お花結び

Just another WordPress site

*

犬の俺だってわかる事

特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)

ちっぽけな俺に出来る事

 ガーガーと俺が喚きだすと、王子はげんなりした表情で静かになった。
「王子?」
「ん……待って、ちょっと休憩させて?少し疲れちゃった」
王子が悲しい顔になる。急に心配になって色々考え、罪悪感に包まれる。今俺がやったのは王子への裏切り。彼が感情的になるのは恐らく、俺の不信を察知するから。
(王子、王子、どうしよう……)
 裏切りの悲しみは自分こそが痛切過ぎるほど知っている痛みで、悲しい主の姿に俺は愛を感じて更に深い罪悪を知る。王子の痛みが辛い。でもその痛みを持つ程度には王子は俺の事をまだ好きと思う。王子を苦しめ喜びを見出す自分が憎かった。
(ゴメン、王子、俺、やっぱり馬鹿だ……)
 そうして必死になって今俺が王子に出来そうなことを考える。少しでも彼をケアしたい。俺は痛みを与える為の存在ではない。それを王子に証明し続けていたい。
(疲れた時の王子に俺がしてあげられる事?そんなの俺の得意技じゃないか)
それは自分の為にではなく王子の為に。あの俺達のひと時はいつも、俺達二人両方の為にあったはず。
「疲れた?ほら!だったら尚更俺の事ギュッてすればいい。いつもそうしてたら王子、元気出た。最近全然してないからだ、多分。ねぇ、そうじゃね?」
「ザッキー……」
「どーんと来いってね。俺ちゃんと役立つ王子自慢の番犬になるんだって、いつも一生懸命考えてるからそんなことくらいすぐにわかっ……」
けれど主の顔は更に悲しく。俺の見つけたかつての正解は、今の彼の中では正解じゃなかった。
「おう、じ?……もしかして俺、やっぱり……一杯間違って、る?」
「ん、気持ちは嬉しいんだけど、なんて説明していいのか。今ボクが話してた事、もう一度わかりやすいように説明するね?……その前に何か飲もうか。そしたら少しずつ整理しながら、」
(どうしよう、俺、弱った王子になんにもしてあげらんない生き物になっちまったんだろうか)
役に立てない事。無力な事。自分の存在意義の根底の揺らぎ。
「また、お勉強……?」
役に立つ為のお勉強を延々続ける中で、俺はこうして王子を傷付けていく。そこに何の意味があるのか。俺が見いだせない意欲と同じに、王子もそれに絶望するのか。
「ああ、そうか、少しずつ言葉遣いとかももっと教えていかなきゃだね……ボクがキミに使って来た言葉遣いのせいで少し赤ちゃん言葉になってるから、そこだけでも直さなきゃ。今度からお勉強じゃなくて、勉強って言おう」
「……」
「あぁ、キミを外に連れ出せるようになるにはやらなきゃいけないことが沢山あっ……」
飲み物を用意する為に立ち上がった王子の足元が、ほんの少しよたついた。
「王子?大丈夫?フラフラする?」
「……ん、大丈夫」
役立つ事、力になれる事。王子は今喉が渇いていて、人間になった俺は昔と違ってやれる事がある。
「座って?飲む物、俺が用意してみる。……あ……えと、してみ、みるま?みるッす?」
「用意してみます」
「……て、みます」
言葉遣いも意識してみれば、王子の表情が少しだけ弛んだ。今俺は勉強する事しか王子に役立てる事がない。
「出来そうかな?」
「出来る!あ、出来……出来る、っす?出来るます?」
「いいよいいよ、言葉遣いも、お勉強も少しずつだ。お話が出来るの自体本当は凄い事なんだから。細かい事は焦らないで根気よく頑張っていこう」
「でも王子、ちょっとゆっくり過ぎない……かな、俺、我儘で……すぐ今みたいに弱音吐くから」
その頃の俺は、賢くなる=辛くなる事だった。王子不足が耐えられなくて、王子のニーズを果たせない。
「そんな事ないよ?言ったろ?十分だ」
「本当に?」
もっともっと。速度が足りない。辛くなる前に環境に納得できるだけの知識と心の整理がつく能力をしっかりこの身に欲しかった。自分に負けて迷惑をかける。俺はそれを繰り返して来た。
「本当の証拠に、じゃあリンゴジュースを頼めるかな?この前教えたね?上手に出来てた」
「え?あぁ、だってあれは火もいらないし、そんなに難しくは……」
「そう?だって冷蔵庫の中にあるんだ。難しいよ?中から出す時はどうするんだっけ?」
「えと、出したら一旦、扉、締めなきゃいけない。ご用事が終わったら、もう一度開けて片付ける?」
「ほら!ちゃんと覚えてる。あと、ジュースを入れる器は?ヒントその一。お皿じゃない。それは犬用。人間は?」
「わかってる、どんなのかは。細長いんだ、えーっと名前が」
「ヒントその二。持つところもないよ?気を付けて?」
「あ、コップ?透明の?ジュースを出す前に先に用意をしとくんだっけか?」
「よく出来ました」
「持つところがついてるやつは、温かいもの飲む時に使う」
「完璧」
「よし!待ってて王子、すぐ持ってくるから」
「ゆっくりでいいよ?こぼさないようにね?」
「当然!」
焦る俺に王子は優しい。キミは出来るよ、が上手な人だ。俺は彼のこういうところが、とてもとても。
(王子、俺ね?王子の事……)

[maroyaka_webclap]