お花結び

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文学妄想お題ったー詰め 4

【23928文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年7月の17本分。最後のやつだけ本誌ネタバレ的なSSになっています、注意。

【お題】芥川龍之介「歌集 桐」

あなたは芥川龍之介作「芥川龍之介歌集 桐」より「君とふとかよひなれにしあけくれをいくたびふみし落椿ぞも」でジノザキの妄想をしてください

<SS>

 キミとはついぞ、一緒に外出をする事がなかった。別にそういう関係ではなかった。それでも確かにチームメイトで、沢山の時を共に過ごしたのは一つの忘れがたき事実ではあった。

 ボク達は、価値観も生活スタイルもまるで違った。遠くかけ離れている日々の中で、キミはキミの夢に酔い、ドンドン遠くを見つめて走った。嫉妬と激励、情熱、挫折と、延々キミは独り相撲を続け、関係のないボクはと言えば、ただ、よく頑張るなぁ、なんて、呆れ顔で見つめていただけであった。

 キミの葛藤は誰の目にもわかりやすくて、でも、その絶望の深さをボク以外知る者はいなかっただろう。何故なら、クラブハウス脇の木々の物陰、そんなところにそんなものがあるなど、ボクはその日まで気付かなかった。そして、たまたま例の運命の瞬間が訪れる事も、当然知る由もなかったのだから。
「み、見なかった事にしてください」
「何を?」
 偶然見かけた落椿を踏みしだく無表情の。キミはとても醜くかった。また、その狼狽の酷さがあまりにも大きな憐れを誘った。慌てたキミは言わなくてもいい事をボクに言って、それ故自らの秘密をボクに握られる愚かを招いた。一歩遅れてその事に気付き、自責の念で舌打つマヌケを、ボクの前で晒し続けた。
「じゃ、お疲れ、ザッキー」
 親切なボクはキミの願い通り、何も見ていない顔をした。そして最後の別れの日まで、そのままそれを通し続けた。けれど、いや、だから尚更?ウブなキミは面白いように落ちていった。いつもボクの目を意識し、それを振り払うべく大いに走った。そうして自責の弾圧に落ちれば落ちる程、キミは洗練の清らかさを恐ろしく保つようになっていった。
(可哀そうに。あまりにも自らに潔癖すぎるキミ)
 キミはキミ自身の邪を許せなくなるばかりで、その日からボクはキミの神になってしまった。それはとても不思議な縁(えにし)で、キミはボクに恐れおののきながらも、キミの愚かを知る者がいるという密やかな共犯関係の中に、僅かながらの安堵を得ていた。ボクは望まれるままにキミの目に宿る汚濁を密かに犯し、その断罪をこそキミは強く欲望していた。

 あの日々はボク達の中で、一体どういうものだったのか。花落つる季節が巡り、ボクは潔く散る椿を見る度、あの日のキミの背を思う。
「フ……こんなものを人目を忍んで踏んだからって、一体誰が何を責めるというのか……」
 ボクは時折木々の下で、あの子を真似て花を踏む。グシャリと潰れた花よりも醜い、あの日のあの子を思い出す。それはまた落つる椿よりも残酷なまでの儚さがあり、その一瞬の鮮烈なそれは、未だボクの心を捉えたままだ。
(キミがボクにあれを見せてくれたのは、本当にあの一瞬だけだったね)

「ザッキー、今日も頑張ってるかな」
 風の便りで知る彼の人生は、強く、逞しく、美しく。その成長は目覚ましい程で、その素晴らしさにボクは微笑む。だって、彼の中には未だボクの姿をした神がいるのだ。おそらく全ての醜さを見つめる神のボクが今この瞬間もキミを責めて、過酷の世を生きる孤独なキミに「己を律せよ」と強いているだろう。
 もう二度と会う事もないだろうボクとキミ。それでもあの偶然の出来事一つで、二度と絶てない呪縛が出来た。だからボクはこうしてここに居たまま、人知れずキミを救い続ける。遠く離れていながらも吐息触れ合うような親密を感じ、贄のように誰よりも深く心突き刺しあった二人のままで。
「いいよザッキー、死ぬまでこうして共に生きよう」
 何度も何度も思い出すのは、あの日のボクを芯まで抉った、誰も知らない激しい鋭利さ。咲いた椿は生ける鮮血の輝きのそれで、落ち椿の色の鈍さは秘せねばならない繋がりに欲(よく)した、心疚しいボク達の贖罪。


ちょっと昭和臭ある耽美をイメージw

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