素直になれない
【3468文字】
可愛いザッキーを探してみたのですが、かわりに見つかったのは意地悪なジーノでした
ボクが気に入らないのは彼のこういうところなんだ。ボクは彼の飼い主であり、彼にとってボクは特別な存在だ。なのに、最近の彼はいつもこう。
「どうしたんスか?王子?なんか最近変ですよ?あ、元からか」
(……ほらね)
「ったく、ホント、マジなんだっつーんだ……」
(口が悪いのは知ってる。素直じゃない事もわかってる。けどさ)
ボク達が仲良くなり始めの彼はとても純朴な顔をしていて、戸惑いながらもボクへの好意を、それこそ全身で表現をしてくれていたのだ。ボクは彼のその喜ぶ姿が可愛くて、少しずつ彼が傍にいる事を許す機会が増えていった。
(なのに、なんというか……)
ボクの親切は途中から仇となってしまったようだった。皮肉な表情、減らず口。彼の今までにない気安さは、あの頃の緊張感がとれた結果そうなったのであり、喜ばしい事ではあるのだけれど腑に落ちない。
(ボクをからかう時以外にもたまにはボクに笑って見せてよ、ザッキー)
傍に寄せればもっとあれが見られるのだとボクは思っていた。ボクが笑いかければ彼も笑い、ボクが喜べば彼も喜ぶ。そんな風に。なのに物事は上手くいかずに、欲しい時に限っていつも、キミの笑顔はお預けばかりだ。
*
ある日キミは如何にも機嫌の悪そうな顔で、モソモソとボクと食事をしていた。
(なんでそうなんだろうなぁ、つまらないよザッキー)
今日の試合はご機嫌だった。ボクは点を決めたしMOMもとって、よくある事でも上機嫌で、なのにキミは嫉妬で一杯。
(わかるよ?キミの負けん気の強さは。悔しいんだよね、わかるよ、わかるけど……)
溜息交じりに、遊びに来るかい、と一声掛ける。ふくれっ面のキミは不愛想に、コクリと頷いてパンを齧った。
*
ザッキーの人としての小ささに関しては、別に日頃は気にならない。嫉妬される事も、恨まれる事も、ボクにとっては人生のスパイスであり、輝きを増す為の研磨剤のようなものだ。
(でもわかってる?キミってボクのなんなのかをさ?)
苦楽を共にし、分かち合いたい。ボクの願いはシンプルなもので、けれどザッキーを選んだ以上は、ただそれだけのことが困難だった。困難だからこそ、今ある現実の本気さがわかる。
(ねぇ、わかってる?それくらい本気でボクはキミを……)
焦れるボクをキミは知らず、ただ馬鹿みたいにいつものように突っ立っていた。
「どうぞ?座って」
キミは妙なところでとても律儀で、いちいちボクが指示せねばならない。
「ザッキー?」
けれど今日はどうしたものか、言われてもソファに座らない。
「どうしたの?」
「ど、どうしたのじゃないッスよ」
「?」
キミの目は泳いであちらへこちらへ。頬も染まるし、唇も噛んで、何やら急に可愛げなキミに、思わずドキリとさせられる。
「何?」
「……」
ツカツカとキミの傍に歩み寄れば、身じろぎしながら後ずさる。かと思えば。
「ちょっと、ジッとしててくださいよ!」
「は?」
わけのわからない事をキミは言う。そして。
(え?)
突然抱き着かれて面食らう。だってこんな事は初めてだからだ。
「ザッ……」
「黙っててくださいって!」
「……」
服越しにもわかるザッキーの激しい鼓動が、ボクの動揺まで誘い出した。その瞬間、ザッキーは乱暴にボクの唇に、食いつくようなキスをした。
(!?)
そんな事も初めてだった。あまりの事にボクは惚けて、乱暴なそれを受け入れ続けた。まさにされるがままだった。
やがてその唇が離されても、ボクは呆気にとられて彼を見ていた。
「……ンですか?その顔」
「いや、ちょっと驚いちゃって」
「だって、約束だったから」
「え?」
「え?って……、王子まさか?」
「?」
突き飛ばされて鞄を投げられ、罵詈雑言の中で気が付いた。
「信じらんねぇよ!俺が今日どんな気持ちで過ごしてたと!」
「ゴメン、ゴメン、忘れてたわけじゃ、ねぇ、ちゃんと覚えてたよ!本当だってば!」
「そんなわけねぇだろ!!帰る!」
「待ってよ!」
暴れるザッキーを後ろから抱き締め、その耳元で囁いた。
「本当さ、そうだよね。ボクが言ったんだ。ご褒美頂戴ねって」
それは他愛のないピロートークで、すっかり忘れていたのは事実だった。
――次にMOM取ったらキスしてね?
あの夜返事もしない可愛い恋人は、まさに真に受けて今日一日、緊張に緊張を重ねた上で、意を決してキスをしたのだ。
「ありがとう。とても嬉しい」
「……どうだか」
「本当さ」
「……」
ねじけたキミは素直じゃなくて、その言葉もまた愛想がなかった。それでも頬は染まり、動悸は激しく、それを感じる手のひらがこんなにも熱い。
「……ッ」
「ご褒美、もっと欲しいな」
「もう、おしまいッス」
弄ればすぐ固くなる胸元のそれを優しく丁寧に愛撫する。そんなボクにキミは減らず口を叩き、それでも従順に震える体は、まるで、どうぞ、と返事をしていた。
「おしまい、ッつってんだろ……」
「ん、じゃあ、これはご褒美のお返し」
ヘナヘナとボクに崩れ落とされるキミは、本当に不機嫌そうに文句にもならない文句を言う。
「いや、だ……こんな、とこ……で」
「じゃあ、何処ならいいの?」
「あッ、そこ触ん……ッ!」
「凄い、もうこんなに……ねぇ、MOMになった瞬間から、今をずっと想像してたの?」
「違ッ……」
「素知らぬ顔して、ずっと期待して?」
苦しげなそこを解放するように、ベルトを外して服も下げる。言葉とは裏腹に露わになった素直な体は、完全にボクの支配下で身悶える。
「気持ちいい?」
「……気持ちワリィッ!あ!」
ニコリともせずに苦悶の表情で、それでも唇を噛みしめて堪えるキミが、ボクは今日も愛おしい。
「可愛くないのも可愛いよ」
「痛ッ」
何もつけないで指を入れれば、その痛みに体をビクリと跳ねさせ、けれどもすっかり覚えた悪い遊びに、足を広げてボクを欲す。しつこくそこを嬲り続ければ、か細い消えるような小さな声で、ボクに情けなくおねだりをする。
「する、ならさっさと終わらせてくださいよ……」
「挿れて欲しいならそう言えばいいのに」
「だ……れがッ!」
ボクがしたいから付き合ってやるのだと、そんな姿勢をキミは崩さず、それでも憎々しげながらボクを飲み込み、ただやり過ごすように装いながら、二人の時を過ごした。感じる体を否定する心は、ボクを今日も悪魔にする。
(なんでそうなんだろうなぁ、つまらないよザッキー)
ボクに酔うキミが見たくて見たくて、今日も今日とて手練手管だ。キミは涙を堪えて唇を噛んで、何度もほどけそうでほどけない。
(でも、だから面白いのかな)
すっかり馴染んだ互いの体も、キミの心が新鮮にさせる。可愛くないキミが可愛いように、アダルトになり切れないウブさが好きだ。
「おう、じ……あッ、あ!許し……っ!」
キミは苦行のように今日も抱かれて、やがて誰よりもいやらしく欲情をして、助けを乞うようにボクにすがり、甘く甘くボクの名を呼ぶ。
「はや、くッ!もうダ……メ、あッ!」
「おやおや、今日もかい?シチュエーションの違いに興奮しちゃった?」
日に日に仕上がっていくキミの体は、不埒なボクの行為で今日も粗相し、それに恥じ入り体をこわばらせ、そんなキミをこそ激しく犯す。
「あ!?嫌ッ!だ……うぅ!」
「嫌なら次はちゃんと最後まで堪えてなきゃね」
「や、めッ、ッぅ」
「可愛い……イッちゃったのに、そんなに気持ちいい?」
ワナワナと四肢を痺れさせて恍惚とする姿は、彼にとって何よりも屈辱であり、ボクにとっての餌そのものだ。だからあまり貪るものではないとわかっていながらも今日もまたボクはこうして。
*
「もう、二度と王子とはしねぇから絶対」
「何度も聞き飽きたよ、その台詞」
キミの不機嫌はこうして増して、ますます笑顔は消えていく。可愛いキミは可愛げがなくて、ピロートークには返事がなくて、抱き寄せようとすれば弾かれる。
「やれやれ……」
そうして溜息交じりにボクは思うのだ。
(ま、結局ボクの自業自得、って事なのかな)
「ったく、あんた本当に懲りねぇよな」
溜息交じりなのはザッキーもだった。けれど皮肉ながらもその顔は笑顔で、ボクはいつものようにこう思うのだ。
「フ、やっぱりキミって世界一、可愛い」
「うっせ、黙れ」
「可愛いよ」
「知りません!俺もう寝ますから!」
「可愛い、もう一回する?」
「しませんッ!って、やめッ」
「触るだけだよ」
「冗談だろ!?今までそれで済んだ試しが」
「よくご存じで」
「おい、こら、王子!」
「駄目だっつって」
「ん……」
可愛げのないボクのザッキーは、今日もやっぱりこんなにも可愛い。
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