お花結び

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犬の俺だってわかる事

特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)

目覚めという名の魔女の罰

 そう、俺がまだ犬だったあの日、正真正銘、生まれて初めてそれを見てしまったのだ。それが全ての始まりだった。

 真夜中聞こえてきた声に、俺は吃驚して飛び起きた。
(なんだ?今の。王子か?)
寝室にそろそろと近づくとドアが少し開いているので、心配で隙間からコッソリ覗く。
(?)
ベッドの上に目をやると、そこには大好きな王子の姿。
(いた!)
乱れた呼吸。そしてなんだか上掛けが時折ジタバタ。苦しんでいるようだがよく見えない。
(王子、よっぽど苦しいって事かもしれない。どうしよう?誰か……あ、そうだ、今日はお客さんが来てるから、お客さんが気付いてくれれば……確か一緒にいるんだよな?寝てんのかな?早く起こさねぇと!)
 そうして鼻先でドアを開き一歩部屋に踏み込んだ時点で俺は状況の真の理由を知る事となった。時折人間の雌の来客があった際に王子が俺に寝室の寝床を使わせてくれないその理由。ドアの向こうに隠され続けた別離の夜の本当の意味を。
「もう寝ようよ。えぇ?もっと?困ったなぁ」
聞こえてきたのは二人の秘密めいた笑い声。
「しょうがないなぁ、でも駄目だよ?さっきみたいに大きい声出しちゃ。ザッキーが起きちゃう」
その夜の王子はちっとも苦しんでなどいなかった。
(いつもこうして俺に隠れて?何、これ、どういう事だ?何やって……)
俺の大好きな俺の王子が、俺に隠れてしている行為。獣的な直観と本能が知らせる光景の意味。それに思い至った俺はチカチカと目が眩んで、その瞬間の出来事だった。
“ワン、ワンワン!”
俺は気が付けば本能のままに牙を剥きだし吠え始めていた。体中の血が逆流するように波打つと同時に全身の毛まで逆立てて。それを見た王子は驚きながらも、俺の事を厳しい口調で怒鳴りつけた。交尾の相手は犬が苦手で俺以上にキャーキャー惨めに喚いていたのに、王子は俺だけに「静かにしなさい」と声を荒げた。雌の叫び声が俺の全身に突き刺さってこんなにも痛い。それを打ち消す為に更に俺は大きく吠える。
“ワン、ワンワン!”
なのに王子は俺の今の苦痛も知らずに、胸元が大きくはだけたままの姿で一方的に威圧した。
「駄目!ザッキー、よすんだ!」
“ワン、ワンワン!”(王子!なんで?)
“ワン、ワンワン!”(王子の馬鹿!)

 気が付くと寝室の入り口、俺は王子に無理矢理床に押さえつけられていた。
“ヴー、ウゥー、……ワン……ウゥウッ”
喉が締まって吠えるどころか息もしにくく、あちこち関節もロックされて動けない。その間に支度を済ませたお客さんは、王子に促されるままに帰っていった。王子は何やらしきりに申し訳なさそうにその後ろ姿に謝りながらも、ずっと俺を物理的な力で服従させて続けていた。
「一体どうしてしまったの?ザッキー、こんなのキミらしくない」
“ヴー、ウゥー、……ワン……ウゥウッ”
(クソッ、放せ!俺に触るな!)

「ああ、驚いた。ねぇ、駄目じゃないか。お客さんを恐がらせないって約束だったろう?」
 やがて解放される時が来ても俺の興奮は一向に収まらないままで、王子の言っている事なんか意にも介さず部屋の片隅に走って逃げた。そんな俺の方に、王子はゆっくりと歩きながら言葉を続ける。
「しかも夜にあんなに大きな声で吠えるなんて……苦情が来たらボク達ここに居られないよ?最悪キミのお喉をどうこうしろって話になってしまうかもしれない。そんなの嫌だろう?ボクもキミにそんな恐ろしい事をなんて思うだけで」
フーフーと息を荒げ、それ以上近づくなと言わんばかりにグルグルと唸り声をあげながらジッと飼い主を睨み続ける。
「いつも静かなキミがあんな風に激しく吠えるのなんてボク初めて見たよ。ねぇ、ザッキー?」
表現しえないドロドロしたものに喘いでいた俺には、もう目の前の王子が俺の大好きな王子には見えなかった。服の乱れが整えられても、王子は髪の乱れに気付かない。
(俺の名を呼ぶな!裏切り者、裏切り者、裏切り者……!)
「こんな驚くって事はやっぱり刺激が強すぎたのかな?確かにキミには意味がわからない光景だものね?怖かった?……うーん、言ってもわからないだろうけど、あれは喧嘩とかじゃなくってね……?つまり、なんて言うか、説明しにくいなぁ……」
(うるさい、黙れ!裏切り者!!)
「仲良ししてたんだよ。ほら、いつもキミともしてるだろう?まあ言ってみれば広い意味で捉えればあれと同じで」
(仲良し?あの雌が俺と同じに!?冗談じゃない!)
優しい笑顔を見つめる程に渦巻く感情。寧ろあれを見た瞬間よりもこの王子の言い草によって益々俺は強い混乱の世界に迷い込んでしまったといえた。
「警戒しなくてもいいんだよ。あの子もとても、いい子だよ?キミと同じに」
(違う!王子は俺の味方しなかった!王子に無理矢理力づくで押さえつけるなんて、あんなの俺、すっごく怖かったし、痛かった!それに、それに、王子は、)
それでも王子は。
「おいで?」
声掛けをしても微動だにしない頑なな俺に向かって、王子はそのまま根気よく手を差し伸べ、延々と俺に話し続けた。そうして紡ぎ出す王子の言葉の中に。
「多分キミはキミなりにボクの事を思って、きっと必死にボクを守ろうとしてくれたんだよね?お利口、しようとしたんだろう?」
吠えた事に怒った王子は、俺が俺なりの理由で吠えていたこと自体は理解してくれていたようだった。
「大好きなキミがそんなだとボクはとても悲しいよ。でも、キミの方がとても傷付いてる。そうだね?」
訥々と繰り返される労りの言葉をこの身に浴びて少しずつ緩み始める自分の心を感じながら、俺は正気に戻り始める。
「わかるよ。だからこそ悲しい気持ちなってるんだし」
無理矢理は触ろうとしない王子の手がもう何時間もそこで待っていてくれている。放っておいて欲しいはずの俺の心が、その手に僅かに安堵を感じ始める。
「あの時も……本当は抱き締めてあげたかった。勇敢に戦ってくれたキミの事を、ボクはちゃんと理解してたつもり。でも、そんなわけにもいかなくて。理由はわかるだろう?ザッキーはとても賢い子だから」
俺が態度を軟化させない限り、本当にこのままずっとここで見つめ続けるつもりかもしれない。上っ面の懐柔ではないといった、王子の思いがあるような気がした。
「吃驚しちゃってたさっきは混乱してても、今ならわかってくれるだろう?ねぇ、ザッキー。ボクのところにおいで?駄目かい?いつもみたいに抱っこさせて?」
切なげな飼い主の表情。過剰な程臨場感のある憂い。そんな事がもう耐えられなくてとうとう根負けするように俺がオズオズと指先を舐めてみせると、
(うわッ!?)
その瞬間、待ってましたと言わんばかりに王子はガバリと抱き着いてきた。
「ザッキー、ザッキー!やっと来てくれたね?すっごく嬉しい」
(吃驚した……いきなり、)
「もう二度とこんな事やだよザッキー、よしよし。もっと近くにおいでよ」
(ったく、結局この人は俺がいねぇとどうしようも……)
「ね、今日はソファで一緒に寝ようか?なんだかずっとこうしていたい気分。ボクはキミがいないと駄目なんだよ」
 王子があんな風にしてくれなかったとしたらずっと長い事俺達の関係には大きな亀裂が残ったままに、不自然な状態になり続けた事だろう。
「可哀想に、そりゃ怖くて吠えてるのに更にボクに怒られたら益々怯えちゃうよね?今度からもう家に呼ぶのはよすよ、キミが怖い思いをしなくて済む様にね?だからザッキー、安心していい。本当に誓うよ、もう二度と」
 意味を理解しないままに番犬役を全うすべく。あの日の俺の狂乱の姿を、王子はそんな風に解釈したようだった。すっかり図体も大きくなった可愛げのない成犬な俺も、王子にかかれば可愛くて健気な子犬であったのだ。

 夜中の突然の喧騒について、王子や近所の人がどれだけ迷惑したのか。今の俺は理解する。その結果声帯手術を強いられる可能性がある事も、真っ先にその事を恐れて、王子が慌てて俺を無理矢理黙らせようとした事も。
 だから俺は手酷い経験から理解した。夜中に犬は吠えてはいけない。お客さんを恐がらせてはいけない。そして多分、
(交尾を覗きみるような真似は絶対にしてはいけない)
 あれは人間にとっても犬にとっても、とても毒になる出来事なのだと俺は思った。どれだけ吠えてはいけないと思ってみても、俺にはもう一度あれを見て混乱しない自信はなかった。
(そう、あの時はどうかしてた。だって、なんだか驚いてしまって……に、人間にも発情期が、なんて全然考えた事も……犬同士のだって見た事ないのに大好きな俺の王子があんな……なんだか王子じゃないみたいだった)
ショックの原因は主が、動物の顔をしてみせた事だと俺は思った。大好きな王子。大切な主。
――ザッキーが起きちゃう
俺は王子の事をあの瞬間まで完璧すぎるほど完璧な存在だと心の底から崇拝していて、この裏切り・秘匿のそれは今までの価値観を根こそぎなぎ倒すのに相応しい程の衝撃であったのだ。
(全然知らない人みたいだった。雌と二人で発情して……一緒になって欲しがりあってた。内緒で、コソコソ、俺に隠れてグルになって。いつもそうだった?知らないだけで。他にも一杯秘密があるのかな。そんなの、もしもう一度見たら俺は……今度はもしかしたら……)
そこにあるどす黒い気持ちが何なのかはわからなかった。でも、だからだ、と思った。人を食い殺せる力を持つ犬に対して、魔法使いが罰と知性を与えた。もっと人間の生態を正しく知るようにと、やめさせた。そしてこの1か月の間、日に日にお勉強を続けていく中、自分のした事、そしてしでかしそうな事に対する、所謂罪の重さを如実に感じさせられるようになっていった。ちゃんと俺が反省をして、十分人間を、動物の一面を持つ主を受け入れてその上でもう一度完璧だという事を認知する。そうしない事には多分、俺は元には戻らない。
(王子は俺がずっとこのままだって思い始めてる。だから尚更頑張らなくちゃ。自分の為に、大好きな王子の為に。俺は頑張ってお勉強をして、もう一回正しく人間をリスペクトする賢い犬に戻るんだ。そうしたらきっとその時、俺は王子自慢の立派な番犬として、王子と、王子の大切なものを守っていけるようになるんだと思う)
 そうやって奮起しては退屈する毎日だった。姿とともに知性を手に入れた俺は残念ながら自分で考えていたよりおそろしく馬鹿で、お勉強の能率はあまり良い方ではなかったと思う。俺は王子の事を沢山知りたい。その欲望を埋める前に、正しく人の生活が営めないでいるばかりだ。
「ザッキー、御飯だよ?」
「ワン♪」
「こら、ワンじゃないでしょう?」
「あ、いけね」

[maroyaka_webclap]