文学妄想お題ったー詰め 4
【23928文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年7月の17本分。最後のやつだけ本誌ネタバレ的なSSになっています、注意。
【お題】高村光太郎「人類の泉」
あなたは高村光太郎作「人類の泉」より「けれども 私にあなたが無いとしたらーー ああ それは想像も出来ません 私にはあなたがある あなたがある」でジノザキの妄想をしてください
<SS>
赤崎の気丈さは脆さの気丈だ。情熱、信頼、期待、希望、人々のそれらに過敏な分だけ、使命感と責任感が人並み以上に大きく育った。そして日常そんな赤崎から零れ落ちる強い言葉の裏側にいつも、ジーノは純粋でウブな温もりを見つけた。
(でも、それでは命がいくつあっても……)
獰猛な外面とは裏腹な内面がジーノの目に切なかった。澄んだ魂にはくっきり、脆弱さ、不安定さ、小ささ、幼さが浮かび上がって、自分本位に泣く事をも許さない潔さ故に、赤崎は毎日大量の傷を負い続けていたのだ。赤崎の意地と勇気は、その傷の痛みを感じるどころか気付く事すらさせなかった。気にする事など一切不要と前を向いた。
男とは、アスリートとはそうあるべきだと意志する赤崎の矜持は、素晴らしくも痛々しくもあって、それに惹きつけられる度ジーノは、密かに我が事のように眉をしかめた。何故なら、赤崎が他者の中の希望に過敏な資質を持つように、ジーノは人の痛みに過敏であった。見ていられない男はその姿を見ていたくないが故に、ある日から隠避を試みるようになっていった。
けれど、あどけない子犬の魂を持った男の表層は、まさに獰猛な野性の狼。それ故巧みなジーノをもってしても、最初癒すは愚か、近づく事すらままならなかった。
「ハ、何スか?それ。あんた馬鹿か?通らなくて怒るとか、まずそっちの出したパスが理不尽だったからに決まって」
「理不尽?笑わせる。弱い犬ほどよく吠えるよね」
「なッ!」
「届かなかったのは100%キミのせいだろ?なんでボクのせいにするの?」
「はいはい、そういう事にしときゃご満悦ならそうしといてやりますけどね」
「自分のせいだってわかってるのにそういう意地っ張りホント陳腐だ。もしかしてボクを笑い死にさせたいのかな」
鍔迫り合いの日々はその後も続いた。
「最近俺にばっかり一体何なんです?他人のプレイ腐してねぇで、黙って練習出来ねぇのかよ」
「おやおや、ボクが黙ったらもっと不安になるだろうに」
「そんなわけ」
「ボクの言う事はいつも図星ばかりだろう?自分に言い訳して精一杯やってるふりをするからワザワザ指摘してあげているんだけど?」
「いいじゃねぇか!俺がいいポジにいるからボール寄越してんだろ?打てたし入ったんだから、トラップいれようがいれなかろうが別に形なんてどうでも!」
「いいわけないだろう?キミ、プロなんだからそれくらい出来て当たり前なんだし。怠慢だよ、怠慢」
「俺が練習してないとでも!?ふざけん」
「やってるかもしれないけれどやってるうちに入らないってことさ」
「なっ!」
「ま、練習しないと出来ないレベルでもボクなら恥ずかしくて顔を上げて歩けないけどね」
「知らねぇよ!」
攻撃力において赤崎がジーノに敵うはずもなくて、何度も執拗に繰り返されるジーノの駄目出しに対して赤崎は、ドンドン自尊心が傷つけられて、発奮するも挫かれて、そうしてみるみる疲弊しながら、精神性の自由が損なわれていく事となった。何故なら、ジーノの指摘はジーノ自身が言ったように、全部赤崎が自分で至らなさを感じた場面ばかりだったのだ。そうして気付きながらも「まあ、そこそこやれた」と保身に走った瞬間にこそ、ジーノは逃げ道を塞いで、未熟に向き合えと強い言葉で叱責をした。つまりはプレイの駄目だしに見せかけた人格攻撃だったのであり、それでもそれに耐え続けたのは一重に赤崎の気丈故。
選手として、人として、死ぬか生きるというレベルの執拗なジーノの弾圧のそれは、自然界における雄同士の、ガチンコの縄張り争いのような権力闘争だった。誰にも屈服する事のなかった赤崎をもってしてもジーノの無敵さはあまりに圧倒的であり、抵抗どころか最早唸る力すら消されていった。
「そう。ようやく理解出来たようだね。馬鹿はボクじゃなくて、言われないとわからない、言われてもそれに向き合えなかったキミの……」
威勢よく牙を剥いていた日々が嘘のように、赤崎はまるで何も言い返せなくなっていった。
「現実を受け入れてボクに従うことだよ。そうすればキミはよりよく成長出来るだろう」
それでもこの完全なる敗北と、それに伴う絶対的なジーノへの服従は、いつしか孤独な赤崎にとって、不思議な癒しとなっていった。何もかも一人で背負おうとした全てが、ジーノを得た今は軽く思えた。だってジーノは怠惰を許さないのだ。自分以上にジーノが見張る。
「何が何でも成長したいんだろう?ちっぽけなキミがその尊大な願いに相応しくなる程。そうだよ?ボクは敵じゃない。わかるよね?」
逃げようにも、逃げられない。自分を許さず常に見張っている他者が出現したという事は、赤崎にとって一つの救いでもあったのだった。己を律するのは己自身でも、ジーノは保身で見逃しがちな部分でさえも、いつでもくまなくチェックする。
野性を失わないままに飼いならされた、赤崎を傍らに今日も眠る。
「ゆっくりお休み」
ジーノの苦手な赤崎の傷については、最近治癒力が増し始めていた。期待に応えようとふらつく足元を、ジーノに支えられる事に慣れてきたのだ。その日々に癒しを得たのはジーノも同じで、それでも目を細めながら詭弁を語る。
「全くまたこんなに怪我して帰って……うんざりする程手がかかる子だね」
ジーノにとってはまるで些末な出来事であったとしても、赤崎は今日も昨日も傷付いてしまった。自分の不甲斐なさ、惨めさ、至らなさ、周りの期待が増すほどに赤崎は、英気と枷をその身に括って、歯を食いしばって痛みに耐えて、なんでもないような顔をする。この世で唯一赤崎を傷付けないのは、ジーノの期待、ただ一つだった。徹底的に痛めつけられて根元から牙を抜かれた事で、赤崎は今ジーノが笑う事にただただ喜びと達成感だけに心湧き立つばかりの生き物になった。
「手がかかるけど、簡単な子だね」
あっという間に腕の中で眠る。すっかりその身を任せて委ねて、ただ抱き締めてやるだけでその場でみるみる回復していく。頼るを知らない赤崎の見せるそんな仕草は、今はもうジーノにとっても、ただひたすら癒しばかりなのだ。
腕の中のあどけなさにジーノはもう一度意識無く微笑み、赤崎の小さな息吹を感じながら、自らもひっそりと息を潜めて、全てを委ねるような穏やかな眠りについたのだった。
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