お花結び

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さっさと寝ろ

【14882文字】
原作1巻より前の時系列の?ザキがジノに行うマッサージのお話。ジノデレ成分↑、ザキツン成分↑相思相愛だけど少し互いに遠慮がある感じで、思うことが思うように伝えきれぬ、色々ぎこちない二人です。ちょっとジノザキというにはイレギュラーかな。よくわかりませんが。
文学妄想お題ったーの高村光太郎「花のひらくやうに」が元ネタSS

        ジノザキ

 風呂上がり。体が温かいうちにと寝室に移動し二人で組んでストレッチをする。その後、王子にはうつぶせに寝てもらって、足全体に緩やかなマッサージをする。
(触れ慣れた体とはいえ、やっぱこう……)
 王子の稀有な才能ととその故障を意識して指先で触れれば、その途端俺はもう全身びっしょりと緊張の汗が吹き出してしまう。触れられて触れ返す事と、自ら触れようとして触れる事は、やってみればあまりにも違う。
(そうだった、この人は王子だったんだ……忘れていたつもりはないけれど、改めてこう、なんだか……)
 俺は今まで何を考えて当たり前のように王子に触れてきたのだろう?その無神経さに改めて驚く。
「ん……」
「あ、ちょっと強かったッスか?」
 吃驚して手を引っ込める。 
「ううん、気持ち良くて思わず声出ちゃって」
「ちょ、だから変な言い方すんのやめてくださいよ!」
「え?」
「あ、いや、なんでも」
 意識し過ぎが恥ずかしい。でもうつ伏せている王子が肩越しに振り向いてもきっと俺の顔は見えないだろう。どんな顔をしているのか見られたくない俺は、その事に心から安堵する。
「ハハ、変なのはキミだ。ね、今日してくれた子より上手いかもよ?ほら、お風呂前はあんなに張ってたのに随分……」
 節がありながらもスラリと伸びる王子の指先の繊細がスルスル、自らを愛撫するように痛んだ箇所を這いまわる。
(からかってんのか、天然なのか、王子ってマジで時々わかんねぇ……ちょ、おい!そういうやらしい手つきやめろって)
 なんだか勝手におかしなムードになり始めた俺の気持ちも知らない王子は、さもゆったりとリラックスしている。こんな俺に当たり前に全身預けるような信頼を寄せて、世にも稀有な才の塊のそれを、どうぞとばかりに差し出してしまう。
(俺なんかにこんな任せちまって、不安とか全然ないのかな?)
 所謂、身に余る程の光栄と言える。さっきも一緒に風呂に入った。肌を合わせた事だって何度もある。なのにいつまで経ってもとても正視しきれぬ王子の肢体は、その筋肉の一筋、血管の見え隠れさえ完璧な美だった。
(でもいくら綺麗だからって、マッサージすんのは足なんだからパンイチでなくても上くらい着たらどうなんだ)
 そう思ったら尚更、この部屋で見慣れたあの変なイメージが脳裏に浮かぶ。ふるふると頭を振って、取りあえず休憩、と大息をつく。
「ん?嘘もう終わりなわけないよね?」
「当たり前でしょ、まだ全然ですよ。ほら、真っ直ぐしててください」
「フフ、よろしく」
(冗談はさておきだ。しっかりしろよ、うっかり更に痛めちまったらどうすんだ俺)
 気を取り直さなければいけない程度には、王子の足は良くなかった。
(王子、何が良くなっただよ、全然ガチガチじゃねぇか。これ、軸足じゃない方も結構ヤベェ気がする)
 何事も優雅にこなす王子のプレイスタイルを思えば、あまりにも違和感のある現実だった。でもあれだけの威力からすれば、負担が体にないわけがない。何本も何本もセットプレイをこなす王子だけれど、チームのチャンスは同時に、この足を再三に渡り痛めつけるピンチでもある事に気付かされる。
(知らなかった王子……俺、全然気付いてなかった。不真面目だって王子のあのサボるプレイスタイル叩かれてるけど、素知らぬ顔してガッチシ体酷使してんじゃねぇか)
 骨格、筋肉、柔軟性。頭脳に体格という物理的な資質を含めてサッカーの才だ。俺は昔から体が丈夫で、それを医者によく褒められた。故障しにくく、治りが早い。それだけで既にアスリートとしては一流なのだと。
(この人がオフの度に体細くなるのって、美意識とか筋トレのさぼりとかそういう事より、もしかしてそもそも体の負担を少しでも軽減する為なのかな。それとも元々が体作るのに向いてない体質で、色々無理してる部分があるのかもしれない)
「足終わったら、……背中の方とか、全部やりますから」
「おや、サービスいいねぇ。キミが穿け穿けっていうから穿いたけど、やっぱりこれいらなかったんじゃない?」
「っておい、何いそいそパンツ脱ごうとしてんだよ!そこのマッサージはしねぇよ!」
「え?全部やるって言わなかった?ケチだなぁ」
「ケチじゃない!」
「だっててっきりマッサージしてるうちに、キミ、その気になっちゃったのかと」
「なってないッス!」

*

 気持ち固さが解消された王子の体は、全身に塗り広めたクリームの湿度も相まって、磨き抜かれた彫像のような輝きを放っている。寝室と風呂以外ではあまり肌を晒さぬ男の、人目にウブな禁断の色香だ。
「さて、こんなもんッスかね」
 俺がそんな風に声を掛けても、王子は返事をしなかった。
「あれ?王子、寝た?」
 マッサージをしているうちに眠くなる事はよくある話だ。でも、日常的に使い慣れたクラブハウスのボディーケアルームでさえ、こんな無防備な王子を俺は一度も見た事がなかった。よっぽど気持ちが良かったんだと思うと、なんだかとても嬉しかった。
 そう、と肩越しに王子の顔を覗きこむと、伏せた瞼が急に開いて、
「わ!?」
 そのまま抱きつかれて、チュ、チュ、とキスされてしまう。
「狸かよ!」
「ううん、ウトウトはしてた」
「こら、なぁ王子、駄目だって」
「うーん、いいじゃない、ねぇ?」
「よくない!」
 クリームでいつもとは違うしっとりとした艶めかしさを持つ王子の腕は、瞬く間に俺の服の中に侵入を果たして、うかうかしているとあっという間に身ぐるみはがされてしまった。
「あッ、駄目、おい、卑怯だぞ、怪我人相手にまともに抵抗出来ないのわかっててあんたは」
「フフ、そうそう怪我人なんだからうんと労わってね」
「労わ……、だから、さっさと大人しく、寝、ろ……ぅあッ」
 逃げ暴れた姿勢はそのまま背後を取られる失策となって、上半身をまさぐっていた手の片方が簡単に俺のすっかり興奮してしまっている下腹部へも滑り込んできてしまう。
「フフ、ほらやっぱりだ」
「……っせぇ、変な事してっからだろ?やめればすぐにこんなもんおさまっ」
「じゃ、おさまんないうちにさっさと済ませちゃおう」
「注射みたいな、言い方、しやがって」
「ハハ、遠からずだね」
 まさに勝手知ったる、と言わんばかりに、王子は俺を弄ぶ。指先で、手のひらで、抑えきれぬ声が時々漏れて、そして何より、俺を後ろ抱く王子の熱さが体の疼きを煽りに煽る。ここまで来ると最早昂りをおさめる事も叶わず、へなへなと体は弛緩を始めて欲が理性を蹴散らしていく。だって俺達色々予定も合わずに、ここ最近随分御無沙汰だったのも確かな話で。
(あ、駄目だ、したい……)
 とうとう理性が観念して、王子のされるがままになっていく。こうなってはもう王子の言うようにさっさと済ませる事が肝心だ。相手は怪我人なのだから。
「おや急に大人しくなった」
「っせえ!……ん……」
「気持ちいい?」
 余計な事を言うなというつもりで肩口から思いっきり睨みつけてやったつもりが、
「わ、その顔、色っぽいね」
と、ねっとり目元を舐められてしまう。みるみる脱がされた俺がムカつくのはこれだけ煽っておきながら王子が例のあの最後の一枚を脱ぐ気配もない事だった。
(クソ、もう指はいいから、とっとと……)

*

「ね、脱がせて?」
焦燥の中の俺は突然の事に我が耳を疑う。でもその表情から何を言わんとしているのかとてもよくわかってしまった。
(あぁ、王子やっぱり痛いんだ……?)
 思えばついさっきイソイソ自分で脱ごうとしていたのを見ていたはずが、俺は本当にマヌケだった。素直に指示に従い脱がせてやれば、王子はとてもいやらしく微笑み、そのまま仰向けに寝そべって、
「じゃ、はい」
「はい?」
「うん。きて?」
なんて腕を差し出す。
「はぁ?」
「無理できないもの……だから今日はキミに頑張ってもらえたらなーって」
その切なる表情はまるで滑稽な程大袈裟にも見え、だがしかし王子がこうして必要以上に茶化して頼み事をする時は、反対にとても真面目な時が多い事を俺は十分理解していた。だがしかし。
「いや、頑張れって言われても」
「ケア、してくれないの?」
「だって……」
上に乗るなんてやった事がない。でもグルグル思案の中、それ以外に王子に負担のない体位がない。してもらおうと思えばどうあっても彼の腿裏を酷使する。
(ああ、そうか。だから最近俺達全然してなかったんだ?……クソ、王子、あんたはそうしていつも黙って……)
 今更気付いてしまう真実。俺は、ギリ、と奥歯を食い締めていた。

*

 王子の上に乗る。跨って王子を見下ろし腰を振る。考えただけでその倒錯に昂りはいや増し、でもどうしても俺はその最初の一歩が踏み出せない。
「ん?」
 横たわる王子がその横で正座する俺の下肢にスルスルと腕を伸ばし、思わず弾けてしまいそう。だからどうにでもなれと物凄く乱暴なやり方で王子に覆いかぶさった。
「わ……驚いた」
 組み敷く倒錯に自分の中の何かが切れてしまった気がした。ただあとはもうガムシャラ、手伝おうかと差し伸べる手ももう一度振り払い、俺は俺自身の手で、王子を深々と飲み込んでいく事に成功をした。
「偉いね、ちゃんと出来た」
「っせぇ!お、大人しくしてろよ?王子」
「わぁ、カッコイイ」
 カチンときて手を振り上げたけれど、久しぶりの行為の為にそんな些細にも痛みが走る。
「あ、大丈夫?」
「へ、平気ッス」
「ゴメンね?大人しくしてるから」
だから、動くのは少し馴染んできてからでいいからね?なんて抑制の言葉は逆に煽りで、けれどそんなものがなくとも俺は、いつもとは違う体位による未知の刺激に、簡単に夢中になり始めていた。
(なんだこれ、ヤベェ……)
 足を痛めている王子への配慮もするつもりが、恐々揺り動かす腰はあっという間に貪り蹂躙するようなそれにかわる。
「お、王子、大丈夫ッスか?足……」
「うん、平気。上手だよ。気持ちいい」
見上げるか見下ろすかでこんなに気分が変わってしまうなんて知らなかった。犯されていながらも犯しているような?そんな自分が根っこまで男であった事を本能の充実が体の隅々に知らしめる。
 いつも薄暗く影になって見えにくい王子の顔と体が今日はライトの下で恥ずかしくなるほど赤裸々だった。官能に僅かに寄せる眉、薄く唇開いた卑猥の愉悦。取り繕われた日頃の表情が破れて露出するような、見てはいけない性の魅力。いつしか俺は反り返るようになりながら、俺のを愛撫する王子の手の上から自分の手を添え、自ら快を求め求めて、淫らなままに喘ぎ始めた。
「ん、激し……」
「も、もう、イキそう、王子……どうしよう」
「そんな、これ、気持ちいい?」
「きも、きもちいい、あ、あ、王子、イケそう?、も、俺……」
「ん、すっごくボクも気持ちいい。いいよ、もっと気持ちよくなって?」
「ッ!」
 俺の動きに合わせて王子が官能を増幅させるように下から煽って、力強いその穿ちに俺は全身を痙攣させるように達してしまった。吐き出されたものは俺と王子の指を濡らし、それをくぐり抜けた滴がポツポツと卑猥に王子の臍わきを汚していた。その光景にゾクリとして、更に僅かな吐精が数回に渡って起きたのだった。呆然とそのまま固まる俺に、王子は笑いながらこう言った。
「一杯出たね」
 本当に心底今が恥ずかしかった。王子の長い指がティッシュを求めて、でも暫し止まって口元へ。
「王子、やめろよそういう」
「何故?」
「汚い」
「そう、思う?」
窘めるような目つきが「ボクのも汚いと思っているのかい?」と言っていた。
「いや、別に、王子のはそんな事……」
「キミのも汚いなんて思った事ないよ?」
 そしてふと生じるちょっとした沈黙。とても気まずく。でも、
「……好きって、そういう事だと思う」
とポツリと漏らした王子の言葉に、俺は恐ろしく赤面させられる羽目になった。これが愛を囁かぬ王子から俺への、初めてのそれらしい言葉だったからだ。
(王子、どうしよう……滅茶苦茶嬉しい)

*

 すっかり寝支度を整えた二人はふんわりと抱き合いながら、ポツポツとなんてことはない会話を続けていた。
「いい加減寝ないと」
「そうだね。明日も早いし」
「……」
「ん?どうしたの?」
「王子、足、大丈夫でしたか?」
「ん?うーん……」
 言葉を濁されて不安になる俺に王子は、フ、と笑ってこう続けた。
「ああ、ゴメンゴメン。大丈夫だよ?」
「本当に?さっき結構最後の方無理させちまったし」
「大丈夫だって」
「でも」
「いや、大丈夫だって言ったら、明日はここでボク一人なのかなー、とか思っちゃって」
「え?」
「なんとかうまい事キミを引き留めらんないかなぁって。よくないね。そういうのは」
「王子……」
「今日は色々ありがとう。一杯ボクのお世話させちゃったね?」
 さっきの王子の説明する好きの形や、今の俺への感謝の言葉を受けて思う。俺は確かに色々王子の子守をしたが、それにも増して沢山のものを王子からもらったのだ。ささやかな労りの言葉が俺の心をこんなにも満たすので、なんだか急に抱きつきたくなる。
「ん?」
「なんか急にこうしたくなっちまったから……」
 王子はクスクスと笑いながら、子供をあやすように髪を撫ぜて、なんだかそれが気持ちよくて俺はウトウトし始めてしまう。
「おやすみ」
「王子は?」
「ん?」
「眠れそうッスか?」
「ん、ぐっすり眠れそうだよ。キミが居てくれるおかげで」
 ふわふわと夢心地の言葉が降り注ぐ。
「怪我には休息が一番の薬ですもんね」
「そうだね。細胞の修復は寝てる時間に行われるって話だし」

[maroyaka_webclap]

      ジノザキ