さっさと寝ろ
【14882文字】
原作1巻より前の時系列の?ザキがジノに行うマッサージのお話。ジノデレ成分↑、ザキツン成分↑相思相愛だけど少し互いに遠慮がある感じで、思うことが思うように伝えきれぬ、色々ぎこちない二人です。ちょっとジノザキというにはイレギュラーかな。よくわかりませんが。
文学妄想お題ったーの高村光太郎「花のひらくやうに」が元ネタSS
「あれ?王子は?」
練習の途中、王子が居なくなったことに気付いた俺に世良さんが言った。
「さあ……いつものアレじゃね?昨日も今日もなんかやたらベンチでサボってばっかだったし」
「アレ?」
「早退」
「また!?ったく、どうかしてるだろ、あの人」
「ま、正義感強いお前が腹立つのもわかるけどさ。昔からよくあることだし今更なぁ」
「大体それがおかしいことじゃねぇスか?よくある、で済まされてるのがまずありえねぇ」
「あだ名が王子っつーくらいだ、ある程度はしょうがないんじゃね?変にヘソ曲げられても面倒だし」
チームの中でもピカイチの選手は、チームメイトとして日々を過ごしてみればただのサボり魔、クズ同然の男だった。かつてのETUの栄光を知る俺はこんなにも今の不甲斐ないチームの状況が不満なのに、あの人ときたら。全く、見えてくる何もかもが、課題、課題、課題だらけで、試合にも出れないサブの俺は、クサクサも通り越して最早。
(サッカーってこんなキツイもんだったっけ……)
奮い立たせては挫折感。前を向いてはひっくり返る。入団数か月のあの頃の俺は、随分とそういう日々を繰り返していたような気がする。
(こんな時こそエースナンバーを背負う男は、その責務を重く受け止めて一生懸命やるもんじゃね?)
などと考え、また、
(もし俺があんたなら延長練こそすれ、身勝手にサボりだなんて絶対ありえぇねと思うけどな)
なんて、あの人が自らの立ち位置にあまりにも無自覚な事が本当に理解不能だった。
*
俺があの人に関してやたらと腹が立つようになったのは、つい最近二人の関係がチームメイト以上のものになったせいでもあった。勿論周りには絶対内緒で、チーム内では互いの存在など知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
ピッチに立てば極上の、ベッドの上では最愛の。俺はそんな王子が大好きだった。でも、この秘密の思いがまた、俺の苦悶を深める事となってしまっていた。
*
「なんだ、やっぱ居ねぇし」
いつでも来ていいよ、と鍵を渡された時は、まるで天にも昇る思いがした。でも、言葉を鵜呑みにして連絡なしに訪れてみても、あの人はただの一度もここにいた試しがなかった。
「鍵とか渡されたら普通正式に恋人同士になったんだとか思うだろ?なのに……俺って一体あの人の何なんだよ……」
王子の全てに触れたかった。あの人の秘密全てを手に入れたかった。それが俺にとって、かけがえのない存在になった証でもあった。
家の中の王子は外のあの人とはまた少し違う。雨に対する執拗な愚痴。カーテンを閉める仕草。キスする前に漂う色香。寝惚け顔の朝。神経質な程美しいクローゼットから服を取り出す時の、凛とした後ろ姿。取るに足らないような些細ですら俺は拾い、その瞬間毎に、ああ、俺は本当にこの人の虜だ、と実感する日々だった。俺と王子との日々とはつまり、俺が王子の日常に触れたい毎日であった。そして、あの人は鍵を渡して尚、ナカナカ全部はそれを許さぬ人でもあったのだった。
(これは王子を独り占めする権利を有する、魔法の鍵ではなかったのか?)
そしてまた、今日も留守の王子に思う。
(なんで王子って、あんなにわけわかんねぇ人なんだろうなぁ)
まあ、何処をほっつき歩いているのかも何を考えているのかもわからない、そういう王子だからこそ。俺の思いはそんな形の好きでもあったわけだけれど。
(こんなにも骨抜きでめっちゃ悔しい。チクショウ、まだかよ王子)
*
遅い時間、ふらりとあの人が帰って来て云う。
「ああ、来ていたの?」
「ああ、じゃねぇッスよ。今までどこほっつき歩いてたンスか?」
「……ふふ、所謂、ヤボ用?」
まさしくこれが典型的な王子の厚顔。俺は見る度、何も言えなくなってしまう。優しい笑顔の威圧はとても強力なもので、俺はこの苦しみを飲み込みながら、大人しくただ引き下がる。こんな自分が嫌いだ。全く俺らしくないと思う。
「ね、もしかして御飯一緒にって待ってた?なんか作ろうか?」
その一言で自分が食事を済ませていた事をさりげなく伝えて、王子は他愛無く俺の苦しみの火に油を注ぐ。そして
「こんな遅くまで……ありがとう、ゴメンね?こんな事なら寄り道しないでさっさと帰ってくるんだった」
と俺を労わる気遣いが心をこんなにも蕩かせてしまう。
(如何にも俺がここで待ってた事を嬉しいみたいな顔して。大した役者だよ)
こうして何度も飴とムチの魅惑的な真綿に包まれ、俺は益々狡い男の虜になる。
(デート……か。隠すでなく、言うでなく、ホント狡いんだよ、こういうやり方)
俺はわかっていた。
(そうさ。この人の事を縛る事なんて誰にも。わかってる、そんな事はもう十二分に)
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