お花結び

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さっさと寝ろ

【14882文字】
原作1巻より前の時系列の?ザキがジノに行うマッサージのお話。ジノデレ成分↑、ザキツン成分↑相思相愛だけど少し互いに遠慮がある感じで、思うことが思うように伝えきれぬ、色々ぎこちない二人です。ちょっとジノザキというにはイレギュラーかな。よくわかりませんが。
文学妄想お題ったーの高村光太郎「花のひらくやうに」が元ネタSS

        ジノザキ

(なんて可愛いんだろう)
 ボクはこうして彼が約束もない日に突然遊びに来てくれる事が、とてもとても大好きだった。暗い部屋に帰る事に慣れている分だけ、毎回毎回、鍵を渡して良かったなぁとしみじみ思う。
(でもこのサプライズをアテにし過ぎてもいけないよね。だってキミは5歳も若い。自由はきっとボク以上に必要だろう)
 でもほら、今日もすぐ傍にボクのちょっとした仕草で右往左往するキミがいるのはこんなにも素敵だ。笑ったり、拗ねたり、それは意外な程表情豊かで、眺めていればあっという間に気分も爽快になってしまう。
(なんだかクサクサした一日だったけれど、いい気分で締めくくれそう)
 うんざりするような事はさっさと終わらせて、早く彼とうんと遊びたく思った。彼とは楽しい事だらけで過ごしたい。怒ったり笑ったりするキミを、ただ眺めて幸せに浸りたい。

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(あ、電気が……もしかして今日も来てるのかな?珍しい)
 本当にそれは珍しい事だった。二日連続で彼が来るなんて事は今まで一度もなかったはずで、その事に気付いた時点で、勘違いかなと予防線。それでも夕焼け空に見上げた窓が間違ってない事を祈りつつ、ソワソワ足取りで部屋に向かう。
(会えるって期待して、会えなくてガッカリするような子がボクに出来たってだけでも万々歳って話だよね)
 ボクの最大の魅力はこのポジティブさにあると自分でも思う。
(ん、いいんじゃない?そういうの。上出来)
 だから鼻歌交じりで到着後のんびりドアを開け。
「どうも」
入ってきて開口一番、仏頂面の可愛いキミ。ボクは益々驚いてしまった。だって一秒でも早く会いたいと急いたボクの目の前に、仁王立ちして待ち構えているのだ。
(一体どうしたのかな?まあ、本当にキミには飽きないよ)
 やっぱりこんなのは初めての事で、素敵なサプライズに喜びつつも、その表情にヤバさも感じる。それでもまずは、ご挨拶。
「やぁ、来てたんだ?連日だなんて珍しいね」
 何やら不機嫌な恋人は、返事もしなければ、玄関から退きもしなかった。
「あのさ……それじゃボク、入れないんだけど?」

*

 お冠の理由がわからないボクに、キミは更にご立腹の様子。ゴニョゴニョ、モゾモゾ、口の中に言葉がつっかえてしまっているみたいだった。
(んー、要領得ないなー。言いたい事あるならハッキリ言えばいいのに)
ヘラリと仁王さんに話しかけても、男は全く微動だにしない。寄せられた眉毛が力強くて、なんだかこちらのおでこまで痛くなる気がする。指先でナデナデしてみようとすれば、さっと避けられ、差し出したその手を叩かれてしまう。
「痛ったぁ……もう、酷いなぁ」
 でも今の仕草なんかもすっごくかわいい。簡単に照れて頬が染まってしまう、嘘の付けないボクのキミ。
「やれやれ……」
 少々呆れながらも。ボクは仁王様を放っておいて、靴ベラ片手に、少しかがんで靴を脱いだ。けれど思わずボクがよろけてしまった時、サ、と彼の手がボクを支え、またまた驚く羽目になる。
「え?何?ハハハ、カッコイイ」
 そんなボクのからかいも気にせず、彼はプリプリと怒ったままでこんな事を言う。
「王子、今日、飯は?」
「あ、今日はまだ……だけど」
「じゃ、なんか適当に作りますから。冷蔵庫のもん使っていいですよね」
「急にどうしたの?いいよいいよ、別にいつも通りボクが」
 だってキミ大体御飯なんて作れるの?なんて。
「俺だって飯くらい作れます!いいからあんたは座っててください!」
イチイチ怒鳴られて、やっぱりわけがわからなかった。けれど、ともかく今日は大人しくしておいた方がよさそうな事はよくわかった。
(女の子なら時々ヒステリックになったりする事もあるわけだけど、キミのは一体何なのかねぇ?)

*

「あ、美味しい……」
「もっと凝ったもん作れたら良かったンスけど」
「やだなぁ、こんな時間だもの。凝ったものなんかよりパパッと作れるって方がポイント高いよ」
「ポイントって何の」
「女の子に喜ばれる?」
「はッ」
 ボクは意地悪なのでついこういう話を振ってしまう。キミはその都度嫌な顔で、申し訳ない事にそれが嬉しい。
(だって、皮肉を言われて怒るのはボクの事が好きの印だからね)
 相手を試すなんて自分でもとても悪い癖だとは思う。やられたら一気に興ざめしてしまう苦手な事を、無様なボクはキミにだけしてしまうのだ。
(他の子に言うみたいに、キミが好きなんだって、誰にも渡す気なんてないんだよって、なんで気軽に言えないんだろう?)
 あんなに簡単な事が何故こうも今難しい?
(わかってる。言えばきっと喜んでくれる。だって、キミはボクを好きなんだものね?ボクもだよ。なのに……変だよね)

 キミに触れて欲しかった。ボクの全てに。ボクの意地悪と偏屈をくぐって、言葉にせずともこの思いの全てを理解して欲しいと強く望んだ。キミにあらゆる選択の自由を与えて、それでも、その上でキミ自身の意思の力だけで、ボクの邪魔を全部蹴散らし思いっきり一途に、ボクを求め続けられたく思っていた。それがボクにとって、かけがえのない二人の関係の証でもあった。この家で二人隠れて寄り添うように、ボクはキミを独り占めにするのだ。不器用なおかえりなさい。美味しいものを食べさせた時の頬の弛み。見つめれば照れて。愛し合う時キミは何故目を閉じてしまうのかな?それだけは少し悲しい気分。ボクが起きるのにぐずってみれば、乱暴に枕を投げつけて、全く失礼しちゃうよ、でも笑ってしまう。そんな事をしでかすのはこの世でただキミ一人で、そうしてキミはボクを沢山沢山驚かせる。こんなにもキミは無自覚な無遠慮の中で、当たり前のようにボクの傍に居てくれる。だから、ふと安心してしまう思う時もある。でもやっぱり髭剃りに歯ブラシ、鍵を預けても尚、いつもキミは持ち歩いて、置いておく事すらしないでいる。
(ボク達は未だ心預ける恋人同士たりえないと?ま、そういう事だよね結局)
 それはキミがボクに引く鮮やかな一線。取るに足らないような些細ですらボクは拾い、その瞬間毎に、ああ、ボクは本当にキミの虜だと喜びと悲しみの中で実感するのに、キミは時々ボクを突き放す。つまりは。それがボクの素直になりきれぬネック。本質的な愛を囁き、それをはね付けそうなキミに怯えていたのだ。
(この子のする事って、素なだけにホント時々えげつないんだよねぇ)
 まあ、そういうキミだからこそ。そういう好きの形でもあったわけだけれど。思わずキミにつられて、こちらまで自分自身を突き詰めて考え込みそうになってしまう。飽きないけれど、でも時々自らに見える時がある。今まで知り得なかった強い孤独。一方通行の恋慕の苦しみ。

*

 そして食事が終わってもキミの不機嫌はおさまらなかった。
「片付けより先にあんたは風呂!」
「いいよ作ってくれたんだからそれくらいは」
「駄目です!」
 急き立てられるように。でも口調の割には本当に今日のキミは奇妙に優しい。これは、もしかして、もしかするかもしれない。
「あ、そうだ。王子、今日風呂禁止?」
(やれやれ、やっぱり)
 嫌な予感は的中だった。一体どこから聞きつけたやら?でも大丈夫。笑って宥めて、いつもいつも、ボクはそれをするのがとても得意だから。
「何?ボクが昨日今日と練習サボってるの、本当に怪我のせいだって思ってるの?」
「だって本当にって、実際そうでしょう?」
「ハハ、一体誰から聞いたの?そんなわけが……穏便にサボれるようにそういう事にしておいてね、って事だよ」
「嘘ついても無駄ッス」
なのに今日のキミはとても手強く、煙に巻こうにも上手くいかない。
「俺ドクターに聞きましたもん、暫く○○クリニック通うんだッつー話」
「わーお……」
本当にキミはこんなにもボクを驚かせるのが得意だ。実際ボクはこの手の情報隠避については、今まで重々注意してきたつもり。だって選手の状態とはつまり、商品価値に直結する重要機密じゃないか。だからこれまで何事に関しても秘密裏に、そしてそれが無理な時でも繰り返し繰り返し絶対漏らすなともあらゆる方面に厳命をして。
(でも忘れていたよ。キミがボク以上にこのチームとの歴史が深い事を)
 そう、キミは生え抜きのユース君。
(顔がきくって怖い話だ、あの彼女をも絆してしまうなんてね?)
その時の気持ちを、何と表現していいものかわからなかった。嫉妬なんだろうか。ボクがキミに?それとも、彼女に?それとも敗北感だろうか。ではそれは何に対して?
「昨日行ったの、結構有名な専門医なんですってね。初診だから診察時間、間に合わねぇってんで電話してすぐそこに向かったとか。なんで昨晩帰ってきた時、正直に話してくれなかったんですか?」
「……」
「そうやってなんでもかんでも隠さなくったっていいじゃねぇか……俺にまでそんな」
「……ゴメンね?」
「謝って欲しいわけじゃねぇし」
「わかってる。でもやっぱりさ」
「……」
「隠すっていうか……まだ今は1度(軽傷。ストレッチ、マッサージによるケアの段階)だったから。別にイチイチ言う程の事もないかなぁって、それだけの話で」
 勝利を愛してやまない真面目なキミにとって、チームの核であるボクの故障は余計な不安だ。ボクはポリシーとはまた別に、今はボク達の間にそんなボク自身の無様を一切持ち込みたくはないと思っていたのだった。この気持ちは「キミを思って」だけではない。ボクが、ボクの安寧の為に選んだ事だった。現に今のこの二人の空気に、ボクは既に耐えられなかった。
「怪我の大小の話してるわけでもねぇし」
「……わかってるよ。だから、ゴメンって」
 チロリと目を向けてみれば、とても複雑なキミの顔。ボクは自分が意地悪してキミがその顔をするのは好きだけど、こんな風なのはとても苦手だった。どうしていいのかわからなくなるからだ。隠し事をしてそれがバレれば、こうして不機嫌面を眺める羽目になるのは知っていたけれど、やっぱり今、案の定どうしていいのかわからなくなってしまっていた。とても困ってしまった。
「はぁ、恋人もプロって厄介だな。色々聡くて」
「……悪かったッスね、プロで」
「やだな、怖い顔」
「元からッスよ!」
ならばせめて甘い夜をとちょっかいを出せば、思いっきり手を叩かれてしまった。
(ねぇ……せっかく一緒にいるのにとても辛いよ。こんなにも息が苦しくて……嫌な気分だ)
「はぁ……」
 思わず溜息のボクに言う。
「心配されんのが嫌なら早いとこ治せって事ですよ!」
 ああ、キミはそんなにもボクに心を荒されている。だから尚更、キミへの想いを早く口に出来る日が来るのを強く望んだ。けれど。
「早く治して欲しいならもっとボクを甘やかしてよね。お風呂一緒に入ってくれないとヤダ」
「なッ!それとこれとは!」
「今日は泊まって行くよね?」
「はぁ?なわけないでしょ?泊まりはオフ前の週末だけだって以前二人でちゃんと決め……」
「だってストレッチ付き合ってくんなきゃ、ボクサボっちゃうよ?いいの?」
 怪我をしている時の独りの夜はとても怖いものだ。そんな事も素直に言えない。
「ふざッ!それくらいちゃんと自己管理を」
「たっぷりマッサージしてね?隅から隅まで」
「言い方がやらしいんだよ!」
「出来れば毎日お風呂上がりにやったらいいってドクトルが。暫くここで寝泊まりしなよ。ボクがよくなるのもキミのケア次第だよ?わー、責任重大だね?」
「~~!」
(ね、気持ち、伝わる?)
 本当は怪我の夜だけでなく毎日毎日、ボクはこんなにもキミを抱き締めて眠りたい。キミとずっと一緒に居たい。
「別にふざけて言ってるわけじゃないよ。バレたからもう言っちゃうけど、負傷したらそこ庇ってバランスとるのにアチコチ歪みが出たりもするじゃない?そしたら流石にキックの精度とかに影響出てくると思うんだよねぇ」
「わかった!わかりましたから!早く風呂!」
 今日もキミはそうやってボクに怒鳴りながら自分もちゃんと行く支度をしてくれる。本当にいつもキミはボクにとても優しい。
「言っときますけどね王子」
「ん?」
 湯船の中。日に晒されていない肌の部分がピンクに染まって、キミはこんなにも艶々に綺麗だ。
「俺があんたの言う事きくのは、俺がやんねぇとどこぞの綺麗どころ引っ張り込んで同じ事やらせそうだからですからね」
「フ、どういう意味?ヤキモチって事かい?」
「違います!あんたの体はあんただけのもんじゃなくてチームの財産の一部なんです!だからそんなわけのわからねぇ素人に任せるわけにはいかねぇっつー話で」
 キミが余計な事を言ってボクを腐したりするので。
「キミもわけのわからない素人じゃない?」
「!」
「ウソウソ。そんな事思ってないよ。お互い日常的な体のケアに関してはそれなりに本職と言えるものね?」
「そ、そうッスよ」
「フフ」
「……そこらのド素人よりは力になれる自信ありますから」
「ん、ありがとう。助かるよ。リハビリ技師さん口説き落す手間が省けちゃった」
「またそんな言い方!」
「ハハハ」
 ボクもキミを腐して帳尻を合わせる。本当はこんな事を、楽しむ自分でありたくはないのだけれど。
「……ホント、大事にしてください。王子の足の替えなんてこの世のどこにもないんだから」
(参ったなぁ)
やっぱり素でそんな事を言えてしまうキミが好きだ。ボクのこの足はチームの宝ながらも、やっぱり周りの嫉妬の対象であり、僻みの対象であり。いつでも弱みを見せるわけにはいかなかった大切で厄介なボクの武器を、キミはそうして素直に見つめ、俺らの、と共有意識をもって労わってくれる。
(いつもいつも、その、人を思いやる心はとてもまっすぐ痛い程で、こんなに心根が綺麗だ。キミほど澄んだ人間を、ボクはキミ以外にまだ見た事がない)
なんて。もう、こうして目を細めてしまうのは何度目の事なのかも全然覚えていないくらい、沢山、数えきれないほど、いつもいつも。

[maroyaka_webclap]

      ジノザキ