖。チビだった頃よくつけられた書斎机に繋げる鎖が以前と同じに転がっていた。
「ザッキー、手。両手だよ?」
「……何故?手?いやだ、怖い。なんで今日は手を括るの?駄目だそんなの、走れなくなる」
咄嗟に考えたのは逃げる事。四肢の拘束は首のそれ以上に、俺にとっては拷問だった。何故ならそれは目に見えるから。絶望的に逃げられない事を思い知らせるから。
「大丈夫だよ。それに言ったろう?人間は四つん這いでは走らないよ?ほら、早く。無理に引っ張らなければ首にするより呼吸も楽だし全然痛くないはずだから」
「なんで手?首じゃなくて?」
「それはね?今のキミに首輪をつけても、手が使えたら簡単に自分で外せちゃうからだよ?」
優しい優しい俺の王子は、こんな日が来るのではないかと、ちゃんと新しいやり方を考えていたのだ。いつからそれを?と考えるだけで、俺はとても怖かった。
成犬になってとっくにこの場所の存在すら忘れていた自分は、王子の言いなりに床に座らされて、そのままの姿勢で震えていた。この部屋の中はどこを見ても本だらけで、怖くてどうしていいのかもわからない。大きく吠えれば更に拘束時間が増える。経験でそれを知る俺は小さい声で、カタカタ震えながらお願いする。
「やめて、やだ、これやです。王子、ここに閉じ込められんの、いやです。怖い、本、怖い!知ってるでしょう?王子、俺ここ、怖いッ、すっごく嫌なんだ」
「いいから、子犬みたいに震えてないで、ほら、手、出して」
「王子、王子、俺、お利口するから。ちゃんと自分で抜く、ううん処理するから、ねぇ、もう我儘言わない。お願いします、だから」
「早く。お利口するつもりがあるなら、さっさと出す」
ピシャリとした王子の物言い。術もない俺はおずおずと、王子に両手を差し出す他なく、あっという間に、両手を括られて重い書斎机に繋がれてしまった。
「痛い?」
「……」
「そのまま手首の内側を合わせるようにしていれば平気だからね?いただきますの姿勢だよ?わかるよね?」
「嫌だ、な、なんで?繋がれんの、嫌です。王子」
「……」
「よくわかんないっス……なんで?ねぇ、王子、一体何が悪かった?お利口する、だから、教えて、王子、俺、いやだ、閉じ込められんの、絶対。王子、王子、一緒に居させて」
混乱は続いて、何を言っているのかも自分でイマイチわからなかった。いけない事をした。どうすればここから解放される?
「王子、行かないで?怖い。ここ、俺、怖いッス。知らないでしょう?王子の見てない隙に俺の事食おうって、あいつら一斉に飛びかかってくるつもりなんだ。王子、俺が食われちゃっても平気なの?そうなの?」
「何?キミは今までずっと、そんな事を考えて怖がっていたのかい?」
「笑わないでくれよ!本当なんだ!あいつら人間は食わないのかもしれないけど、あいつらすっごく獰猛で、」
「ザッキー、あのね?本は獰猛も何もそもそも生き物なんかじゃないんだよ?」
「嘘嘘、生きてる、知らないんだ王子は!」
そして蘇る子犬の頃の俺の記憶。そう、あの日まだこの部屋が怖くなかった俺は、王子のいないのをいい事にはしゃいではしゃいで騒いだ挙句、本当に本に襲われた(机の上に積んであった図鑑の山が沢山崩れ落ちてきた)のだ。痛くて、体が動かなくなって、必死になって王子を呼んだ。生臭い匂いとべたついた床が気持ち悪くて(※血)呼んでも呼んでも王子は来なくて、そうして俺はここで一人、ひっそりと意識を失った。
それから気が付くといつの間にか俺は白いところ(病院)に居た。今でも時々行く大っ嫌いなその場所で、俺は一杯嫌な事(治療)をされ続けた。何度そこで目覚めてみても辺りは一面真っ白で、延々終わる事なくそれ(治療)は続いた。痛くて怖くて助けて欲しくて、周りの仲間達みたいに一生懸命王子を呼んだ。ずーっとずーっと目覚める度に、俺は何回も王子を呼んだ。それでも王子は来なかった。今までの事が全部夢に思えた。俺はその昔誰を呼んでいいのかもわからぬままに、こうして延々と助けを求めていた気がした。
痛いより何より、いつ終わるともしれない白い部屋での、あの別離の日々こそが怖かった。忘れてしまいたい(実際忘れていた)程のズタズタの記憶。この部屋や白いところ(病院)は、“痛み”と“バイバイ”の象徴だった。
「嫌!怖い、ここ、嫌い」
パニックを起こしかけている俺を王子は、いないかのように無視し続ける。そうして最後にポツリと言う。
「じゃ……ティッシュ、ここ置いておくね?さっきキミ自分で言ったよね。自分でするんだ。生理現象なんだから別に行為を欲する事自体は怒らないよ?問題はマナー。厳しい事を言うようだけどちゃんと学習するんだよ?おトイレと同じでところかまわずやるもんじゃない。わかるね?」
それを言われて、ようやく事態を把握した。どうしてもマナーを守れない俺に対して、王子は強権を発動しただけのようだ。
「手がそんなじゃちょっとやりにくいかもしれないけれど。ま、頭冷やすにはちょうどいいかな。いいかい?ザッキー、キミは今とても間違ってる。でも大丈夫、まだ人間になりたてなんだもの、仕方がないさ。頑張ってお勉強を続けて、常識をちゃんと身に付けていこうね」
「王子、お願いだから繋ぐの別のとこにして?……わかったから、ちゃんと常識、やるから、ねぇ、俺、本当にここだけは駄目で」
「ゴメンね?今はキミを繋いでおける場所がここしかなくて。その成りじゃもうゲージも意味もなさないからとっくに片付けてしまったしね」
「王子、王子、どうしても?」
「……」
「言われるまで自分では出ない。だから他の部屋にして?繋がれなくたって約束守るから」
俺の懇願も王子の耳には届かなかった。正しい生理現象の処理の仕方をキッチリと俺に躾ける為に、その顔には断固として譲らないと書いてある。わからないけれど、それくらい大事なじょうれ?(ルール)なのだろう。事情はわかった。でも。
「電気は?暗くして本があんまり見えない方がいいのかな」
「明るくても暗くても、全然駄目だ落ち着かない。王子、ここにいたら、俺、頭グルグルしちまって、ねぇ、もうこんなにも恐ろしい」
それでもカタカタカタカタ震えて懇願を続ける俺に、悲しい顔で王子が言う。
「キミはもう小さい子犬じゃないんだよ。ちょっとずつでもいいから成長して苦手も乗り越えていかなきゃね?本なんて怖くないのも、今日ボクが言う事がとても重要な事なのも、一個ずつしっかり覚えていこう」
「でも」
「キミの大好きなお外にだって、色んな所に御本があるよ?その度にキミはそうして子犬に戻って尻尾を丸めて逃げ出すの?そういうわけにはいかないでしょう?」
「でも、王子、俺……」
「ザッキーはお外に行きたくないのかな?」
「行きたい……お外、行きたい」
「ならお利口できるよね?お外に行くならタブーこそキチンと覚えなきゃ。ボクとキミは交尾なんてしない。絶対にだ」
「あ……」
吐き捨てる王子の言い草で、今の極端なまでの仕打ちがやはりお仕置きの一面もあるのだとそう感じた。
「人間には交尾以外の好きの形が色々あるんだ。しっかりと今日こそそれを理解しよう。いい?わかったね?いいつけを守って自分で始末をここでつけられたら、そしたらすぐに出してあげる」
「行かないで王子、ここ嫌だ、待っ」
「お願いだ、ボクの言葉を理解してよ。ね?賢いザッキー?これは物凄く大事な事なんだから」
立ち去る王子の様子を見つめて、涙?が久しぶりに目から出た。でも、今日は固い木の板(※フローリング材)に落ちるだけで、王子は優しく舐めとってくれない。手で木を拭くと乾くかわりに、カチャカチャと虚しく鎖が鳴るので、そうだティッシュと思いついて、コシコシ木のところを拭き続ける。涙はパタパタ止まらなくて、ようやく綺麗になった頃に褒めて欲しくて顔を上げると、とっくの昔に王子の姿はそこになかった。結局再び涙が零れて、延々と真下の木を濡らした。
「王子ぃ……」
きゅーん、きゅーん。あの呼んでも呼んでも王子のこない、地獄の日々ととても似ていた。
本の怖い俺は電気のついていない暗い部屋で、ギュッと体を丸めて本の存在を忘れようとした。喉から漏れる声は消えない。涙も一向に止まらなかった。
「王子ぃ、王子ぃ……ゴメンナサイ」
怖くて怖くて悲しくて、もう指先一つ動かせなかった。本を頭から締め出したら、今度はあの真っ白の恐ろしい部屋が俺を襲った。呼んでも呼んでも王子が来ない。やっぱり今までの事が全部自分の都合の良い夢の気がした。
「助けて、王子、来て、ここ怖い」
わけのわからなかった子犬の頃より、今の方が何十倍も、恐怖の意味を理解出来た分だけ怖かった。
「王子、いないの嫌だ。捨てないで?」
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