お花結び

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犬の俺だってわかる事

特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)

子供の心、大人の体

「王子、もっと」
王子は優しく俺を包む。当然それは幸せな事。なのに、俺はまたあの夜と同じにクラクラと眩暈が始まってしまう。
「もっと、王子、もっとギュ、して」
「痛くない?」
「駄目、もっと、ギュ」
「甘えん坊さんだな、今日のザッキーは。じゃ、これくらい?大丈夫?」
抱き着いていると、次第に力が入っていくのが自分でわかった。
「足りない、もっと、王子、もっと、ギュ!駄目、もっとギュ!」
「一体、どうしちゃったの?変なザッ……」
次の瞬間の事だった。耐えられなくなった俺は、ガバリと王子に飛びかかっていく。その衝撃で、コップも椅子も、そして王子も大きな音を立てて一気に俺になぎ倒されていく。
「痛ッ!」
嬉しくって、嬉しくって、物足りなくて、俺はわけがわからなくなった。前みたいに王子の顔中舐めまわしたくて、そうやって全力で好きを伝えていく。好きで、好きで、大好きで、どうすれば伝わるかと気持ちが溢れ。
「こ、こら!やめっ……危な……ガラスがッ」
はしゃぐ俺に、困惑の王子。王子の違和感はわかってる。人の雄と、人の雄は、こんな風にはあまりしない。
(いいよね?俺が悪気があってやってるんじゃないし、俺は俺なんだから、王子もきっと慣れてくれる。だって好きなんだ王子。王子も俺の事、好き?)
でも展開は俺が思ったのとは別のもの。
「ザッキー!駄目!」
ドン、と突き落とされて我に返る。王子の顔が真っ赤だった。
(あ……嘘だろ?王子、すっげー怒ってる?え?)
耳を伏せながら恐々と大好きな王子を隙間見ると、なんだか様子が変だった。
「駄、駄目じゃないかザッキー、いくらなんでもボクは飼い主だよ?そうじゃなくたって、人がお、男が男に……なんて事するんだ、キミはボクに……」
言われてハッと気が付いた。大好き、大好きとはしゃぐ俺の今やった事を王子が一体どう受け止めたのかを。
「キミが今ボクにしようとした事!ねぇ!自分が何したかわかるよね!?すっごくいけない事だよ!信じられない!」
激昂する王子の前で、思わず俺は尻尾を丸めた。けれど取り乱す王子の姿が珍しい俺は不謹慎ながら少し面白かった。
「キミが散らかしたんだ。これはキミが自分で片付けなさい!わかった?」
「は、はい……」
「音が嫌いだからって駄目だよ?ちゃんと掃除機使う事。破片は危ないから直接触らない」
 王子の上腕に血がついていた。俺に危ないと言った王子の方が、俺のせいで怪我をしていた。
(コップは割れたら危ない。破片は直接触らない事……覚えなくちゃ……王子が怒ってる)
「わかったかい?人間は!セッ……交尾に繋がるような、そういう行為は……簡単には、しないもん……なんだ、から、ね?」
王子はとても神経質な程言葉を選んでそう言った。けれどそれでも、彼の言葉は身を震わすほどに刺激的で、ようやく俺はその時、自分の身に何が起きていたのかに気付かされたのだった。王子の目線が泳いでいる。その先には俺の発情を象徴する一つの事実が。
(王子の勘違いのせいじゃなくて、俺、本当に今王子と交尾しようとしたのか?)
体がもどかしくなる時期は知っていた。同種の雌の匂いがあれば尚更の事。でも、今はそれと違って、俺は王子で発情したのだ。
「考えられないよ、シャレにならない。飼い犬に、なんて」
「あの、もしかして」
「何?」
「つまり、あれ。ですか?人間って特段発情期がないっていうのはわかってたんだけど、人間っていつでも発情する?んですか?季節とかじゃなく、」
それは率直な疑問であった。通常は歯に衣着せるであろうそれらの現象を、俺はまるで理科か何かの勉強の延長のように王子に問うた。目を白黒させていた王子だったが、さすがだ。すぐに気持ちを立て直したらしい。
「……まあ、平たく言えばそうだね」
「やっぱそうなんだ?」
「全く、キミはすっかり成人の姿をしてるからつい知能がまだ幼い子供並みだって事を忘れてしまうよ」
「でも、いつでもって言ったって、どうやってタイミング合わせるのかな」
「そりゃ言葉とかスキンシップとかで徐々に心理的距離を詰めたりしながら、かなぁ。人にとってスキンシップはある意味生殖行為の延長線上にあるものだからね。それをするにも互いの意思を確認し合うのが基本だし、それを飛ばしちゃうと犯罪になるんだよ」
「だから、犬ん時と違って、恋人同士としかギュ、しちゃ駄目なのか」
「そう」
「王子が駄目っていうのに無理矢理したから、俺、今、犯罪したってこと?」
「まあ、同意は確かにないからね。人は心も使って行為をするし」
「犯罪は、刑務所。俺、ゲージに入れられてもう王子と一緒に居られない?いやだ、そんなの」
「ああ、大丈夫だよ。ボクはキミを警察になんか」
「本当?犯罪な俺の事嫌いなのに?」
「ザッキー、嫌いだからじゃないんだよ。ボクが駄目だって言うのは、つまり男同士の交尾は事実上無理だからだ。子供も作れないし生殖行為にならない。ボク達にはまた違った関係性があるべきなんだよ」
「生殖行為?意味わかんねぇ……」
「ああ、なんだ、キミの知識はチグハグなんだね。交尾が何の為の行為なのかもわかってないのか」
「?」
「大丈夫だよ、今度わかりやすい子供向けの性教育の本でも買ってきてあげる。でね?基本的には人間の場合、発情しても暫くしたらちゃんと落ち着くから。必要な時だけって、そんな風に理性が体をコントロール出来る仕組みになってる。ほら、少しはおさまってきたんじゃないかな?」
「……」
「どうしたの?変な顔して」
「必要な時?」
「うん」
「王子、子供欲しいの?だから必要だからって、いつも交尾してたの?俺、全然そんな事わかんなかった」
「え……」
「俺だけじゃなくて子供も欲しいの?いい子いい子、したい?知らなかった。そしたら俺、どうなるの?」
王子はとても困った顔をして、また変な質問をした自分を悔いた。
「子供、っていうか」
「俺じゃ駄目だから?」
「違うよザッキー、ボクはキミが居ればそれで」
「だって、雌も子供もいるよね?そしたら俺、どこ行けばいいの?俺王子とずっと二人でここにいたい。おうちでは俺だけの事見ててよ。王子」
王子は見た事もない優しい顔で、俺の頭を撫でていた。それはそれは心地良かった。でも、いいよと言ってくれなかった事実が悲しかった。王子はいいよを言うかわりに、俺にポツリとこう言った。
「やがてキミがいつかここからいなくなっても、それから先もずっとボクと一緒だよ」
「王子?俺、どこにも行かないよ?」
「……そうだよね」
「王子の傍にずっと居させて?出て行けって言われてもずっとここに居る」
「ん……そうしてね。ザッキー、約束だよ」

 そんな事があってから。王子は前と同じ形でしばしば可愛がってくれるようになった。玩具も沢山投げてくれるし、頻繁に頭も撫でてくれる。調子に乗ってコロンと腹を見せると、流石にそれは窘められた。
「ザッキー?」
「あ……いけね……」
「人間は?」
王子が問う。
「……お腹を撫でられても嬉しくありません」
「よく出来ました」
前みたいに体中を、ワシワシ思いっきり触って欲しかったけれど、俺はちゃんと我慢をする事が出来たのだった。
「ホントキミはお利口になったよねぇ。服を着ている事にも慣れたし、言葉遣いも随分よくなってきたし。次のお休みの日にでもお散歩行ってみようか?もうその辺位なら何処へでも連れて行けそうな感じだ」
「やったー!」
「……」
「王子?どうした、スか?」
優しい優しい俺の王子はとても優しく、けれど少しずつ難しい顔をする事が増え始めていた。この先の俺の寿命や俺の人生。王子は見えない何かを見ていたのだ。俺を失う未来の予定が、彼の中で少しずつぶれてきた時期であったのだろう。

 毎夜、夢にまで見る楽しい戯れ。その頃からだ。王子との昔のじゃれ合いを思い出すと何だかとても苦しくなって、俺は時々朝に失敗をしてしまうようになり始めた。
「ゴメンナサイ。こんな事小っちゃい頃ちゃんと王子に躾けられたのに……俺、ちゃんとおトイレ、出来てたのに……」
 親の愛情不足を感じると小さい子供はそのストレスでおねしょが増える。この前テレビでやっていた。俺は自分を大人だと思うし、王子も俺を大人だと言う。王子の、ギュ、がない事についてこんなに悲しがる自分が情けなかった。
「お布団までビチャビチャにはしてないンスけど……」
 オロオロと慌てている俺を王子は少しも責める事なく、汚れた時の下着の洗い方や体を清潔にするコツを教えてくれた。二度は説明しないからと溜息交じりに俺に言うので、しっかり覚えようと頑張った。なんだか変にヌルヌルするおしっこの汚れはとれにくくて変な匂いで、ゴシゴシの時間は本当にバツの悪い思いだった。
「ゴメンナサイ、もうしません」
しょげた俺の頭を撫でて、けれど王子は何も言わず、怒りもしなかった。
(そんな顔をしないで、王子)
俺は心で、もう二度と失敗しねぇから!と思ったのだけれど、結局決心はいつも無駄で、延々と王子を裏切り続けた。その度王子は複雑な顔をして、黙ってバスルームを指さした。そのうち報告しないで洗うようになった。
 そんな、目が覚めて俺が下着を汚す事も増えたある日の事。それなりに洗濯慣れし始めた俺に大きな溜息をついた王子は、同じように複雑な顔のまま、所謂粗相をしない為の対策をコッソリ俺に教えてくれた。
「仕方がないよね。キミは人間になっちゃったんだからいつかは知らなきゃいけない事だし」
「?」
「いいかい?ボクの話をよく聞いて、絶対大人しくしているんだよ?痛くしないから我慢だよ」
あんな王子は初めてだった。
「体が重たく感じたら、自分でこうして処理するんだ。わかったかい?」
俺は王子のしてくれるその行為を大いに気に入った。やり方はすぐに理解出来たが、難しいと言ってしばしば王子に頼んだ。とても気持ちが良くて幸せを感じ、でも、やがて王子の不快な表情がキツくなって、結局自分でするようになった。自分でするのはとても虚しい。

「“女の子は月に一回月経があります”」
「ね、ザッキー、その本はちょっと音読するのやめてもらえないかな」
「でも声に出した方が俺よく頭に入るから」
「うーん、じゃ、ほどほどに……」
 人間の生殖行為の勉強はとても興味深くも難解だ。絵本の説明は率直だけど、肝心な事がわからない。犬はこんな事を考えてやらない。本能が求めてそうなるだけだ。
(欲望のままに交尾を強いると、相手が傷付き、刑務所になる……)
 そのつもりはなかったとしても、かつて俺が王子にやろうとしたのはそういう事だ。俺が刑務所にならないで本当に良かった。もう二度とあんな事しない約束で、王子は俺を許してくれた。だから、王子の嫌がる事はもうしない。
「“男の子には、精通が”、あ、王子!これ俺わかる!あれの事でしょう?ん?王子?」
 彼は逃げ出す様に買い物に出掛けた。俺は王子の教えてくれたあれの事を思い出していた。
(そっか、これを王子は俺に教えたかったのか。おねしょじゃなくて、あれは生殖行為の為の体の……)
物理的な体の反応と交尾と快感。俺のチグハグだった知識が少しずつ噛み合っていくような時期だった。

[maroyaka_webclap]