犬の俺だってわかる事
特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)
好きの形
俺と王子の勉強は、そこから先も続いていく。
「こら、あんまりそうやってジロジロみるもんじゃないよザッキー」
「だってキスしてんのとか実物は王子のくらいしか俺見た事ないし」
「言わないで」
「王子、あいつらあのままあそこで交尾するンスかね?」
「ザッキー!馬鹿な事言ってないで行くよ!」
王子との散歩は実学もかねてだ。公園に行くのも昔とは少し楽しみ方も変わった。王子の交尾については今でも考えたくはない事だったけれど、他の人間についてのそれ系の話を振った時の王子の反応が面白かった。
「わかってますよ。あれでしょ?眠る為じゃない交尾用のお泊りの場所に行ってやるンスよね?じゃないと刑務所になる」
「そう、やんないよ道端でそんな……」
「でも駄目だから興奮するんだ」
「ザッキー!」
それは事実だ。もう知ってる。
今日二人で見に行った映画はラブロマンスだった。どうも極端に走りたがる俺には、その辺の知識が大いに不足していると王子がどうしてもと譲らないので。王子はどうやら“恋愛”という概念を俺に認識させたいらしい。
「やっぱイマイチよくわからねぇっつーか。王子の事好きなのとどう違うンスかね?」
「今までキミはボクが世界の全てだったからねぇ。でも、これからは少しずつ外に目を向けていく事で、友情や愛情、家族愛なんかの区別がついていくようになると思うよ?ま、まずは三大欲であるところの性欲の概念だけはどうにか躾けておかないとなぁ……」
「王子、王子、雄と雌の好き同士は恋人になる。あってますか?」
「合ってるよ」
「好きが一杯になっていく恋人は“お近づき”になるンスよね?傍に居たいんだ。お近づきたい」
「うん」
「お近づいて、キスをする。キスって交尾の前の準備だ。そうでしょう?キスして、体触って、そんでお互いOKの状態になったら交尾する。で、恋人同士の“お近づき”が完成する」
「そうだよ?そうして恋人は子を成すつがいになるんだ。そうして家族が出来上がるんだよ?わかるね?」
「わかる。好きをぶつけ合ったらお腹の中に赤ちゃんが出来る。人間はすぐには大きくならないから、おとうさんになった雄とおかあさんになった雌で、一緒になって子供を育てる」
帰宅後も俺達二人の勉強は続く。
「なんだか俺と王子みたいだ。俺にはおかあさんがいないけれど、王子が一杯おとうさんしてくれた」
こういう事を言うと王子は喜ぶ。ほら、嬉しそうに笑っている。
「子供とおとうさんは恋人同士じゃないけど、ハグもチューもしていい。なぜなら家族だからだ。家族は繋がりが強いから交尾以外ならやっていい」
「うん、そういう事だザッキー」
「でも、大概は子供が小っちゃい間だけ?大きくなったらハグもチューも、軽くなる」
「うん。子供は子供だ。ずっと親子。愛情に変化はないけど形が変わる。大きくなったら子供もまた恋人を見つけて、新しい家族を作らなきゃいけないから」
「いつまでもおとうさんとベタベタしていちゃ駄目なんだ」
「そう。人間はそれを“親離れ”っていう。本当に離れるわけじゃないよ?でも巣立ちの準備が始まるんだよ」
「恋人と“お近づき”する為の体になっていくからですよね?」
素知らぬ顔で言った言葉を、王子は黙って受け止めた。
「成体になって、繁殖の準備が始まるんだ」
「そう。キミのその体はもう、まだ見ぬ恋人の為のものになったんだよ?」
「……処理が必要になったのが証拠?」
「ん、そうだね。今度はキミが家族を守る番だ。その準備が万端って事」
「いつもみたいなつもりでも、じゃれてたりしたら自動的に交尾する体勢に入っちゃうから、もう王子とはそういう感じになりそうな事はやっちゃ駄目」
「そういう事になるケースはきいたことがないけど、まあキミの場合は現実的にそうだからねぇ」
「俺は王子と仲良ししたいだけなンスけど」
「好きの区別がついていないせいだろうね。あんまりいい事ではないとは思う」
「……」
「どうしたの?まだ何か疑問がある?」
「ああ、えっと」
「ん?」
「いい事じゃないって、駄目な事?」
「まあ、そういう事だね」
「もしかして、それって……王子もって事ッスよね?」
「え?」
「そういうケースはきいたことがない?嘘だ。じゃれるのって人間にとっては基本的に交尾の準備だから……」
「何が言いたいの?」
「だから王子だって、俺達二人で駄目だった。だってこの前俺にじゃつかれたら、王子だって俺に舐められて体があんなに発情しちゃって」
「ザッキー!」
その後コンコンと王子に説教を食らったけれど、俺の言った事の何が駄目だったのかあの時の俺には理解出来なかった。王子の発情は単なる事実だ。スキンシップは性行為の一部であり、体を舐め合うのはその最たる行為。王子はあの日俺の涙を舐めとりながら、俺もまた王子の顔を、首を、嫌がるその手を舐めまわしていた。俺の行為に驚いた王子もまた、俺のする事に興奮をおぼえ、だからこそあんな風に俺を突き飛ばしてみせたのだから。息詰める程に乱れた呼吸、そして何より足に触れた王子のあの熱い感触が俺に教えた。
物理的な処理をしないと人間の雄は耐えられない。人間になってしまったあの日から俺に付きっきりの王子だから、別に不思議はないと思った。
「王子、別に変じゃないッスよ。生殖目的以外で急にそんな風になっても人間は理性が体をコントロール出来る仕組みになってる。そう言ってたの王子じゃないッスか。物理的な接触を受けて体が反射的に反応しても、そんな事全然気にする必要も」
率直な俺の言い分に王子は、なんだか更に怒っていた。
ある日俺は“し過ぎると馬鹿になる”と怒られたところだったというのに、全然我慢が出来なかった。
「王子、俺……」
「早く。ボクの言う事がきけないっていうの?」
抑えた声は怒鳴られるそれより怖かった。王子の体から嫌いのオーラが出てる気がした。
「今日だけ、もう最後にするから、王子、して?」
夜中に帰宅した王子の体から漂う淫靡の匂いに、俺は少し変になった。多分、王子は“してきた”のだ。それは確信に近い直感だった。
「そういうのはもうやらない。言ったろう?処理に関してはトイレと同じに自分自身で管理するんだ。どうしても我慢出来ないなら、さっさと黙って行きなさい早く」
「……王子がおうちに帰ってきた時はずっと王子と一緒に居たい」
「じゃ、ちゃんとコントロールすればいいだろう?あと、おうちじゃない。また赤ちゃん言葉がぶり返してる」
「い、家……」
「出来るじゃないか。なんでワザワザ間違える真似なんか」
帰ってきたなりから王子はとても不機嫌で、俺との会話でそのイライラはドンドン増えているように思えて辛かった。多分高ぶりがおさまっていないのだろう。
(あと二時間でも早く帰ってきてくれれば俺は、王子の願い通りお利口な留守番役のままでいられたのに。寂しくって、悲しくって、なんだか今日はとっても切ない。王子、俺の中の何かが暴れ出してる。辛いんだ、ちょっとでいいから俺にかまって?)
「王子、お願い」
「駄目だよ、絶対に」
「なんで?」
「イチイチボクに頼らないで、出来る事は全部キミがキミ自身でやるんだよ!それが人間の大人だ!わかるだろう!?」
怒鳴られて思わず身を竦めた。俺は今、とてもおかしい。
「わ、わか……」
「なら!行きなさい!早く!」
「でも、王子、なんか俺、今、」
(キツい……、どうかしてる。助けて王子、なんか変だ)
無意識に弄るその手を思いっきり王子に叩かれて、俺はビクリと耳を伏せて更に身を縮ませた。
「そう。叩かれないとわからないのは、やっぱり馬鹿になり始めてる証拠だよ?わかるかい?ザッキー」
「……」
「ボクを困らせないで。ホント……お願いだから」
下腹部が熱くて熱くて、頭も何だかボーっとする。
「キミはもう犬じゃないんだから。わかるだろう?駄目なんだよそんなんじゃ絶対ッ」
「う……や、やです。お外、行きたい。お散歩!俺の事、嫌いにならないで?」
「じゃどうすべきかくらい言われないでも出来なきゃだよ?」
「う、うぅ、王子ィ、苦しい……だって、俺、我慢し、したい、俺、お散歩も、また、い、行きたい、公園で王子と……遊ぶッ」
きゅーん、きゅーん、声が漏れる。そんな中でも王子に俺のそこをジッと見られていると思うと、とっても恥ずかしいし、ドキドキした。とってもとっても悲しい気持ち。けれどほんのちょっぴり期待もする。こんなやりとりをしている中で、時々根負けして王子がしてくれる事もあったから。それを考えるだけでひっそりと、俺はなんだか興奮する。
「ザッキー、我慢だよ。頑張って?」
王子がそれが鎮まるかどうかを、ジッと見ている。くぅ、と小さくまた喉が鳴る。
「そんな声出しても駄目だよ?お散歩。行きたいでしょう?」
「う……む、無理……」
きゅーん、きゅーん、止まらない。自分でもどうしていいのかわからなくなって、小さく王子に懇願する。
「お利口、したい、王子……いやだ、嫌いにならないで、王子、」
「全然口ばっかりで駄目じゃないか。鎮めるどころか寧ろドンドン興奮しちゃってんじゃないの?」
「う……、」
「どうしてもどうしても我慢しきれないなら、さっき言ったように一人であっち行って済ませて来なさい。それが人間のマナーだよ?」
「やだ、王子の傍が」
「あれも嫌、これも嫌、どうしちゃったんだい一体。ただでさえ頭が痛いのに」
交尾やそれに繋がる行為は、人目に晒してはいけない。そして処理は人に頼るものではない。とっくに理解はしていたけれど。己の欲望との葛藤の中、王子の言葉は俺の中にくすぶる思いにドンドン風を送るが如く。
「いつまでも中途半端なんだよ。早くちゃんとまともな人間になって」
「人間……」
「ザッキー、キミは犬じゃない。もうそんなにも人間じゃないか。そうだろう?動物的に欲にまみれる事から卒業するんだ。手間かけさせないでよ、お願いだから」
「……」
この手の話を王子は嫌う。人間の世界ではひそひそ隠れてやるものだから。だから尚更腹が立った。俺は所詮犬畜生だ。そして王子もまた俺と同じ、雄の獣に違いはなかった。
「たった今まで、欲にまみれてた奴が良くも偉そうに」
聞こえないように言ったつもりだ。でも、王子の顔が、確実に俺の言葉を捕えたのだと教えてくれていた。
実はこうなる前に前段がある。最初こそ処理を手伝ってくれていた王子だったけれど、それ以降王子と俺の距離が広がった気がしたのだ。愛の形を知らない俺に、王子は色々と学習させる。俺と王子は家族同然。俺の欲情はまだ見ぬ恋人の為のもの。俺はその説明を受ける度に、とても寂しい気持ちになった。頭を撫でてくれる事もしなくなった王子は“一人前に扱ってるって事だよ”と言う。くそくらえだと思う。お利口をして人間らしくなればなるほど、王子は俺から去って行く。巣立ちを思わせる王子の口調。そこから見える別離への不安。ここは王子と、恋人の城。王子は俺の中にある雄を嫌悪する。
(俺はじょ、りょうれ?なんてわからない。わかりたくもない。だってお利口になったら人間になって、ドンドン王子が遠ざかる。我慢してお利口してたら、ちゃんと元通り犬に戻れる?そんでまた王子と一緒にいられる?嘘だ、そんなの俺の勝手な勘違いだ。俺はそこまでお利口になれないし、それでも王子はドンドン離れていて、悪い事をした俺はもう二度と魔法使いの魔法が解かれる事なく、一生このまま一人ぽっちに)
大好きな王子を思う心が、ずっと悲鳴を上げ続けていたのだ。
[maroyaka_webclap]
