文学妄想お題ったー詰め 3
【10452文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年6月の13本分。
【お題】宮沢賢治「青森挽歌」
あなたは宮沢賢治作「青森挽歌」より「こんなやみよののはらのなかをゆくときは 客車のまどはみんな水族館の窓になる」でジノザキの妄想をしてください
<SS>
負け試合の後の移動は酷だ。体も心もみるみる重い。
「全く何が嫌って、貧乏が一番嫌だね」
あの人は今日もチクリと悪ふざけだ。デイゲームで後泊が用意出来ない、チームへのガス抜きを一人担う。言うに言えないぶつける先のないわだかまりの場所に、王子はさりげなく風を通す。
(貧乏が嫌なら勝つことだ……今日、王子はいつにも増してすごく冴えてて……なのにひとつも結果に結びつかなかったのは……)
窓の外の明かりはポツポツまばらで、スタジアムの喧騒が幻のようだ。いやというほど繰り返される、今日の自分のミスの記憶に知らず知らず眉をひそめる。誰も俺を責めるでないこんな時間を、俺は本当に辛く思った。罵倒されればこの俺だって、反発することで前を向ける。でも今はもう誰しもが体も心も言葉も重たく、その中を王子だけが。あの人だけが。水の中の金魚のように、無責任なほど軽やかだった。そしてまた時折、音も立てずに車内を歩く。その姿が窓に映って、その度、とても綺麗と思った。
「水族館、行きてぇな……」
口に出しているとも気付かない俺は、通りすがりの王子に呑気と笑われ、
「ま、それくらいがちょうどいいんじゃないの?わからないけど」
耳元でひっそりと囁かれた一言に、捻くれた心が不快になった。よし、反発すれば前を向けると、そう思った。なのにその表情があまりに優しく、なんだかドギマギ目を逸らして、そのまま俺は黙ってしまった。
フラフラ軽やかな王子はそうして、泳ぐみたいに静かに立ち去り、俺もやがて窓外の闇夜のような水底の世界で、ひっそりとひとり眠りについた。
(それくらいがちょうどいい……か)
あれだけ不快な全ての重みが、確かに今はちょうどよかった。「思い詰める」が大事な事だと、あの日まで俺は勘違いをしていた。
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出来てない。
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