文学妄想お題ったー詰め 4
【23928文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年7月の17本分。最後のやつだけ本誌ネタバレ的なSSになっています、注意。
注意:7/30の本誌読んだ直後に書いたネタバレあり?の中断期のETUでのSSです~。尚、このジノザキ出来てない
【お題】高村光太郎「人類の泉」
あなたは高村光太郎作「人類の泉」より「あなたによつて私の生(いのち)は複雑になり 豊富になります そして孤独を知りつつ 孤独を感じないのです」でジノザキの妄想をしてください
<SS>
中断期の練習は試合が先とあって、いつもは随分と呑気な調子だ。けれど今回は例の選出のおかげで、まるで違う空気になっていた。
ただあの男一人を除いて。
「で、どうだったの?この前の試合」
「え?王子、見てなかったンスか!?あの試合でデビューしたンスよ!?椿!」
スタジアムで観戦したメンバーは勿論、選手だけでなく沢山のスタッフまでもが全員、椿の健闘に触発を受けて、そして、その中でも一番張り切っていたのがこの赤崎だった。だからジーノと番犬との今の温度差はあまりにあまりなレベルで、赤崎は呆れるのを通り越して、人間性まで疑いたくなる。何故ならジーノはのんびり足元にあるボールを嬲って、いつも以上にお気楽だからだ。
「信じらんねぇ……なんであんたはそういつも……」
それでもやる気がないならこの仕事をやっているわけもなく、赤崎はいつも戸惑ってしまう。
(一体どうなってんだ……頼むよ、あんたがヤル気出さねぇとどうにもこうにも)
調子っぱずれのジーノに対して、いつも自分まで調子が狂う。それでも仰せのとおりと言わんばかりに、赤崎は丁寧に説明を始めた。生で見るウルグアイは想像していたより凄かった事、ビハインドで呼ばれた椿の重圧。その次元の違う大舞台に立つ後輩が、周りに見せた頼もしさ。けれど自分がそれを問うておいて、ジーノは興味なさげに肩を竦める。
「王子?」
「わかってないなぁ」
「は?」
「そんな下手くそな実況解説まがいの講釈をボクが聞きたいわけがないだろう?」
「え」
「この前の試合を見て、キミは何を得、今何を思って練習してるの?ってボクは訊いてる」
そうしてポンっとボールを蹴って、赤崎が慌ててトラップをした。
「バッキーがどうだったかなんて別にキミに尋ねるまでもなく帰ってきたら本人に訊くさ。試合見てて具体的に気になったシーンもいくつかあったしね?」
(なんだ王子見て……、え?)
やる気のなさげなその表情の影に、絶対的な司令塔を自負するプライドと情熱がチラリと感じられて、赤崎はゾクリと気圧された。
「キミは?あの舞台で重圧の中をバッキーは多分笑っていたよ?その威勢の良さはどこまで本気?ただ一生懸命頑張る事自体に酔う選手なんてくそくらえだからね」
そこからジーノの詰問が始まる。
「バッキーはファーストタッチでチャンスが惜しいで終わってしまった。キミなら?」
「次のシーンも特徴的だ。あそこで自分で行かずにパスを出した。キミなら?」
まるで自らピッチに立っていたように、ジーノは逐一質問をした。
「バッキーの特徴と、キミの強みは?その一番の違いと絶対に勝てると自負する個性は?」
「あそこはうちではキミの城だ。中盤、トップ下、右SH。あの子はなんでもそこそここなす。では、うちの右のファーストチョイスがバッキーになった時、キミは一体どうするのかな?」
質問の速度があまりに速くて、赤崎は一つも返事が出来ない。
「あの子は笑ってキミに食いつく。そうしたら、お人好しの先輩面で泣きを見るのは?」
(あ……)
実際に自らの城を奪われた過去を持つ男は、寒気がする程優しい口調でいながら、刺すような冷たさでそれを言った。その壮絶さに膝が笑い、ようやく赤崎はこの段になって一体自分が何を示唆されているのか理解した。
「より具体的に課題を落とし込んでいく必要がある。呑気構えてる場合じゃない」
その時、ジーノと赤崎を呼ぶ声がした。
「さぼってる暇なんかねぇぞ!わかってんのか!」
誰よりも温い姿勢の男はそのまま、呑気に。
「さぼってなんかないよ、ボクはビーチの太陽のように情熱的さ?いつだってね」
「いいからさっさと来い!」
けれどジーノは赤崎にだけは。
「やってるつもりかもしれないけれど、つもりばっかりで随分温い」
「……」
「ただ馬鹿みたいに走り回る、元気で愚かな犬なんてボクはいらない」
吐き捨てるように言い残して、ジーノはスタスタと歩き出した。その時赤崎は身震いしながら、ジーノのその背にこう叫んだ。
「わざわざ焚き付けられなくてもやってやりますよ!俺だって絶対にあの舞台へ」
風になびいた髪を掻き上げる際に、ジーノがこちらを振り向いた気がした。
(あ……)
その顔はとても満足そうで、赤崎はその表情に力が抜けた。そして、その顔一つで理解した。
――焦る為だけに見に行ったのかい?違うよね
強い言葉を投げつけられて、悔しさと心細さで目が覚めた。
「あの試合で何を得、何をするためにこれをやるか……か」
心にはいつもいつも、一つの理想。
(王子も?王子もまたあの時のあのピッチの自分の城で、何をどうするか考えて?その時右を走るのが椿か俺か、それを仮定してプランを練った?)
見えてきたのは可能性の世界だ。ジーノと椿と赤崎がともに、あそこに立った時何が出来たか。情熱、技術、持久力共に、足りないものは沢山あって、それでも。
(王子と俺で切り開く何かが?王子はそれが見えた上で、俺にそれでは足りないと言ったのか?)
赤崎は離れていくその背を見ながら、
「やっぱ王子にはかなわねぇな」
と独り言。
(よし、やってやるゼ、王子!それをあんたが俺に見せる気がないなら、追い詰めてでも吐き出させてやる!)
「おい、赤崎!お前も早く来い!」
「……ッス!」
強い激はリスタートの合図で、赤崎はにやつく顔を抑えもせずに、一気に駆け出し合流した。
太陽は高く輝き、風は吹き、赤崎はこの世の全てが世界に繋がっているのだと、そんな事を感じていた。
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A代表の試合観戦、可愛かったねー
[maroyaka_webclap]
