お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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ドライブにいこうよ

【18033文字】
ガッツリ襲い受けジノザキ。性欲希薄盲愛狂信者的宇宙人攻のS調教というかなり特殊なお話。苦手な人はパス推奨。タイトルは「プルバックでゴー!(絵本)」シリーズから。絵本の上でくるくると周回する車はかわいいくて見ていて飽きなくて、でもどこにも行けないあの感じ、ちょっとした倒錯と狂気ですよね。

        ジノザキ

嘘偽りも、そして策略すらも

 あの夜俺は王子に嘘を封じていたので、これは嘘も偽りもない本当の言葉。
「……ごめんねザッキー。上手に出来なくて」
「全然、そんなことないッスよ」
「……」
「本当ッス王子。気持ち良かったです」
彼はつい先ほど俺のための役割をぎこちなく果たし終え、重く気怠い体をベッドに横たえていた。こういう暮らしが果たして正しいものであるのか、専門家でもない俺がわかるはずもない。ただあの日に見せた王子の悲愴なまでの愛の誓いに、完全に絡めとられてしまったのは事実であった。
「大丈夫。気持ち、ちゃんと伝わってます」
「……」
「俺、どこにも行きませんから」

 そもそも王子は不必要に性的なものを思わせる資質があり、それが原因かそれとも因果であるのか、その手の欲望に対して大きな壁のようなものが存在していた。枷、封印、嫌悪感。罪の意識、怯え、端的には恐怖、トラウマに近いものだろう。渇く暇も、と下品な揶揄が飛んだ過去の話を俺にした際は、珍しいほど表情にあの微笑みが失せ切っていた。浮名の理由、破局の続く人生のキーには性的なトラブル(抱いてくれない=誰か他の人を抱いている)が存在していて、それは王子の大きな苦しみで、俺もまた彼を苦しめた人間の一人であった。俺の無理解は大いに彼を傷付けていて、機能自体は正常な王子は王子でそれを必死で(笑って)耐えていて、俺はそれを全く理解出来ないままに何度も抱け抱けと行為を強いて、その挙句に王子にとどめを刺してしまった。楽しそうに明るく笑うフレンドリーな王子は俺の目の前であの日息絶えて、初めて事の重大さに気付くような始末であった。かつて月を見て折れそうだと言った王子は壊れ、刺さりそうだと評した俺は王子を刺したのだ。

 『しない=捨てられる』の恐怖に閉じ込められてしまった憐れな王子は、逆説的に行為に依存する人間になってしまった。償うように必死になりながら俺を抱き締め、終われば不安そうに俺の言葉を待つ。けれどそれは彼が内面を俺に暴露したから理解出来たことであり、そうでもなければ事後の王子のこの態度というのは、抱いた相手に対する不満の暗喩のようにも見えた。確かに王子にとっては義務以外のなにものでもない行為であり、それが他者からは抱いてやったという高慢に見えるのも否めない。これは不運にも魅惑がありながら性的に欠落を持つ王子の罪であり、愛に卑屈な相手自身の罪でもあった。
「王子、来週は早起きをして……そうだ、車でどっか行きましょうよ」
「……」
「俺もきっと楽しいし、王子もそういう方が好きでしょう?」
「……」
「早咲きの桜の話聞いたことあるような気がします。入団前の挨拶に来た時のことでしたっけね?」
二人の時の王子の表情は薄暗く、常に何かから目を逸らすかのような真似をしていた。それでも王子は俺のことがとても必要らしく、子供のようにおずおずと俺にすり寄ったり、皮膚に口づけをしたりして暮らしている。
「あんたは全然覚えてもいないと思いますけど、俺は結構王子が喋ったことは……」
そういえばこうなる前から王子は二人で居る時は、今のように耳を傾けていることが多かった。何かが大いに壊れてしまっても王子は王子のままである部分もあるようで、そのことは俺を少し安心させもした。
(好きですよ王子、心から。俺のせいでこんなにも笑えなくなってしまって、それでも居たいと思ってくれることに感謝します)

*

 俺は今自分がしている様々なことに対して、贖罪の意味を持たせるのは誤りだと理解している。事実俺は王子に罪を犯したが、そこに捉われては王子を救うことなど出来ない。
 無理はしなくていいと俺が王子に言えば、無理ではないと彼は必ず即答をする。その際の目付きは真摯といえば聞こえがいいが、狂気と強迫という表現もしっくりと当てはまる。柔和な姿や形に惑わされるが、王子の魅力の根源というのはこのマッシブ(重厚)さすら感じる精神の在り方であり、ただそれを周りは愚か彼自身もあまり理解しておらず、いろんな問題を引き起こしているような感じがした。王子は自分を張りぼてだと自認しているきらいがあって、でも事実彼は単なる化け物だった。
「ザッキー、何?どうかした?」
「いや、ただの便所ッス」
「……」
「ちょ、別についてこなくてもいいッスよ」
いやいやと首を振り一緒に起き上がるので、仕方がないと諦めるような顔で受け入れてやる。最近ようやくこういう時少しだけ笑みを浮かべるようになってきており、その時の感覚に眩暈を覚えるようにもなった。
(ああ、ヤバいな俺。してやられてる)
病的にまでなってしまった盲愛は、高濃度の毒薬を打たれるようなものでもあって、かかる重圧自体が異なるような世界から訪れる特殊な薬物は、俺を普通から次々に切り離していくのであった。

*

(ああ、もう何が正解なのか全くわからねぇ……)
 しばらく二人で会えない時間が続いた際、王子は(いつも以上に)おかしくなっていた。嘘を封じた王子に多少きつめの口調で強要すると、急に内面の狂気が現れて、
「怖かったんだ」
と静かに泣いた。
 怖いのは寧ろ俺の方であったが、黙って化け物を抱き締めて、ねぎらいの言葉を掛けてやる。
「ああ、なるほど。そうッスね。言ってくれて嬉しいです」
「……」
 王子が何に恐怖したのか。俺には十分理解が出来た。それをこうして口に出すのはかなりの苦痛に違いなく、王子の気持ち、その盲愛に潰れるような重みを感じた。王子の生み出す愛の暴露は、そのこと自体がとても重い。
「王子、すごい頑張ってます」
俺には昔からの夢があり、俺の幸せが王子の夢で、だから遠征に対する恐怖の吐露は、矜持に反する発言だった。彼自身、自分のこの感情を許すわけもなく、けれど事実は事実として存在しており、今日俺が強要をしたことで、王子はその愛故に、己の罪を打ち明けたのだ。こういう残酷なやり方を、繰り返すようになってきていた。隠す気持ちを引き摺り出すのは、マナー違反で、でも甘い。
「ザッキー……?」
理解に苦しむ内面を、剥き出しにさせるのは快楽であり、性的興奮を呼び覚ます。良くないことであるほどに、痛めつけたい欲望も湧く。
「俺も一杯頑張りました。王子としたくて堪らなかった」
叱られる子供のような態度で、そして名誉を晴らす面持ちで、王子が寝室に視線を流す。
「いや、王子。今ここで。とりあえず一杯キスしたい」
キスは王子にもご褒美なので、少しだけ柔らかい表情になり、慣れた手つきで頬に触れ、俺達は深く口付けた。
(ああ、王子……めっちゃ、いい……)
痛めつければすぐ泣いて、褒めればこうしてすり寄って、悪いことだと自覚はしてもやめることはもう無理だった。王子は俺がそれを許せば、ずっと抱きつきキスをして、時々小声で俺の名を呼んで、喜び露わにまたキスをする。王子が少し俺で笑って、ただその姿がとても綺麗で、ずっとこうして見ていたかった。王子のことが大好きだから。

*

 子供のような異様な無垢は、結局ただの狂気に過ぎない。俺が王子に強いる行為も、そもそも無意味で狂気の一つだ。
(あー、なんか最近すげぇ……)
捨てられる恐怖が緩んできたのか、行為に対する強い依存も少しだけ落ち着きをみせていた。少しずつ微笑む場面も増えて、自然なキスも増えて来ていて、自分の欲望は欲望としていい傾向にあるとは思う。
 一時期、デートも拒絶していて、それから少し気力が増えて、けれどそれよりもこうして過ごす時間に王子は懐いていった。早起きしたいと言うには言って、したいと言われるのを待っていて、求められるのを喜んでいて、時々。
(すげぇっつうか、かなりヤベェ……)
目覚めつつあるその化け物は、取り殺すような魅惑の目をして、俺の隅々まで暴きに暴く。それが始まると必ずイッて、そのまま性的な奴隷と化して、何が何だかわからぬくらいに、そうまるでそれは昇天だった。深々と王子を侵入させると、愛の知覚が駆け巡る。重く濃密なその愛は、くまなく細胞に至るまで触れて回るようなものだった。神からの祝福、もしくは慈愛か。わかってもらえる気持というのは、得難いレベルの感動だ。
 愛のやり方の手法を仕込んだ。王子は素直な逸材だった。重さと狂気を感じる愛は、何よりも深さが異常値で、この頃王子は俺達の言語を取得して、自らの翻訳に成功をした。
(駄目だ、わかってはいたけど、マジこれは……)
取り込まれていく予感はあった。捨てないでという意味の本意も。思えば王子は本気の本気で、だからこそ性欲まで取得した。
「ねぇ、好きだよ。気持ちいい?」
深々と愛を埋め込まれ。
「ねぇ、気持いい。愛してる」
絶対にお前を逃がしはしないと。
「ザッキー、ずっとこうしていたい」
王子は全てを知っていたくて、俺は全てを許してしまった。俺は王子の生きる世界の唯一無二の理解者であり、彼は俺をして救われて、愛が覚醒を迎えてしまった。
 極上の愛を浴びてしまえば、王子の恐怖は俺の恐怖で、戸惑い始める俺に向かって王子は微笑みこう言った。
「大丈夫だよ、大丈夫」
「……」
「君は一杯練習をして、勉強をして、頑張っていく。夢は君に寄り添っている。僕も君のところにいるし」
一緒に行こう、と気軽に行って、けれど王子が言うことならばと、不思議な魔法がまた掛かる。そういう未来が来るのは事実と。
「さあ、おやすみのキスをしよう」
眉間へのキスは羽毛の軽さで、天使の祝福の口付けで、今更ながらにこう思うのだ。どこから、何まで、計画だったか。導きだったか。罠だったのか。けれど微笑みは全てをとかし、愛だよ愛、とキザを言う。
「クッ」
「ん?何がおかしいの?」
「いや」

王子の愛はかなり偉大だ。

俺の愛も偉大でありたい。

      ジノザキ