犬の俺だってわかる事
特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)
そしたら、ボクと
「ザッキー?ねぇ、ザッキー、目を覚まして?」
大好きな王子の声と、あの匂い。
(……あ、どこ?ここ?)
ポカリと目を開けて見えてきたのは、心配そうな王子の顔。怖い怖い真っ白な部屋で目覚めた際も、こうして王子は俺を呼んだ。
(……王子、いた!王子、王子、こわかった)
話しているつもりなのに、全然声が出なかった。体もだるくて動きにくくて、王子は、
「すごい熱だ。ゴメンね?ザッキー」
と冷たいタオルを額にくれた。
(これ、俺がいつも寝てる部屋?お気に入りの毛布の感触……俺、これ好きだ)
「最初からご飯の支度が出来たら呼びに行くつもりだったんだよ?30分もたってないのに、こんなになる程怖かった?」
所謂、心因性発熱というものだったのだろう。丸まったまま体が強張り意識のない俺の事を、こうしてベッドまで運ぶのは大変だったと王子が言う。
「今はキミをどこのお医者に連れて行くのかもよくわからなくて焦っちゃったよ」
パタパタパタパタ涙が落ちて、王子がそれを拭いてくれる。
「王子、ゴメンナサイ、モウシマセン」
王子は片言になってしまった俺の姿を見て、黙って首を横に振る。
「モウシマセン、捨テナイデ……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、」
「ザッキー、落ち着いて?お話は、あと。お熱が下がったら、ね?」
「……寂シイ……オレスゴク寂シイ、デス。イカナイデ、置イテカナイデ……」
「大丈夫、ボクちゃんとここに居るよ?もう怖くない」
「王子、人間ナッチャッタ、ゴメンナサイ、」
「またそれを言う……いいんだよ。そんな事謝らなくて」
「オレ犬ニ戻リタイヨウ……戻リタイヨウ、戻リタイヨウ……」
「わかるよ?人間になるのは大変だもの。キミはとってもよく頑張ってる。でも今はともかくゆっくり寝て?休んで、それから良くなるからね?そうしたらお散歩だ。キミのお気に入りのあの河川敷に行こう。大好きだったろう?久しぶりだ」
「戻リタイヨウ……、王子ト芝生……遊ブ……走リタイ、一杯……」
「ん、追いかけっこだ。一杯しよう。だから、もう目を閉じて?」
喉の奥がカサカサとして、くぅ、くぅ、と息が漏れる。もしかしてこのまま話せなくなったら、犬に戻れるのかななんて考えた。頭が熱でボンヤリとして、目も潤んでぼやけて王子が見えない。人間になって開いた視界が徐々に閉じていく気もしてきたので、益々このまま元通りになるのだろうと、心のどこかに確信があった。
俺は白昼夢の中を彷徨い歩く。
「怖イ、王子、イカナイデ……待ッテ、マダ人間デ、上手ク走レナ……」
気持ちはもう半分夢の中。芝生の上、王子が遠くから俺を呼んで、でも体が上手く動かせない。手は短くて足は長く、四つん這いのまま転げてしまう。青臭い草の匂い、遠くで聞こえる鳥の声。空は驚くほど遠く高く、かの人の姿はもう見えない。
「好キ……王子、大好キ……待ッテ……王子ハ俺ノコト捨テナイデ……」
犬に戻ったら話せなくなる。二度と言えない大切な事。沢山伝えたくて慌てて呟く。もう周りには王子がいない。そう思っていたのに、返事が聞こえる。
「ボクもだよ?ザッキー大好きだ。捨てるなんてするはずないじゃないか、馬鹿だね何を言っているの」
「ドコ?王子、人間ヤダ、上手ニ走レナイ……イカナイデ、ヤダ、大好キ……人間ヤダ、王子、王子……」
くぅ、くぅ、俺から声が消えていく。絶え絶えの声を王子が拾う。
「ねぇ、そんなに嫌だったの?人になってしまった事」
「ヤダ、人、仲良シデキナイ……犬ガ、イイ……」
「そう?でもボクは人間になったキミとの生活、とっても楽しいと思っていたよ?」
タオルを替えて、髪を撫で。とても、とても、気持ちがいい。けれど、ゼェゼェ、息苦しい。
(嘘、ソンナノ、嘘……)
もう声が出なかった。
「ああ、酷そうだね。ボタンひとつ外そうか。キミ、こういうの嫌いだったものね?」
そういって王子は、俺の服を緩めてくれる。
(王子、王子……ゴメンナサイ……オ利口、俺、……)
「ねぇ。もし、ボクがキミに犬に戻って欲しくなかったりしたら、ザッキー、キミは凄く困るかな」
それはもう夢の中なのか現実なのか。
「人間になったキミの事を見て、本当に心からキミの事を誰よりも一番大好きなんだなって、自分の気持ちがわかったんだよ」
俺の目は最早苦痛で閉じられ、真っ白ならぬ真っ黒な世界に落ちていく。
「今、このままキミが元に戻ったら……ボクは一体どうしたら……この意味、わかるかな」
全然意味がわからないけれど、俺はもう返事一つも出来なかった。あんなに犬に戻りたかった俺は、今更もう少し話がしたくて、魔法使いさん待ってくださいと、心の中で呟いていた。
「わからずやだったのはボクの方。色々ややこしい事を考えてしまって」
必死になって耳そばだてて、王子の囁きを拾い続ける。
「大事な事をすっかり忘れて、ボクこそ頭を冷やすべきだった。ゴメンね?ザッキー、だから元気になって?」
もう殆ど俺には意識がなかった。
「もし目覚めたキミが、今と同じにキミのままなら。そしたら、ボクと、」
大切な最後がわからなかった。
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