お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

切なく、悲しく、愛おしく

【26180文字】
視点交互。今回はかなり自分に気弱な番犬と、強情なくらいに頑固な飼い主です。多少?二人とも病み系ですかね。謎試練とそれの克服もので、でも構成そのものが肝なんで、あんまり事前説明が出来ません。ごめんなさい。2回読んでくれたら嬉しいです。個人的にはベッタベタのハピエンですけど、一応特殊タグ入れました。
長い割にはちょっと流れ的に端折り過ぎた感じもあるので、いつかやれたら書き直します。

        ジノザキ

 僕とザッキーは恋人同士で、深く愛し合っている。彼は僕のものであり、僕は彼のものだった。この満ち足りた生活を、僕の表現力では言葉にしきれない。
「久しぶりにあの店に行きてぇなぁと」
「えー?今から?遠くない?」
「駄目……スか?」
「馬鹿な子。駄目なわけがないだろう?」
僕は派手に両手を広げて、それから彼に寄り添って、行こうと笑って背中を押して、一緒に僕の家を出た。

 ふてぶてしいと思われがちだが、実はそうでもないザッキー。守備を要求したりもするが、それは仕事上の真面目さ故だ。そう、彼は誠実で、実にストイックな人間だった。
(ふふ、かわいい……)
甘えることに不器用で、意見は言えても誘いは出来ず、僕が好きで、大好きで、おどおど、とても小さい声で、それでも精一杯の健気な声で、こわごわ僕におねだりをする。その度僅かに意地悪をして、僕は思い切り笑って抱きしめ、彼の緊張が弛緩して、安堵の吐息がひっそり零れる。彼が好きで、大好きで、なんて僕は幸せ者だと、今を深く噛みしめる。彼は、僕のザッキーだった。

*

 あいにく酷い天候だった。けれど気分は上々だった。あの店は彼のお気に入り、行くのはどれだけぶりだろう?
「やれやれ、さすがに遠かったねぇ」
「……」
「ん?」
「何?」
「いえ、別に」
「あれかな、ちょっと酔っちゃった?」
「つうかこんな天気じゃ……海岸沿いのこじゃれた店ってせっかくの前振りも」
「台無し?」
「なんか趣旨とは合わないのでは」
「趣旨?」
「ほら、こう甘いムードっつうか」
「ふふ、甘いムード?」
「何スか?」
「ううん、だって君の口から、そういう」
彼はデートをしたかったのだ。僕の顔が自然に綻ぶ。前来た時は晴れだった。あの時僕のザッキーは、甘いムードを感じていたのか。
「そもそも降らない予報じゃなかった?今日は」
「やっぱあんたって雨男じゃねぇッスか?いや、マジで」
意地悪ちくり、にやりと笑って、僕はそういう彼を見つめて、ザッキーだなぁとしみじみ感じる。
「ザッキーって本当に失礼だよね」
料理が色々運ばれてきて、二人で楽しくいただいた。会話は右へ左へ、とりとめもなく、本当にとても幸せで、けれど時々、変に押し黙る奇妙な数秒。過る気配と、予感と、そして。
「料理、あんまりよくないかい?」
「まあ、店のコンセプト自体は結構いいけど……当日の予報は?晴れッスか?」
「当日?」
「今週末ですよ。ま、あんたと同じに天候次第の気分次第?バクチみたいなもんッスね」
「今週末?」
「?」
ああ、また僕達に、この幸せのひと時に。
「今週末っていつのこと?」
「……」
「な、に……言ってんスか?王子。そんなこともわかんねぇんスか?」
多分、今はまだ大丈夫。
「今週末って今日……でしょうに……って、……?」
彼が不安に包まれていく。
「俺……え……?」
彼は彼に足を取られる。
「ねぇ、ザッキーこっちみて?」
「あ……また……?」
「大丈夫だよ。こっちみて?」
「……」
「ね?大丈夫」
「……」
「ザッキー」
外はまるで嵐のように荒れていて、まるでザッキーの心のようだった。僕は幸せの中にいて、彼は不安の荒波に揉まれる小舟で、手を伸ばそうにも届かずに、はるか遠く、沖の先へと、一人ぼっちの世界へと。

 僕達は二人で幸せな日々。その中で時にひとり、君は溺れる。
「そんでも晴れるに越したことは」
「……」
「ん?王子聞いてます?」
「聞いてるよ」
「それにしてもここの飯、旨いッスね」
「うん、そうだね。よかったよ。それが一番肝心だしね」
「シェフ、どこぞの有名店で修業してきた系っスかね」
「うーん?さぁねぇ、どうだろう?」
消えていく記憶。謎の設定。溺れ行く君の掴む藁はあまりにも頼りなげで、それでも健気で、僕は今の喪失の寂しさよりも、より強まる愛おしさに心が泣いた。何故という問いはもう不毛であり、僕は僕なりの解釈を続ける。

「結構、量ありますね」
「そうだね、思った以上にね。でもこれくらいなら平気でいけるよね?」
「そッスね、『俺ら』なら」
その一言に、仕草に、笑みに、僕もまた彼のその愛にまさに溺れ行く。
「でもね、王子」
「ん?」
「小食の女にはさすがにこの量、きついかも」
「……そうかもね。でもその辺は全然心配いらない。快活に食べる子が好みだし、彼女もそういうタイプだし」
「そ、スか……」
「うん、でもありがとう」
藁の生む矛盾を繕いながら、僕は心からの感謝を贈る。それでもここにいてくれてありがとう。
「……本番、いい日になるといいッスね」
「じゃあ……祈っててもらおう。そうなるように」
僕達が再び迎えるであろう未来のその日を。
「……頼むね、こんな雨降りがいい」
君を逃がさない僕のことを、許せなどとは言えもしない。ただひたすら君の幸せだけを願えればいいのに、でもそれもまた今更もう。
「完璧を求められるのは続くと疲れる。残念なことも受け止め合って、癒し、そして癒されたい」
僕もまた僕なりの努力を重ねもし、それでも君の言う『俺ら』の言葉を信じていたいと、何度もそこにたどり着く。
「きっと素敵な一日になる。君が祈ってくれるなら」
君が僕を呼んでいると、妄信でもいい。思っていたい。願わくば真実でありますように。

*

 まるで現象は揺りかごのよう。再び己を取り戻す彼は、喪失の間の記憶も赤裸々で、僕への罪悪と自己への不安に、症状を日々悪化させ続ける。
「大丈夫だよ、そんな顔しない。そのまま治まって来た時もあるじゃない?」
ふんわりと空気のように抱き寄せて、僕は今彼の鎮静剤。
「そ……スね。あんまり考え込まないようにしねぇとまた……」
ザッキーの本能が僕に縋って、その両腕の抱きつく力のなさと小さな震えが、僕自身に自らが如何にウイルスであるかを痛感させる。
「お願いだからザッキー、謝らないで?」
その言葉に更に謝ってしまう頼りない姿が、疲弊していく姿が、痛々しい。
「君は僕の不幸じゃない。君は僕を裏切ってなんかいない」
「……」
「きっと僕を好き過ぎるんだ。全部わかっているからね」
「王子……」
「大好きザッキー、愛しているよ」
言葉なんて時に無力だ。事実であっても非力なものだ。僕達はまさしく相思相愛、二人でいるのが幸せな僕ら。けれどそれがザッキーの心を苛んで、形を保てなくなってしまう。彼には僕が重過ぎて、でも時を重ねるしか術はなかった。だから。
「……俺、もう駄目だと思います」
諦めがちなザッキーを、逃がしはしないと僕は悪魔で、時々何がどうあるべきか、やはりわからなくなってしまう。
(お願いだ、ザッキー。一緒に祈って……)
何度も、何度も、掬い上げ、指の隙間から零れ落ち、そうして僕のザッキーは、いつものように消えてしまった。

――俺ではきっと駄目なんですよ

*

 僕のザッキーは方向音痴で、迷子なんていつものことだ。それでも彼は僕が好きだし、僕もザッキーが大好きだ。 
「悪いンスけど、調子もどんどん上げてかねぇと。だから王子とそういうのはもう」
「待ってザッキー、どうかした?」
記憶を失くしたザッキーは、それでもいつでも僕が大好きで、だから、なのに、どうして今回。
「そういう冗談シャレにもならない。やめなよ悪趣味過ぎるから」
「いや、だから冗談とかそういうんじゃないッス王子」
「まあいいや、とりあえず行こう?道が混んでくる前に」
本気で僕から離れる気なのか。どこかへ行ってしまうつもりか。大丈夫だと思っていながら、心の奥には小さな迷い。
「この前行ったあの店がいいかな。内装を変えたんだって」
ザッキーの言葉が聞こえなかった。本当の本気の願いは何処か。

*

「王子」
助手席にいるのはまさしく僕のザッキーだった。なんの前触れもなく僕の隣で、もう大丈夫ですと静かな声で、戸惑う僕を鼻で笑った。
「やっぱ俺王子のこと……それが俺の本当だから。もう多分完治しました。俺、平気です」
僕の会いたかった僕のザッキー。愛し愛されることを感じ取り合い、彼は今、実に僕の彼であり、僕もまた彼のものとしてここに存在出来ていた。
「本当ですって。巻き戻しなんてもう起きません」
「大丈夫って言うんならいいけどさ」
「王子、もっと俺のこと信じてくだ」
「ほら、君の場合は何度も前科があるじゃない?でも……そうだねそれでも君が言うなら」
心が随分満たされていく。こんなに自然に手に入る。久しぶりに呼吸が出来る。僕達、話が出来ている。そんなことがただ幸せで、僕は何も言えなくなった。

 ここは初めてデートとして訪れた店だった。慣れない場所に強張りながらも、ザッキーは店の世界観に誂えたようにマッチしていた。さっぱりと小奇麗な子だとは思っていたが、思わぬほどの深い情緒に息を飲んだのを記憶している。
(ああ、これだ……何とも言えない、このザッキーの)
睫毛には存在感がまるでない。なのにこうして食事をする際、伏した目元のそれらが綺麗だ。整然と並ぶ潔い歯列、薄い唇の奥の鮮烈の赤、秘められたものの思いがけなさ。何度も僕は目を見張る。露わな首筋はまっすぐで、無骨な中にも色気が漂い、否応もなくそそられていく。
「美味しい?」
咀嚼する姿を見ていたい。快活な頬、嚥下の首元。
「最近ウエイト落ちてるでしょう?食べてスタミナつけなきゃね」
愛されるためにいる存在。溢れ出す僕の全てを受け止めて、何もかも飲み干してもらいたい。
「あんたこそ見てばっかいないで食わねぇと。ほら、これも、それも、」
僕は今とても切実で、何故なら、わかってしまっているから、瞬きすらも惜しく思った。

「ザッキー、本当に大丈夫?」
「何スかさっきから。大丈夫ッスよ全然」
「本当に?ちゃんと聞いてる意味わかってる?なんか時々また」
「くどいッス」
彼もまた気付かぬわけもなく、無視を決め込む。無理をする。僕のための嘘を並べて、溺れる自分をひた隠す。
「王子……、俺……、あ、なんで……、違うんですっ」
「待って、いいから息を深く、聞いてる?」
「違う……、王子、ごめんなさい。俺、あ、あぁ……」
「いいから、ザッキー。落ち着いて」
そんな彼に目を奪われて、疚しさの中で欲情をする。
「王子……」
「ごめんね?ザッキー、苦しいね?」
僕の名を呼び、ふらふらよろめき、腕の中で静かになった。僕への思いが深すぎるので、その愛故にショートしたのだ。
「ザッキー」
「……」
「そう……もう苦しくないの」
虚ろな瞳が空を彷徨う。僕の大事なザッキーは、再びここから去ってしまった。僕が彼を苛むからだ。彼は何も悪くはない。

*

 僕は今、とりとめもないことを考えている。

 ザッキーが形を保てない。

 耐えられなくて壊れてしまう。

 神様の罰だと彼は言い、自分のせいだと勝手に泣いた。

 何度も挫けて、謝った。

 繰り返すことの弊害は?

 この現象の真の理由は?

 罰は罰でもこれはいわゆる、僕に対する罰なのか?

 僕は怒っているのだろうか。

 彼を愛しているのだろうか。

 今を、何を、感じているのか。

 ただひりひりと心が熱い。

 身を切るように肌が痛い。

 解決策は知っていた。

 納得できないだけだった。

*

「少しは落ち着いた?」
ザッキーが再び意識を戻し、僕もまた現実に足を降ろした。
「もういいから、そういうの」
その目を見れば一目でわかる。彼は僕のザッキーじゃない。それでも彼はザッキーだった。たったそれだけのことなのに、なんだか僕が僕らしくない。
「ああ、ごめん、今のは忘れて。それよりも」
この症状が末期の際、ザッキーはジレンマがその身を焼くかのように高熱を発するのが常だった。スイッチしきれれば落ち着くものの、彼の頬はまだ赤い。
「今はまだ微熱程度だね」
安定しきっていないなら、再び戻ることもあり得る。
「何?」
「……なんか母親みたいだなと」
ぐ、と何かが込み上げてきて、静かにそれを飲み込んだ。僕が彼の母親ならば、僕を殺すに違いない。この純粋を切り刻む、僕を許しはしないだろう。そんなことを思ううち。
「いや、心配かけちまって。俺、全然平気なんでもう帰りま」
「いいから」
僕から君を逃がしはしない。悪くは思う。それはそう。
「動ける体調じゃないの、わかるでしょう?」
「……」
「そう、いい子だね」
頭を撫でて、体を撫でて、時々甲を首筋に当て。
「やっぱり……少し上がってきちゃったね」
「……王子?」
ボウルの氷がなくなっていた。氷枕もいるかもしれない。本格的な症状なので、今日は多分山場だろう。
「大丈夫すぐに戻って来る。それまで君は大人しくそこで寝てること」
高まる熱と、朦朧の目が、僕にそれを思わせる。
(大丈夫、僕は冷静だ……)
激情が僕を身悶えさせて、彼の悲劇を考える。痛くてとても乱暴で、僕は渦巻く波そのもので、彼もまた正体を知っていた。
「お待たせ、氷を……どうかした?」
「……」
「寒いのかい?えーっと毛布はどこだっけ」
「……」
「なに?ザッキー聞こえない」
どんどん熱が高まっている。
「汗がすごい。暑い?寒い?どっちだい?」
唇ははくはくと空気を求めて、熱で少し渇いてもいる。
「……僕が誰かちゃんとわかる?」
悪い虫を引き寄せる、清楚で卑猥なその魅惑。繰り返すごとに濃縮される、性の化身のような彼。
「ザッキー?」
気付けば彼は歯を食いしばり、目を閉じ痛みに耐えていた。
「わかったよ、もういい、もういいからごめんねザッキー」
解決策は知っていた。おそらく彼もそうだった。けれど実際こうなれば、僕達二人は何度でも、こうして目を閉じ抱き締め合って、祈ることしか出来ないでいた。罰でも、罪でも、なんでもいいから、そうしていないと駄目だったのだ。

*

 唇がはくはくと僕を求めて、潤いたいと目で言っていた。
「うん、ザッキーわかったよ」
僕らはお別れの儀式の中で、今までも、そしてこれからも、何度も約束するだろう。
「大丈夫だよ。また会おう。僕が出来ないことは何もない」
ずっとここに留まりたいと、最後の最後に願ってくれて、ようやく僕も正気に戻れる。どんなことでも出来る気がする。
「何度君が忘れても、なんの心配もないからね」
僕の全てを受け止めさせられ、声も出せずに引き攣っている。
「必ず君を取り戻す。何度も恋に落としてあげる」
深々愛を刻み込まれて、彼は正気を失っている。
「誰が何をどう止めたって、僕らは愛をその度深めて、幸せになっちゃうだけなんだ」
愛や、熱や、欲望を、貪るように味わった。
「すぐだよ。ザッキー、約束するよ。次は一晩中こうしていよう」
彼の全てを手に入れて、僕の全てを手に入れさせて、シェイクするみたいにかき混ぜ合って、なるほどやっぱり腑に落ちる。そういう人生なのだと思う。
「またね?ザッキー、おやすみなさい」
ここに意味は存在している。確信なのに理由は不明だ。それでもこれは僕のつまりは、彼の飛躍のための礎。僕は自分を信じていたし、彼をねじ伏せ受け入れさせる、暴力的な力もあった。果たして本当に正気だろうか?僕にはわかるはずもなかった。

*

「なんかこう、愛される存在っていますよね」
かつて、ザッキーはこう言った。
「笑ってるだけで、そんだけでただこう、いい、みたいな」
僕はそうだねと笑って応えた。
「……」
不満げに口を尖らせる君は、僕のことを言っているらしかった。
(……可愛いなぁ。まだ僕に落ちる前だというのに、普通にそういう目で見ちゃってるんだ?)
「そういうの俺、ズルいと思う」
「おや、そう?」
「そうッスよ」
「僕はそうは思わない。愛することって素敵なことだし、周りも幸せになれるよね?」
彼は僕の話をしていたらしいが、僕は彼の話をしていた。彼は愛に無自覚で、そういう部分も愛らしかった。
「……ってろよ」
「ん?」
「いや、別になんでも」
勝手に言ってろなんて呆れた顔で、それを隠す気もなくて、そんな彼は笑顔に弱くて、覗き込むように笑いかければ頬を染めつつ嫌がっていた。
「んー?なに?」
「やめてくださいよ」
「何をだい?」
「だから、そういう……もう、しつこい!王子」
「あはは」
 愛されることに無自覚な彼は、愛されることに臆病だった。疑心暗鬼と自信のなさ。彼は常に上を目指して、自分に満足していなかった。そんな自分を受け入れられると、嬉しい反面ジレンマが。

*

「まだ夜だよ。眠ろうね」
ザッキーはずっと夜に住み、夜明けを願って生きていた。
「大丈夫、平気。心配しなくていいからね」
もっともっとと未来を夢見て、いつも渇いてカラカラで。
「大丈夫」
充足と幸せにいつでも怯えた。安寧が成長を止めはせぬかと。
「大丈夫、ザッキー愛しているよ。いつか君も君を愛せる。きっとその夜明けから君が始まる。そういう気がする。気のせいじゃない」

*

 出されたパンをむしゃむしゃと食べている姿は、僕のザッキーではなかったけれど、そのうちそうなるザッキーだ。
「すみません、急にお邪魔しちゃった上に朝飯まで」
「そういう割には遠慮もせずにがっついてるのも君らしいね」
「……っ」
「ふ、冗談だよ」
彼の好物だったメニューを、まるで初めて口にしたかのように感動しながら次々に頬張り平らげていく。寝不足による疲労もこの先は、きっと解消されるだろう。あれはスイッチの弊害だからだ。ひとつの身体にふたつの心は、どう考えても負荷がある。

 症状を放置している時間が長いと、回復にもかなり時間がかかる。
「駄目だよザッキー。どうあれ睡眠はちゃんと取らないと」
後ろめたさを感じる時に、ザッキーはすぐに隠したがって、ほじくり出せば怪我をするので、自らの意思を尊重するほかはない。が。
(なるほど、この様子だと結構長い?僕としたことが結構見落としてしまってたのか)
最初の頃は意味が分からないまま。この頃はザッキーも巧妙で、それが僕を不安にさせた。それでも絶対に取り戻す。
「どうせこの後の予定とかないんだろう?せっかくだからのんびりしていくといい」
「え、でも」
「着替え、また出すから。それ洗濯ね」

少し強引な態度であろうと、僕は今から添わねばならない。彼の作り出す設定に、まずは馴染むことからだった。

*

 汗をシャワーで流してこざっぱり。肩にふわりとかかったタオルが髪の雫を吸っている。あの内腿には赤黒い昨晩の秘密が刻まれている。
「……」
「王子?」
「ん?」
「いや、ボーっとしてっから、なんか疲れてんのかなって」
「まあ、疲れてないといえば嘘にはなるね。でも気分はいいよ?天気もいいし」
「あ、本当っスね」
とりとめもないことを考える。忘れられて僕は孤独か?また恋をしかけられて楽しみか?
(なんだろう、そう、気分はいい……僕のザッキーが消えたというのに)
繰り返しのように思えても、時はまっすぐ普通に進んで、ザッキーは出会う前の彼ではなくて、僕のザッキーを内包している。
 やがてウトウトうたた寝て、そのあとふつりと意識が途絶えた。思えば僕も彼を思って、最近ずっと寝不足だった。

      ジノザキ