文学妄想お題ったー詰め 3
【10452文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年6月の13本分。
【お題】宮沢賢治「毘沙門天の宝庫」
あなたは宮沢賢治作「毘沙門天の宝庫」「左の胸もしんしん痛い もうそろそろとあるいて行こう」でジノザキの妄想をしてください
<SS>
遠征先のホテルのロビーで、ふらりと出て行く後姿。
(王子……?)
チームの中心とも言える存在の、王子が時々とても不思議だ。誰とでも気軽に話をする人は、その実、誰相手でも距離がある。こんな田舎の何もない街に繰り出し、あの人はどこで何をするのか?
「赤崎?」
「あ、ちょっと買い忘れもの思い出した」
コンビニ帰りの仲間達と別れ、足音を忍ばせ、あとをつける。
(何やってんだろ、俺……)
思えば前泊の王子の過ごし方を、何一つ知らない事実に気付く。誰ともつるまず、一人部屋を好み、同じ時、同じ場所にいるはずの人のことを、俺は何も見ることがなかった。
駅前は小さな小さな繁華街でも、少し歩けば田園風景。スタスタと早足で歩く王子を、俺は必死に追いかけていた。なんだか少し嫌な予感がした。現地妻と待ち合わせなんて、思えばかなりありがちな話で。そんなこんなでそれでも追って、半ば意地とも言えたのだろう。
「ここ、いいでしょう?」
くるりと振り向かれて度肝を抜かれる。でも、全部最初からばれていたとしても、なんらおかしくはない気もしていた。だって相手は王子だから。
そして彼が指差す、その向こうには。
「うわ……すげぇ……」
高台にある公園から見えたのは、真っ暗闇の空間の果ての、小さくも美しい繊細な夜景だった。
「あのあたりが明日行くスタジアム。近いように見えるけど、意外とホテルから遠いんだよね」
その姿はまるで神々の彫像のようで、世界を支配する権力者に見えた。
「やっぱり明日は雨降りそう」
星も見えぬ曇天の空を、見上げては物悲しく一言呟く。
「いやだな、雨。そう思わない?」
少しふざけるみたいに肩を竦めて、王子は元来た道を静かに戻った。
俺はとても恥ずかしくなった。現地妻?こんなにも彼はサッカーを愛しているのに。
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ある初恋の夜のお話
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