お花結び

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さっさと寝ろ

【14882文字】
原作1巻より前の時系列の?ザキがジノに行うマッサージのお話。ジノデレ成分↑、ザキツン成分↑相思相愛だけど少し互いに遠慮がある感じで、思うことが思うように伝えきれぬ、色々ぎこちない二人です。ちょっとジノザキというにはイレギュラーかな。よくわかりませんが。
文学妄想お題ったーの高村光太郎「花のひらくやうに」が元ネタSS

        ジノザキ

「本気?ただの冗談だったのに」
 翌日練習帰りに大荷物抱えて顔を見せると、王子はそんな風に言って笑った。
「だって毎日ストレッチした方がいいんでしょ。あんた一人だと絶対サボりそうだし」
「えー?信用ないんだ?」
「当たり前でしょ」
 信用していない?本当はそうではなかったけれど、ここに居られるチャンスがあるならそれを生かさない手はないって話だ。
「つかあんたなんでまだゴロゴロしてンスか?病院は?」
「午後からなんだよ」
「そッスか。あ、一緒に行きましょうか?運転しますよ?」
「いいよ、大丈夫」
 王子の言葉はリップサービスで、少し図々しいんじゃないかとも少し怖くて、でもさも嬉しいと言わんばかりにクシャクシャ頭を撫でられる事で、その不安もたちまち消えていった。やめてくださいよ、と嫌がる素振りをしてしまうけれど、俺はこれをされるのが好きだった。

「おかえりなさい」
とこの家で王子に迎えられる度、それでも俺は、
「お邪魔します」
と必ず言った。それは俺なりの配慮だった。王子はとても優しい人で、でも、間違えてはいけないと思った。夢の実現はおそらくはほんの数日ばかりの、淡雪のようにささやかなものに違いないからだ。
(俺が自分で思ってるほど、俺は王子の恋人じゃない。ちゃんと自覚してっから)

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「キミによくしてもらったおかげで」
集中治療的に病院に通っていたのは本当にほんの数日だった。
「ありがとう」
王子は日常のケア体制に戻り、明日から練習に復帰する。寂しいなんて、罰が当たる。
「良かったですね」
笑って帰った。トボトボと。

*

 優しいキミとの日々が幸せ。治りたくないなんて、罰が当たる。感謝の気持ちでお礼を言ったら、キミは少し複雑な顔。
(そう、キミも楽しかったんだね)
しょんぼり顔で帰るキミに、嬉しさ半分、寂しさ半分。

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 あれから随分してからの事。転んだ俺に王子が言った。
「痛めちゃった?」
「いえ、大丈夫ッス」
「そう?」
 俺は頑丈なのが取り柄なのだ。
「ねぇ」
「何スか?」
「キミに何かがあったら、今度はボクが看病してあげるから」
縁起でもない事を言って、きっと王子は俺をイライラさせようとしたのだろう。でも俺は意外な言葉になんだかドギマギと動揺をする。
「なッ!……い、いらないッスよ!逆に悪くなりそうだ」
「それ随分失礼じゃない?」
 俺は返しを間違えたろうか?王子が僅かに眉をひそめて、半分本気の心配だったのかと、戸惑ってしまった。
「……やめてくださいよ、こんなとこでそんな」
照れてポソポソと人目を気にして王子の耳元でこう囁けば、クスクスとさも楽しそうに笑っているので、
(あ、やっぱりからかわれてたのか)
と、俺は益々恥じ入る羽目になった。

 王子がある種の好意を俺に寄せているは確かな事だ。けれど、それは俺とは同じ形ではないのもよく知っている。
(どうせ俺は王子の手のひらの中で、でも王子にとっての俺と言えば)
 卑屈のつもりはなかった。分相応とはそういうことで、間違えれば全てご破算になる。勘違いをしてはいけないといつも心に誓っている。なのに、巧妙な優しさにいつも俺はひっかかる。無責任な王子の、騙されたければ騙されていいよ、と、そんな仕草に心が揺れる。

 俺の心は常に乾いて、時々潤い、兎にも角にも、王子が笑わねば息も出来ない不自由な日々。それでもいつまで続くかわからぬ毎日に、俺は確かに幸せをおぼえた。

 いつまでも続くと知らないあの頃の俺は、プレイスタイルと同様、洗練の欠片もない、ただガムシャラばかりのルーキーだった。

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