お花結び

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仲良くしようよ

トップに上がって孤立奮闘のザッキーにほとんど交流のない王子が親切するお話。今回こそは幸せで心温まる話を書こうとしたんですが…。いつも悲惨なザッキーばかり書いてしまうので…。なのにどうしても酷いオチをつけたくなってしまう。一生懸命堪えて悲惨なオチの片鱗を残しただけで一旦おしまいにしておきます。ザッキーに「ぱぁあああ(ハアト」してほしかっただけ。

        ジノザキ

「うーん」
「…なんスか?」
「……」

今日の練習で。オレがミスをしてイラつく度に、王子が何か言いたげに唸っている。なんだよ!と言っても肩を竦めて無視するばかり。オレはとうとうブチ切れて、練習が終わった後、ロッカールームで王子に噛みついた。

「あのね!王子!言いたいことあんだったらはっきり言やいいでしょ!何だってんだよ!」
「なんかさ、イマイチだよね?って話。」
「わかってますよ!」
「……フフフ、わかってんだ?カリカリしちゃって。ホントにキミってメンタル弱い。せっかくそういう気性持ってんだったら有効活用すればいいのに。」
「なんだよ、イラつく言い方しやがって。あんた何様のつもりだよ!」
「え?そりゃ、お…」
「王子様とか言ってんじゃねーよ!バカ!」
「おーこわ。」

からかうような笑顔をして、さっさと帰ろうとするので、思わず彼を引き留めた。

「勝手に帰んなよ!話終わってねぇだろ!」
「……別に話なんてないけど。」
「あるだろ!ニヤニヤしやがって、言えよ!」

王子は昼間やったように肩を竦めてため息を付いた。

「それ、質問してる人のする態度?いいじゃない。ボクが何を思ってようとさ。どうせその分じゃ聞き入れる耳なんて持ってないでしょ?」
「そ…そんなこと、聞いてみなきゃわかんないっしょ…。」
「そう?せっかく時間割いてキミにアドバイスしてもスルーされたらボク踏んだり蹴ったりじゃない。余計なお世話とか言われるのヤだから遠慮してたのに…。」
「…アドバイス…する気で見てたんですか?」
「ん?なんだと思ったの?」
「オレのことバカにしてんのかと…。」
「ハッ、まさか!バカにした顔っていうのはナッツを見る時の顔みたいなのを言うんだよ?」

王子がやたらそこだけ大きな声で言うのでまだ帰ってなかった夏木さんが反応した。

「おい!聞こえてるぞ!」
「あ、なんだまだいたの。最近拒絶反応なのか視界にも入れないようにし始めてるみたいなんだよね。」
「なんだって?そういうこと言うなよ~、オレ、デリケートなんだぞ?試合中にそんなじゃオレ困るじゃねーか…。」
「綺麗なフィニッシャーになったら見えるようになると思うよ?ハハハ」
「そ!そんなの無理に決まってんじゃん!」
「無理なことは言わないんだよ、だから言ったことないでしょ?醜いねっていう現実の話をありのままにしてるだけで」
「もうやだ、こいつ!なんでこんな奴とオレ同期なんだよ、泣きたい…。お前冷てぇよ。ホント…」

じゃーな、と肩を落としてそのまま夏木さんは帰っていった。オレは王子の言葉が気になった。無理なことは言わない?
「あの、王子。オレに言わないのも無理だと思うから言わないンスか?」
「ん?どうだろ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし?」
「なんだよソレ…。」

イライラしている気持ちが徐々にしぼんできてしまった。なぜならこの人は意味のないことはあんまりしないから。聞く耳を持たないから話さないという彼のセリフでオレ自身の人格を否定されたような気持ちがした。まるで相手にしてもしょうがないとでも言いたげで。オレはなんだかそのことで思った以上にショックを受けた。

「そんな顔しないでよ。ボクがいじめてるみたいじゃない?」
「……」

そう言って王子はツカツカと再び自分のロッカーに戻って座ったので、話をしてくれるのかと思いオレも慌ててついていった。

「多分さ、キミのそういうのって。アレが足りないせいだと思うよ?」
「アレ?」
「オキシトシン。」
「え?なんスか?それ。」
「これが足りないとさ、他人との信頼関係を構築しにくくて…そう、実際にキミが今ボクに不信を抱いているように。」
「不信…そんなつもりじゃ…」
「サッカーはチームワークが大切で。好戦的なのも大切な才能だけどそればっかりじゃダメなんだと思うよ?わかる?」
「……わ…わかってます…。」
「ここにいるみんなは仲間でありライバルでもある。広い意味では対戦相手も同じことが言えるね。相手がなければゲームが成り立たないから。みんな仲間でありライバルでもあるんだ。キミはちょっと、この仲間って意識が少々薄い気がするね。」
「…そん…な…」

そう、小さい頃から言われていた。オレはずっと世界的な選手になることを念頭に生きてきて。その気持ちを他人に話す度に馬鹿にされて。その度に喧嘩になって。いつのまにか理解してもらうことを諦めて、喧嘩にもならない人生を過ごしてきた。ユースのメンバーですらオレの気持ちなんてわかってもくれない。仲間なんていやしない。プロになったらきっとこんな思いしなくて済むって思ってきたのに結局ここでもオレは孤立してる。世界を考える前にまずは降格回避に集中しろだなんて、そんな話ばっかりで。オレにとっては全てが世界に繋がってるからこそ日々打ち込んでいられるというのに。やっぱりここにも本当の意味ではオレの仲間なんていないんだ。

「…キミってさ。ストイックすぎるんだよ。なんだったらさ?オキシトシンって簡単に増やせるから手伝ってあげようか?」
「!?」

そう言って王子はそっとオレの手を両手で優しく握った。あまりにナチュラルでふんわりとして、少し冷たく感じるのに不思議とあったかくて。

「どう?」
「は?」
「わかる?」
「何が…」
「…キミは独りじゃないよ?」
「あ…」

王子が囁くようにオレに言う。なんてキレイで優しい笑顔。その表情とこの手の感触が…。なんだかオレはふと肩の力が抜けた気がした。

「オキシトシンって別名、絆ホルモンって言ってね?こうしてほら。人と触れ合ってるだけで分泌されるんだ。どうかな?落ち着かない?キミはちょっと過緊張気味だから時々こうして少しリラックスすると随分違うと思うよ?」
「……」
「一生懸命もいいけれど。」
「……」
「みんなでサッカーしよう?キミの周りには沢山仲間がいるじゃない?」
「…は…ぃ…」

目の前にいるのは世界のことなどまるで興味もなさそうなETUの気紛れなファンタジスタ。自分のことを王子だとかなんだとか、いつも高慢で上から目線の偉そうな態度をする人で。なのに今はこうしてオレと同じ目線に立って仲間と言って話しかけてくれる。性格も趣味もプレイスタイルも、なにからなにまで一つも接点のないこの人が、ほんのちょっとこうして手を握っているだけで何故かとても近くにいるように感じられた。

「おい!赤崎、お前騙されんなよ?」

それを見ていた黒田さんがなにか言ってきた。オレはこの人のこと嫌いじゃないけどなんかいつもつっかかってしまう。今もせっかくいい気分でいられたのに水を差されてイライラした。

「なんスか、騙されるって。」
「王子は人のことからかうの趣味みたいな奴だっつー話だろうが!バァカ!」
「クロエ、それ失礼じゃない?ボクだってたまには困ってる後輩の力になってあげたい時だってあるよ?」
「お前この前、赤崎の肌はツルツルしてるから触ってみたいとか言ってたじゃねーか!」
「なんのことかな?」
「お前のは単なるパワハラでセクハラだよ!ばれてるぞ!」
「心外だなぁ…。ま、いいや、今日はもう帰ろっと。」
「ほら!目的達成したからもう用事がねーんじゃねーか!」
「…触りたいって…そんだけ?オレの手を?…仲間とかそういうんじゃなくて…」

誰に言うでもなく小声でつぶやく。王子の手のひらが離れた途端、オレの手がスースーと冷えていくように感じた。その寒さ、寂しさが骨身にしみて。いつもならこんなオレをバカにするかのような二人の会話にブチ切れるところなのに。すっかりそんなことも忘れてただ茫然とすっかり心細い自分の右手を見ていた。

「ちょっとクロエ。せっかく少しずつ構築しようとした信頼関係が崩れていくだろう?チームにとって百害あって一利なしだよ?」

王子はそう言いながらカバン片手にまたオレの手を握る。

「すぐそんな顔をして。キミはちょっと手が離れただけでもう足りなくなってしまうんだね?いいよ、今日は良ければ一緒にご飯でも行こうじゃない。」
「え?」
「触らなくても分泌を増やす方法なんて沢山あるさ。誰かと一緒にご飯を食べる。それだけでも随分違う。ボクの目的がセクハラなのかパワハラなのか、キミの力になりたいものなのか。本当はなんだったのかなんてきっとすぐ確認できると思うよ?ね、行こう?」
「あ…はい…あの荷物取ってきます。手離してもらえますか?」
「フフ、このままキミのロッカーについていくよ」

そうやっていつまでも王子はオレの手を放そうとしなかった。黒田さんがそれを見てヤイヤイ言っている。帰りがけに王子はそんな彼にこう言った。

「クロエ、彼がボクの食事の誘いに乗るとは思わなかった。いいアシストだったよ?」

ウインクしてオレの手を引きロッカールームをあとにする。後ろで、おい!赤崎!お前やべぇぞ!わかってんのか!と声がする。なんだか意味がわからないまま、ズンズンと歩いていく王子にひたすらついて行くしかなかった。王子に繋がれた手があたたかかった。

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      ジノザキ