お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

ドライブにいこうよ

【18033文字】
ガッツリ襲い受けジノザキ。性欲希薄盲愛狂信者的宇宙人攻のS調教というかなり特殊なお話。苦手な人はパス推奨。タイトルは「プルバックでゴー!(絵本)」シリーズから。絵本の上でくるくると周回する車はかわいいくて見ていて飽きなくて、でもどこにも行けないあの感じ、ちょっとした倒錯と狂気ですよね。

        ジノザキ

ギブもテイクも半分ずつで

 これは俺達が今の俺達になる前の、かなり昔々の頃の話だ。この時期の俺は俺達がこんな風になるとは全く考えもしておらず、けれどこうして思い返せば、自分の気持ちに無自覚過ぎる、まるで子供の俺に気付かされたりもする。

*

 気まぐれで、我儘で、どこか憎めない人気者。あの目は選手として光るものがあれば、自然とそれを捉える力がある。だが現状の俺はといえば、王子には見えないようだった。
(焦りは禁物。でもあの人が相手の場合、待っていても何も変わらない)
あのうろ覚えさにはさすがに堪えたが、現実から目を逸らしても得るものはない。忸怩たる思いを胸奥に押し込め、まずは日常の関わり増加を心に決めた。

 成長により認知を待つよりも、認知から得る成長のブーストをこそ強く求めた。人間性はともかくその実力には一目二目も置いていた相手だからこそ、閉塞打破への鍵にも思えた。結局は椿の存在が焦燥を高める原因であったとも言えたのだが、その感情を整理しきれるほどの冷静さなどあの頃の俺には流石になかった。

*

 いざ、日頃の挨拶からしっかりとした口調でやり始めた時、その意外さに気付かされることになる。
「おはようございます王子」
「ああ、おはよう」
見つめて声を掛ければ、明快な笑顔で返される。言葉にしてみればなんということもない、子供の頃に学ぶ日常のマナーとも言えた。けれど実際に王子がやっていると、その丁寧さに驚いてしまう。広角レンズは被写界深度が深いとよく言われるが、日頃漠然としているそのフォーカスが近距離の自分に一気にあわされば、濃度に一瞬目が眩むほどだった。
(たかが挨拶。なのにこんなにも劇的に違うものなのか?女性サポが悲鳴を上げるわけだこれは……)
当たり前のことを、如何にも自然に。王子はたかがそれだけのことをして、俺の心を打つ人だった。
(挨拶は昔からちゃんとしてきたつもりだけど……随分とおざなりだったのかもしれない)
日常の些細な次元のことから、しばしば考えさせられた。

*

 男の仕草はよくいるスポーツ選手のそれらとは少し違う。知っていたつもりがわかっていなかった。いるだけで人目を集めるこの男の身振りや手振りは如何にも派手なものではあったが、何故かどこかしら穏やかな静寂のようなものが存在していた。声も通るし足音もする。だがノイズのない純水やダイヤの元素の並びのように、尋常ではない整然さがあった。
「おはよう、ザッキー」
「あ、おはようございます」
俺の存在していない世界に住んでいた王子は、今、俺の居る世界に舞い降りていた。プレイであの目を捉えたわけではないものの、この奇跡をひっそりと噛みしめる。
(なんだかんだ、やっぱ普通じゃねぇわ)
行動、言動、果ては持ち物にまで、いわゆる彼の魂が息づいている。独特の香りからくるプルースト効果(記憶の呼び出し)、生きているかのような愛車のエンジン音、綺麗に磨かれた革の靴や服の皺に至るまで、目利きした王子の意志が込められている。
(だからこその、この調和……か……)
いけ好かないと言う者もいるだろう。だがこの徹底した独特の世界観は、人を魅了するに十分な破壊力を持っていた。全てには明解な意図がある。美意識であり、価値観であり、生き様で、一種真摯な戦いにも見えた。

*

 最初は『疑念』、次には『疑問』、やがてその『不思議』の正体は、端的な『興味』であることを自覚した。王子は明らかに普通ではなく、特にその協調性の在り方は首を傾げるほどの特徴があった。試合中守備をさぼるのは当然、気が削げれば自らピッチを降りたがる。キャンプも遅刻常習犯で、勝手にカリキュラムを変えるマイペース。なのに人の心に侵入し、甘言や辛辣で場をまとめる。
(王子は決して気分屋じゃない)
一癖も二癖もある選手であり、当然それを瑕疵と捉える評も多い。だが眺めるほどに一層わからなくなっていく。見て知る手掛かりが次々に、またひとつ謎になる。
「どうしたんだい?そんな難しい顔をして」
そう、こうして何気ない顔で笑って、何を見ているのかわからないこの柔和な目が、他人に見せられないどころか自分でも把握しかねる心の深層まで見透かしているような錯覚をさせる。恐怖と警戒、そして好奇心。思考はかき乱され、霧散するばかりだ。

*

――シンプルが一番

 王子は嘯く。俺は安易な思考停止は逃げであると思いながらも、難しいことを整理するのが苦手だった。出来ないのとやらない違いくらいは理解出来るため、どうにも卑屈な気持ちにもなった。
(ああ、この人を理解したい)
思考のゴミを振り払い続けてみれば、行き着く先はいつも同じで、怖さを凌駕するその欲求が、静かに蓄積していった。

(あれ?)
 ある日、とりとめもない想起が飛び回る脳裏の陰でふわりとした不思議な気配に触れた気がした。だがさすがに自意識過剰にも感じられた。
(いや、これ勘違いなんかじゃない。やっぱ……王子、今見てる?)
基本、王子の目は世界を漠然と捉えていて、その目端に俺があったとしても(敢えて居たという言語は使用しない)、はっきりとそれを認知しているかどうかは疑わしい。
(顔がこっちに向いてるだけ……じゃない……?)
訝るのも当然の話だ。偶然視野に入っていると考えるにしては、あまりにも頻度が高いのだ。特に自ら関わりを持とうと挨拶など積極性を出した頃から、如実にその傾向が表れていた。
 だから。
「何スか?」
気配の発現のタイミングで傍に立っている王子に声を掛けた。言われて現実に戻って来るかのように、男のフォーカスが一気に自分に合う。そのことに毎度のことながらドキリとしつつも、さらにもう一声問う。
「いや、だから……最近、なんかあんた……」
男は小首を傾げて肩を竦めた。
「ん?僕が何?」
「気の、せい……なんでしょうけど」
「ふふ、全然わからないよザッキー。一体何が言いたいの?」
不思議そうに笑う王子の顔が変に眩しく、どうにも臆して語れない。
「いや、いいッス別に」
練習の隙間にある時間では会話もこれくらいが限度だった。結局そのまま帰宅の時間になって、この件は有耶無耶になってしまった。
(まぁ、どうでもいいっちゃいい、か)

*

(それよりも、理解のためにはもっと違う働きかけが必要だ)
ということで。
「あの、今度……時間ある時、いいッスか」
コツは周りの人間の気がそれているタイミングで話しかけること。日にちの指定をしないこと。一応、用件は相談だ。会っては毎回わざと言いそびれる形にして、ちゃっかり次回の宿題にする。
「君の嗅覚ってやっぱりすごいね。ついさっき明日の予定がなくなったところなんだ」
「あ、マジッスか」
「ん」
今回もやはり迷惑がっているような素振りも見せず、穏やかな笑顔を浮かべている。そもそも俺達は仕事中においての会話も少なくて、約束を取り付けるのも俺からばかりだ。それでも、例えば理由が如何にもな“こじつけ”であっても、声を掛ければこうして笑って受け入れてくる。だが、その分謎は深まるばかりであった。

 そうなのだ。最初こそ偶然彼の予定がないラッキーを喜んでいたものの、さすがにマネージャーらしき人からの電話で怒られている姿を見てしまっては、勘違いのしようもないというもの。
「すっかり忘れていたんだよ」
と言い、ふふ、と王子は笑う。それもまた随分と見慣れた光景になりつつある。駄目になった取材の振替日を相談をしているような電話では、
「ああ、ゴメン。その日は駄目なんだ」
とあまりにも簡単に拒否をしている。
(明後日?さっき俺との約束を入れた日だ)
忘れていたという発言の真偽のほどは不明だったが、優先しているとしか思えない現象が続く。
(王子、なんでだ?よくわからねぇ)
この頃からもう俺の異変も顕著になった。王子を考える時間も増えた。

*

 二人で出掛けた時に話す内容は、大半が仕事のものだった。プレイの選択と反応速度の改善、栄養学に体の回復メソッド。俺が思いつくままに色々としゃべって、王子は専ら聞き役となる。
(まただ。王子を知りたいと思っているのに、大抵俺の話ばっかり)
我ながら奇妙に思えた。何故なら、自分は物怖じしないタイプながら、基本的に饒舌な人間ではない。会話はむしろ苦手であり、端的過ぎる言葉選びに時々軋轢が生じるほどだ。そしてまた王子にしても、確固たる自己の確立が成立している故に、他者の、それも仕事上のあれこれを聞くことなど、イメージからすれば嫌がりこそすれこうして微笑むなんて。
「なんで……」
心の声がぽつりと思わず漏れて、慌てて口を閉ざした。鳥の目を持つ男がそんな態度を見逃すわけもなく、言葉の先を促される圧に追い詰められる羽目になってしまった。そのことで、この瞬間まで形になる前の心を男にさらけ出していた事実に、否応なしに気付かされた。結局今更の話だと、視線に降参するが如く小さく言う。つまりは全てここが発端だから。
「……だから、王子はなんで毎回俺の誘いに乗るのかなと」
ふふ、と楽しそうに王子は微笑みを浮かべている。
「うーん、それを聞く意味ってあるのかなぁ」
「いや、だって単純に理解出来ないんで」
我慢をする素振りもなくさらにクスクスと笑う男に、俺は内心イラつきを感じた。そのツボどころが全くわからないからだ。
「そんなにおかしいですか?」
「ん」
まだ、笑っている。
「だってザッキー」
「……」
「……いや……まあ、いいさ」
「俺は全然良くありませんけど」
「おや。それは困ったね」
さも大袈裟にまるでからかうように、そしてまた笑い出す。
「参ったなぁ。まさか本当にそこからだなんて」
意味不明の笑い、理解不能の男。俺はただただ困惑していた。
「なるほどねぇ」
「なるほどって、一人で納得しないでくださいよ」
王子は変わらず笑顔のままで、でもその目は何故か不思議に鋭く、爪が食い込むような痛みを感じる気がした。かけ離れた存在との対峙は自分をちっぽけなものにするので、どうにも悔しく空意地で睨む。王子はやれやれとため息をついて穏かに宥めるように言った。
「僕達、違い過ぎてるね」
「違い過ぎる?」
「ん」
「何がッスか?」
「前提が」
確かに今、言葉を使ってコミュニケートをしているはずが、話せばことごとく断絶が深まっていた。客観からこの主観の分析を試みても、やはり感じている今の痛さと辛さが、絶望か、切望か、わからなかった。
「ザッキー?」
「……」
「違う、ごめん。別にそういう意味のつもりじゃなくて」
そういう、の意味すらわからない。謝罪の中身が理解出来ない。
「ああ、ザッキーそんな顔……困るよ、僕はどうしたら?」
どんな顔をしているかなど、更に己で知る由もない。
「だっててっきり……だから僕は」
「?」
「いや、なんでも。ごめんね、思わず笑ってしまって。傷つけるつもりもなかったし、ちょっとの行き違いなだけだから」
もう一度参ったというようなことを繰り返されて、自分こそが参ってしまっているとポンコツな思考で俺は思った。

*

(……あんなに理解しきれない人間、今までで俺、初めてかも)
だが興味は尽きない。
(王子の言うとおり、俺達はあまりにも違い過ぎる)
違うことはさほど問題ではない。この世には同じ人間など一人もいない。
(問題は、あの人を俺がちっとも理解出来ないことだ)
王子は持ち得るその力で、簡単に心をこじ開ける。資質や特性によるものでもあるだろう。けれど、心の開示は尊厳そのものに関わる重大な事象で、こちら側ばかり手の内を晒す羽目になる状態に、俺は不平等を感じ始めるようになっていた。
(俺は知って欲しくて近づいているんじゃない。王子のことを知りたいからこそ……)
何度やっても手詰まりになるような将棋のように。
(知りたくて、わかりたくて、だから俺は……なのにどうして何一つ)
はたまた、お釈迦様の手のひらの上の孫悟空のように。
「ぁぁぁああああああ!」
いたたまれなさにベッドの上、枕をボスンと叩いて、それでもざわつきは鎮まらなかった。
「はぁ……」
ふてくされて、仰向けになって天井を眺める。王子、王子、ただ一人、その人のことだけが俺の中にひしめいている。
(あー、俺何やってんだよ)
内部から体が圧迫されるみたいな、吐き気、排泄、もしくは陣痛。いよいよ思考がまとまらないので、頭まで布団をかぶり目を閉じた。

*

 二人で出掛けた食事の最中、何の話の流れであったか、王子がフリーであることを知る。
「なるほど、ようするにここ最近王子は暇してんスね。あー、だからか」
そう言うと、彼は眉を寄せて苦笑していた。
「ずっとおかしいと思ってたんです。でもこれで納得いきましたよ王子」
堅苦しくなり過ぎない程度に品のいい店の雰囲気。幅広いラインナップの料理はすべて絶品。アクセスのしやすさ、居心地の良さ、二人で食べに出掛けるところは、いつもさすがと思えるチョイス。
「下見とか、そういうののあれだったんスね」
ベラベラと思いもしない言葉が零れ落ちて、薄っすら自分の酔いを感じる。
「この前は察しが悪くて申し訳なかったっつうか……そうですよね、こういうのあらためて説明しにくいよな、さすがに。つか、そうか王子今フリーッスかぁ、全然そういうの俺わかんなかっ……」
王子との雑談はぎこちない。色恋沙汰となれば尚更な話だ。
(何言ってんだ、俺?)
だからこその不自然な饒舌。
「抜かりないッスねー。常に、そういうなんつうか貪欲な感じ、ピッチでもその熱心さ出してくださいよ」
王子は俺をただじっと見ていた。
「王子?」
「ん?」
「どうしましたか?」
「……随分と……んー……混乱?……しているな、と」
飲みかけのグラスの水面がゆらりと揺れた。
「は?」
王子はやはり苦笑していて、それでもその目を逸らしもせずに。
「意外とややこしい子なんだね」
「それ、どういう意味ッスか?」
「言葉通りの意味だけど?」
「……」
「ん?何か僕変なことを言ったのかい?」
シンプルが一番の価値観の人が、俺をややこしいと評したのだ。それを察知して固まる姿に、どうして疑問を感じているのか。やはり王子の思考回路は、俺には全くわからない。
(いや、でも……それは俺にしても……)
自分の心を見つめれば、傷ついているのを自覚した。シンプルが一番、と、ややこしい。確かにネガティブな評価であったが、明らかに過剰な傷に思える。
「参った。わからないけどザッキー、なんかごめん」
そう言い笑う王子の姿を見つめてみても、それがサディスティックなものであるのか、本当に真摯な謝罪であるのか、やっぱり俺にはわからなかった。

*

「顔色が悪いね。大丈夫?」
スマートに会計を済ませて、気遣うように俺に言った。
「あ、王子、あとで半分」
「わかっているよ」
自分から誘っている以上、代金の支払いは当然の話。そんな矜持を理解して、王子は約束を守ってくれる。折半でこそはないものの、年棒なり立場なりを加味する形で、無理ない額で相手(俺)を立ててくる。
「少し悪酔いしたみたいだね」
「平気です」
「君の平気はあてにはならない」
朗らかで明るいその笑顔は、ある種の強引さも伴っていて、
「おいで。寄っていくだろう?明日は練習も午後からだしね」
徒歩圏内の王子の家に、当たり前に連れて行かれた。

*

「どうぞ」
 広い家。チームの経営状態から推測しても、採算に合わない水準に見える。
(本当に、よくわからない人だ)
リビングの大窓から広がる景色は、今日の店にも負けず劣らずとても美しいものだった。完璧な部屋、伊達男、少し腐したくもなる。
「高い金払って手に入れた夜景だろうに、独り身じゃ虚しいだけッスね」
肯定とも否定ともつかない形で、はは、と柔和に笑っている。
「人の不幸をからかって。なんだ、調子が戻って来たね」
まさにこういう一言が、王子の使う魔法だった。傷をつけようと爪を立ててもやんわり優しく包んでしまう。思いもよらない不思議な言葉で、寧ろ逆に抉られる。プレイスタイルそのままの、優雅な、そして残酷な。
「座って」
促されてご自慢のソファに座ると、見えていなかった月が見える。
(綺麗だ……)
子供の頃、帰り道によく月を見ていた。そんなことを思い出させる不思議な繊月だった。歩けば俺についてきて、止まれば一緒に佇んで、それが思い違いであると学習したのはいつ頃だったか。
「ん、何?ああ、月?」
「……」
王子も月の類の存在に近い。寄り添うみたいに居る気がするのに、王子と俺はまるで月と人との関係、かけ離れ過ぎているが故にどこか意味が不明ながらも、こうして見上げて見つめてしまう。
「なんかあれ、細過ぎて折れちゃいそう」
月のような王子が空の月を見上げつつ、何やらまた思いがけないことを言う。
「あんたの目にはそんな風に見えるんですね」
「じゃあ、君の目にはどう見える?」
月を見ていた月の目が地上の俺を見る。きっと彼はどんなに距離が離れていても、地球丸ごとを視野に入れつつ、波の形や蟻の姿まで知覚してしまうだろう。
「ザッキー?」
「え?」
「君はどんな風に思ったの?」
「俺?うーん、どうだろう……」
貴方を思ったなんてとても言えずに。
「なんか刺さると痛そうだなと」
「アッハッ!なるほど、そっちなの」
王子はいつも楽しげだ。笑う姿がよく似合う。
「なんかあんたも酔ってます?」
と、何でも適当なことを言いつつ、見上げるようにただこうして見つめていたい。
「えぇ?」
「でなきゃゲラでしょ、笑い過ぎ」
「アハハッ!」
あんまり王子が楽しそうに笑っているので、なんだか俺まで笑ってしまった。とても不思議な王子の魔法。どこかそわそわと落ち着かないのに、何故か気持ちが安らいでいく。

*

「ちょっとシャワーを浴びて来るけど、君も軽く浴びるでしょ?」
普通に泊る感じの流れで、別に変でもないことだった。なのに相手が王子の場合、やはり色々違和感がある。
「何?」
「いや、だって……」
「何?言ってよ。どうしたの?」
「あの、同室拒否とか、そういう、その……」
「待ってよ、同じベッドで寝る気なの?」
王子が笑い転げだすので、自分の的外れの言葉を理解した。
「や、ちがっ!そんなんじゃ!」
「お気遣いどうもありがとう。君って存外優しいねぇ」
しどろもどろに言い訳をしつつも、何の言い訳をしているのかも意味がわからず、そもそも同じベッドで眠る話のどこがそんなにおかしいのかももうわからなくなった。同室も雑魚寝もこういう世界ではごくごく普通のことであり、王子と俺もこの世界の同じ選手でもあり、けれど彼の持ちうるその特異性が、色んな概念を破壊してしまう。
(あれ?俺、これ……そう……『混乱』……だ)
ふいに今日の王子の言葉が心に浮かび、実感を伴い心に着地を果たす。こういうことは実によくあることだった。王子の発する言葉の意味は、時差を伴い俺に通じたりもする。届けばそれは俺を深く落ち着かせ、納得入りの独特の安心になった。
 こういう今を、俺はまたしても言葉にすることは出来ず、ただ漠然と謝辞のつもりで謝罪する。
「いや、なんかサーセン王子」
「謝らないで。嬉しいよ」
「……」
王子は不思議な魔法使いで、いつでも俺の調子を狂わせ、気軽に調整もしてしまうのだった。

      ジノザキ