お花結び

Just another WordPress site

*

犬の俺だってわかる事

特殊設定閲覧注意。お題文から始まる後天性人化(黒)わんこ崎です。三次創作を完全に勢いのままに……はるさん許可ありがとうございます!(三次創作と言いながらも完全にパラレルで犬な崎なところだけが同じですしキャラも崩壊しています)

ドラマも映画も退屈だ

 テレビの画面に映るのは、古いイタリア映画。けれど、隣のこの人はさっきから何やら難しそうな本に目を落としたまま顔を上げようともしない。時折情熱的なキスシーンなんかが入ってくるので一人で見ているのも居心地が悪く、リモコンに手を伸ばすと「聞いてるから消さないで」という声に遮られた。

「だって、こんなの見てたって俺全然意味わかんねぇっつーか」
実はそれほど全然意味がわからないわけでもなかった俺だが、知らぬ顔をしてそれを言う。うんざりとした退屈な毎日が続いていては、愚痴の一つも出てしまう。
「意味がわからない?だから見てもらってるんでしょう?キミがそうなってしまった以上、これからは色々と人間生活の世界の知識を身に着けてもらわないといけないんだから」
 犬から今の人間の姿になって早1か月。俺達は様々な試みの失敗によってこの奇妙な現象が一時的なものではないと感じ、ここ最近の俺は王子を先生に立派な人間となるべく修行中だ。
「人間の事ちゃんとお勉強としないと、いつまでもお散歩に連れていけないよ?」
「うー……」
「そんな顔しないで?だってこの前どうしてもって言われてお外行ったら、キミ、はしゃぎ過ぎちゃって四つん這いで走っちゃったろう?人間はあんな事やらないの。夜中だから助かったけど、もうあんな事しちゃ駄目だからね?」
バツが悪いと思った瞬間、くぅ、と小さく喉が鳴った。
「いいかい?何度も言うようだけど、お勉強頑張れなかったらどれだけおねだりされても連れていけないよ?本来、どれだけ利口だからって、リード外してお散歩するのもここら辺りだと条例違反なんだから」
「じょうれ、?」
「うーん、つまり人間同士のお約束の事。キミもご飯の前はお座りするでしょう?人間社会の中には沢山そういうのがあるんだよ。皆が仲良く生活していけるようにっていうものがね?」
「……」
「ほら駄目だよザッキー、そういう時は……」
「あ」
 話を聞いている間なんとなく首元の服の布がフワフワ気になって、思わず足で掻こうとしたのだ。すると王子に手を遣うようにと窘められて、俺はぎこちなく手で首元をカシカシやり直す。
(面倒くさい……)
以前の生活とは雲泥の窮屈さ。けれど俺は人間らしさを身に着けなければ散歩一つに行けない身となり、イライラしながらも我慢我慢と日々頑張っていた。

「そうそう、ちゃんと出来るじゃないか。手を使った方が楽だろう?」
王子がうんざりを察知したのか、優しく頭を撫でて褒めてくれる。
(あぁ、これ好きだ)
何よりも嬉しい、一番のご褒美。王子が喜んでくれる事だけが今の俺の支えだった。
(もっとナデナデして、王子。そしたら俺もっと頑張れる)
 王子自慢の番犬が目標だった俺は今、王子自慢の人間になる為の努力を日々続けている。どれだけそれがうんざりな出来事でもだ。
「ザッキーはお利口だねぇ。意地悪な事言ってるように思うかもだけど、全部が全部キミの為なんだよ、お願い、その辺わかってね?」
 王子が喜ぶ為にやっている事。その全ては俺の為の事。ウットリとして尻尾を振ると、俺のご機嫌な様子が王子に伝わり、そのまま暫くそうしてくれていた。
(あぁ、気持ち、いぃ~……これ、好きだ。王子、本なんて閉じてこのままずっと撫でててくんねぇかなぁ?)
 クサクサした気持ちはまるで王子の手が払い除けたかのように、みるみるうちに消えていく。王子が俺の事を考えてくれて、俺は王子の事を考えて、なんて幸せな時間だろうとなんだか眠たくなってしまう。すると、
「おいで」
久しぶりに王子に言われて、嬉しくなって膝枕。俺は子犬の頃からこうして頭から背筋を撫でられて、そのまま眠りにつくのが好きだった。けれど、緩やかに腕や横腹を(昔毛並みを整えていた時と同じように)撫でた王子に向かって俺が言う。
「ッぅわ」
「いけない、そうだったね?」
頭から尻尾やつま先まで、丁寧に丁寧にくまなく撫でられるのが好き“だった”。けれど人間のような姿になってからは残念ながらまるでブラッシングするかのようなあの手つきが苦手になった。頭は同じに気持ちがいいが、首から下はいただけない。人間になってから生じた、ちょっと残念な現象だった。
(多分、この“服”ってやつのせいだ。頭には毛の代わりだっていう“服”がないもの。人間って面倒だな……こんなもの窮屈でしかねぇよ)
 雨降りの合羽や寒い日のベスト(?)は散歩グッズで気にならなかった。でもこの姿になってからというもの、ずっとこのまま全身布付き状態なのが気に入らなかった。首元の保温にと着せられた今日の服(コットンネルのタートル)はまるで首輪を思わせる不快さだ。王子が俺に与えるこれらを脱げるのはお風呂タイムで、これもほぼ毎日になって困っている。だって王子は前みたいに俺の面倒見てくれなくて、洗えだの拭けだの乾かせだの、これもお勉強だからと色んな事自分でやるように言うだけだからだ。
(お風呂苦手だったけど色々かまってくれるから我慢出来たのに……明日から一人でお風呂やってみよう、とか、そんな馬鹿な)
 ウトウト、そんな事を思いながらも俺は懸命に退屈なお勉強テレビを眺めていた。王子が全然見てない、人間が右往左往しているだけの映像だ。
(こんなつまんないもん見てるより、いつものアレの方がいいなぁ、王子?駄目か?そしたら二人で楽しく見られる。一緒にやんねぇとお勉強つまんね)

[maroyaka_webclap]