ドライブにいこうよ
【18033文字】
ガッツリ襲い受けジノザキ。性欲希薄盲愛狂信者的宇宙人攻のS調教というかなり特殊なお話。苦手な人はパス推奨。タイトルは「プルバックでゴー!(絵本)」シリーズから。絵本の上でくるくると周回する車はかわいいくて見ていて飽きなくて、でもどこにも行けないあの感じ、ちょっとした倒錯と狂気ですよね。
ドライブに行こうよ
我儘な人だと考えていた。けれど悪い意味ではなく、スタンスそのものには羨望さえ、けれど同時に『何故』という、頷き切れない疑問があった。
*
そんな疑問も、もう過去のこと。
「ん?」
傍らでゆったりと微笑む王子は、この苛立ちにさえ笑顔を浮かべた。俺をわかっているからだ。
「どうしたの?疲れ過ぎて眠れない?」
その目は俺を見透かしつつも、見えないような素振りで微笑む。彼は過敏に過ぎる知覚を、こうして誤魔化し生きている。
「まずはほら、目を閉じなくちゃ」
人が悪いと考えていた。けれどそれはただの誤解で、彼特有の事情があっただけだ。
眉間へのキスは羽毛の軽さ。
「こら、ザッキー聞いてるの?」
子供をあやす大人のよう。彼との差異は如実なほどで、けれど抑えきれぬ待望で、俺はその目を見つめてしまう。如何にもそれは思わせぶりで、見て見ぬ素振りは狡さに思えて、それは確かに事実であったが、大人の狡さというわけじゃなく。
――ごめんねザッキー、実は僕……
あの夜俺が憤り、乱暴な言葉で別れを告げて、王子はその時小さく震えて、初めて秘密を暴露した。
――ごめんね、ザッキー、ごめんなさい
俺がすごく好きであること。けれど性欲がわからないこと。知らぬ存ぜぬの悪意のふりをし、笑いながらも必死で逃げて、逃げられなくて強いられて。俺の欲望に日々耐えながら、耐えているのも誤魔化して、それほど一人じゃもう駄目なんだと、君なしではもう生きられないと。
――お願い、僕を捨てないで
惨めな言葉で俺に縋って、子供みたいに頭を下げた。普通のことがわからないこと。知らなくていいことほど知覚すること。頑張るからと涙を潤ませ、教えて、手取り足取り、と。俺は盛大に傷つけていて、王子は泣いてひれ伏していて、そこには何か得体の知れない倒錯的な気配があった。
*
「お願い、寝よう?早起きしたい」
微笑み薄く開いた唇。綺麗に並んだ歯列の奥から、僅かにあれが見え隠れする。滲むようになされるキスには、不思議なくらいに卑猥さがない。だからこそ尚更その足りなさが、交接そのものを想像させる。
「……僕をそんなに困らせないで」
頷き切れない彼への疑問は、夜毎解明されていく。
(やっべぇ……めちゃくちゃ興奮してきた)
王子の困惑は真実だった。撥ねつけることは存外たやすい。けれどやんわり躱しながらも彼はそうはしなかった。我儘に見えてもそうではなくて、あまりに心が無垢だったのだ。傍若無人に思える振る舞い、込められた毒には大人の香り。それでもあまりに純粋過ぎる他者への信頼、澄んだ愛。
「ドライブ行きたい。約束したよ?」
子供のような無邪気な愛。自分の性愛に罪を感じる。けれど王子の罪にも思える。心を散々愛撫し尽くし、昂ぶらせるのは誰なのか。
「ザッ……待っ……」
種族が違う差異ゆえの、王子のもたらす愛の実害。王子の呼び名は言い得て妙で、確かに男であるというには色々欠落のある人だった。性欲はかなり希薄なようで、けれどハグやキスには弱い。無垢にも十分理解しやすい、愛の表現であるからだろう。
「んん……」
ぽやぽやと頬を染めながら、王子はすぐに無口になって、やんわり口元を緩ませて、キスに喜び、キスを乞う。急に過激にしてはならない。生娘のような彼の心は、ゆっくり一枚ずつ剥がす。それでも攻略は簡単だ。理由もあまりに単純だった。
「ザッキー、君は意地悪だ」
腕の中、王子は脆弱で。
「そんなの知ってることでしょう?」
「……」
「ほら、王子。気持ちいい」
王子は俺にキスをされると、すぐに夢心地になってしまう。それは淫靡で切なげで、呼び水のように沁み込んでくる。
「好きでしょ?王子。こういうの」
ずるい、と小さく文句をつけて、それでも小さく身悶えしながら、甘えるようにキスをねだった。それを俺が許容するなら、ずっとそうしていることだろう。卑猥さのないこのキスが、彼が理解し得る中での最上級の愛だから。
「キスの次はなんでした?」
「……」
感情的になることは(特に彼に対してならば尚更)得策ではない。ただ逸らそうとするその目を見つめて、自分を突き付けるだけでいい。
「王子、わかっていますよね?手取り足取り何回も……ねぇ、今日も手伝いますか?」
「……」
肉欲はつまりは飢餓であり、貪りであり、渇望で、愛に溢れる暮らしの人は、それらにあまりに無知だった。ようやくここまで手懐けた。俺はこういう男なのだと、赤裸々なまでにこの欲望を。
「キスだけで終わらせる気ないですよ?準備もしっかりしてありますし」
微かに表情が曇っても、抱き締め、キスして、ご機嫌を取る。意地悪、ずるい、と彼が言うのは、すでに観念しているからだ。
「全部わかってて呼び込んで……こういう俺が意地悪だったら、あんたはただの馬鹿ですね」
薄く笑って安心させて、キスで十分飼い慣らし、当たり前に体に触れる。そうして王子をねじ伏せていく。
「ドライブなんてどうでもいい。一杯夜更かししましょうよ」
身を任せるしかないのだと、今日も王子に思い知らせる。最初は服の上からソフトに。仕組み自体も同じ体で、困惑しながら小さく喘ぐ。
「ん……」
ハグと、キスと、俺に弱くて。好きで、それが弱点で。
「俺、王子が好きですよ」
苦しくなるほど思い知らせて、体を機能させていく。ハグしてキスして慰めて、絆して促す。徹底的に。綺麗で未熟なその愛を、俺が穢して燃え上がらせる。
「好きだし、すごくしたくなる。王子も俺が好きでしょう?好きの方法、覚えてください」
それを表現と覚え込ませる。そういうものだと王子を仕込む。
「一番伝わる形式だから、わかるとキスよりめちゃくちゃいいです」
俺の全てを見透かすその目で、夜通し奥まで見つめさせたい。どれだけ王子に飢えているのか。どれほど愛しているのかなどを。
「好きな人と繋がるのって、すっごくすっごくいいですよ?」
逸らし切れない過敏な知覚が、俺の愛に追い詰められる。綺麗で無垢で無邪気な心が、あまりに可愛く泣いている。
「王子も早くわかるといいのに。俺がどんなにあんたが好きか。体がすっきりするだけじゃなく、まるで天国なんですよ」
夜はいつでも倒錯的で、生きる次元が違う天使はその愛故に人を模倣し、人のふりした悪魔の俺を大事に大事に抱き締める。強く、激しく求められ、困惑しつつもその目は閉じずに。あの夜ひれ伏し契約をして、王子は俺からもう逃げられない。
(ああ、王子。大好きだ)
愛をこんなに試されながらも、困りながらも拒絶もせずに。残酷な仕打ちに健気に耐えて、これが愛だと学習をする。暗示というよりそれは呪縛で、澄んだ心に沁み込みやすい。
「好きっていいながらしてください。すごく好きだ、気持いいって」
怖くなるほど従順で、無垢で、そして盲目的。
「言うとどんどんよくなるんです。言ってる王子も、聞く俺も」
「うん、言うよ、沢山言う」
「心から言わなきゃ駄目ッスよ?」
「うん、ちゃんとわかってる……恥ずかしいから耳元ね?」
彼が一体誰であるかを、さすがに理解は出来ていて。
「恥ずかしいのも、いいんでしょ?」
「……ん、多分……いいと思う……」
俺はそれほどは馬鹿ではなくて、だからこそ本物の馬鹿だと思う。そう、馬鹿なのはいつでもこの俺で、王子は少しも馬鹿ではない。言われた通りに丁寧に、愛撫みたいに耳元で、何度も囁き甘噛みをして、くちゅりと音を立てて舐め。
「好きだよ、ザッキー。伝わって?」
色々彼は心得ていて、俺が大好きでそれをする。俺のためだけに巧みな技術で、性欲ではなく愛でする。
「あっ、王子っ……、あっ!!」
「好き。ザッキー、気持いい?」
「あ、あああっ」
「僕の大好き、届いてる?」
*
日々、俺はするのが大好きなのだと、困惑の化け物に言い含め、手塩にかけてこれを育てた。
「すごい熱い……気持いい」
俺のハグとキスを与えて、ああ、もし蛹が目覚めるならば、王子はどんなに変化するのか。
「好き……あ、気持いい」
見透かすその目は残酷なほど。善がる姿を見下ろしながら、まさしく視姦の類に近い。性欲の希薄なタイプの王子は、心を掴んで嬲る行為を交接以上に好んでもいて、あの夜嘘を封じた俺は性癖すらも晒せと言った。
「されるの、そんなに感じるの?」
人に潜む本質は、見せたくないと思うからこそ、それを見透かせば大いに傷つく。マナー違反の暴力性を王子は深く理解していて、俺に暴かれ痛みを感じ、けれどそれを受け入れるから、俺は自ら己を晒す。
「可愛いザッキー、大好きだ。よすぎてそんなにおかしくなって」
何をどう言い、どうするか。俺を見つめて攻略をして、君が願うことだからだと、大義名分を大事に抱えて。
「待っ、少し休ませ、あっ!」
「駄目だよ君も。嘘は駄目」
大好きだから。愛しているから。知覚の全てを解放し、徐々に蛹の背中が綻びていく。
「あっ、やっ」
俺の中身がこうだから、そうなの?だったら、なんて笑って、そもそも彼は化け物であり、こういう日々を植え付けたなら。
「するの、前より大丈夫かも」
この欲望が伝染したら?この貪欲が交雑したら?
「一杯夜更かししたいんだよね?なんか、叶えてあげられるかも」
その日がとても恐ろしく、そしてそれ以上に待ち遠しい。
*
まだその未来に無知な王子が、ボソボソ小声で愚痴を言う。
「僕は本当は早く寝て、君とドライブしたかったけど」
「やっ、あ、ぁ……」
気絶するまで抱いて欲しいと、思う俺の掌握をして、今更涙を零してみても、この腕からはもう逃げ出せない。
「すごく楽しみにしてたんだ。君もわかっていたよね?ザッキー」
「……、っ……、」
「君って本当に意地悪だ」
「……、ぁ、……うっ、んっ、……!!」
何度も何度もイかされて、もういい、なんて懇願しても、したいと王子に願ったからには。
「確かに僕は馬鹿だよね。でもいい。君と一緒に眠りたかったし、キスもハグも沢山出来た。いっぱい好きって言ったし聞いたし、君が喜ぶのは嬉しいし」
なんでこんなに好きなのかなと、恥ずかしそうに微笑んでいて。
「あぁ、でもやっぱりかなり残念……これじゃあ秋まで済んじゃうよ」
息さえ出来ない俺を抱き寄せ、うっとりとした幸せ顔で、奥の奥まで深く視姦し俺の願いを叶えてしまう。拷問のようなこの天国に、俺の全部を埋めてしまう。
「いつになったら行けるかなぁ?悪い子。意地悪。いじめっ子」
無邪気で悪意の欠片も潜まぬ、王子の在り方その害悪が、他意なく俺に食い込んでくる。
「でも君が容赦をしないのは、それほど愛しているからだよね?」
溢れるようなその愛の中、遠のく意識の中で思う。
「次は僕の願いを叶えて?大好きな君と一緒に見たい、そういう景色が沢山あって……」
きっと王子もわかってはいて、彼もまた今晩切れてしまった消耗品を明日には買って、週末の準備をするのだろう。それでもつかの間を夢見る男は、憚られるほど澄んでいて、ああ、王子が心底好きだと今こそ思い知らされる。
「おやすみ。僕の意地悪ザッキー」
春の花は散り、浜辺はクラゲ、紅葉が綺麗な予定の山は。明日こそドライブ、それは呪文で、俺達のためのトリガーだった。倒錯的に過ごして久しい。共生、或いは寄生であるのか。不安定のまま深く噛み合い、秘密の夜を繰り返す。
(俺の王子も……おやすみなさい)
精も根も尽き果てながら俺は王子に寝かしつけられ、ようやく己を取り戻しつつ惜しみながらも目を閉じた。いつしか彼から求めるその日を、薄っすら瞼の裏で夢見て。
