お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

切なく、悲しく、愛おしく

【26180文字】
視点交互。今回はかなり自分に気弱な番犬と、強情なくらいに頑固な飼い主です。多少?二人とも病み系ですかね。謎試練とそれの克服もので、でも構成そのものが肝なんで、あんまり事前説明が出来ません。ごめんなさい。2回読んでくれたら嬉しいです。個人的にはベッタベタのハピエンですけど、一応特殊タグ入れました。
長い割にはちょっと流れ的に端折り過ぎた感じもあるので、いつかやれたら書き直します。

        ジノザキ

 ユニフォームを着た10番様と、私的な彼とはまるで別人。なんだか酷く混乱をした。
「も……もっとこう……わからねぇんスけど、こう……なんて言ったら」
強張るように顔をしかめて、零れ落ちるのはこんな言葉だ。王子を通して垣間見る、誰かにあげるあれが欲しい。
「俺……」
欲は、すでに抑えきれない。何かをどうにかしたかった。それが理不尽だとしても。自分本位で無理なことでも。
「困ってて」
髪を優しく触れる手が、そっと耳やその首元へ。まるで犬猫にする愛玩、それでもうっとりしてしまう。
「何に困っているんだい?」
「一緒に居ると感じないのに、ひとりになるとすごく疲れて、ほとんど毎日会えるのに、その他の時間が酷く長くて」
「……」
「多分王子に彼女がいるってことが、羨ましいんだと思います。俺にはそういう人とかいないし、なんか想像もつかねぇし。俺はこんなにも独りっぽっちで、なんかひどく寂しくて……王子といると楽しくて、でも、すっごく辛くて、なのに居ないと、なんか、もう……変に怖いっつうか」
どんどん心が弱まって、なんだか急に悲しくなって、王子はそんな俺の目尻をそっと拭って微笑んでいた。
「なんか色々、もうわかん……変ッスよね、何言ってんだろう」
「変じゃないよ」
「でも馬鹿みたいッス」
「そう?じゃあ、僕も馬鹿?」
「……?」
「だって、僕も同じだし」
思いがけない一言に、頭がますますごちゃごちゃとする。
「楽しくって、辛くって、わからなくって、とても同じな気がするよ?」

*

 あまりにぐっすり寝入っていたので、目覚めた時に戸惑った。窓の外のパノラマは少し赤みを帯びている。
(昨日、王子と飯食って、そんで……)
色んな綺麗な姿を見ながら、とりとめもないことを言ってしまった。王子はそれでも微笑んでいて、当たり前に優しくて。
「ああ、ザッキー。起きたのかい?」
王子の匂いが違うのは、備え付けのシャンプーのせい。濡れた髪にバスローブ、見慣れた姿であるものの。
「君も浴びて来たらどう?」
言われてぎこちなく駆け込みながら、跳ねる心臓と熱い体を、冷たいシャワーで必死に宥めた。
(なんか、変なこと考えたっ!)
実際、かなり混乱しているのは理解していた。自分は誰かの愛が欲しくて、そのお手本が王子なだけで、王子と一緒に過ごしたいのは、疑似体験だと考えてきて。
(そう、ごっこ遊びのおママゴト!おさまれ、馬鹿馬鹿、勘弁しろよっ、本人ここにいるんだぞっ!?)
今更ながら昨日の記憶が感触もろとも蘇る。王子に三回キスされた。額に、そして両の瞼に。怖いね、一緒に居よう、だなんて、わけのわからない俺の話に微笑みながら頷いていた。
(あ……駄目かも、もうこれ、駄目かも……)
いつしかシャワーを浴びながら、ひっそりベソをかいていた。もはやどうにも言い訳出来ない。俺は王子が好きなのだ。一緒に居ようと優しくされた。おやすみなんてキスされた。全部夢に見てきたことだ。どうにもこうにも幸せで、頭がパンク寸前だった。
(王子、同情してくれている……ある意味、愛してくれている……?やっぱり俺もう全然駄目だ、もう俺こういう気持ち、二度と気のせいなんかには)
俺は今こそ今に怯えた。王子は彼女への愛の準備のために俺に優しくしてくれていた。混乱で面倒をかけてしまって、朝まで拘束までしでかした。俺の気持ちを知ってしまって、話を合わせて寄り添って、これからを色々考慮して、王子は王子は。
(バレた、もう王子は俺と下見をしない……きっと一緒に居られる最後だ今日が……)
 そんな癖などなかったはずが、再び呼吸の仕方を忘れた。

*

 湯たんぽのような温かさの中、ぽかりと俺は意識を戻す。景色が随分薄暗く、遠くが何かキラキラしている。記憶がなんだか繋がらない。王子と一緒に飯を食い、泊まって、起きて、シャワーを浴びて。
(や、でも、これ全然夜だよな?そうだ、王子は一体どこに……)
小さく俺が身じろぐと、後ろの方から声がする。
「んー……」
ぎゅっと何かに抑え込まれて、思わずビックリしてしまう。
(え、待てって。なんだこれ)
寝息のような音が聞こえる。腕のような重みを感じる。ハテナが頭を駆けまわる。ここはどこで今はいつ?どこまでが夢?今は夢?
 俺が変に動いたせいか、もぞもぞ背中の人も動いて、それでも寝心地が悪いのか、こっちを向けとねだられた。その声質の深い響きも、独特のこの自分本位も、もはや疑いようもなく、相手は王子その人だった。
「あ、ちょっと……なんで、?」
俺がぶしつけに語り掛けると、王子はくしゅくしゅ顔を寄せ、静かに
「ザッキー寝ようよ。深夜だよ?」
と、とんとんしながら俺をあやした。
(……だから王子、なんだこれ?)
大丈夫だよ。一緒に居るよ。そんなことを呟いて、頬を摺り寄せ、軽くキス、王子はウトウト夢の中、何が何だかわからなかった。でも心も体も温かかった。目覚めたというのは夢だったのか?これは幸せな夢なのか?ここ最近の疲労の全てが体から溶け出すようだった。王子が俺を抱き締めていて、けれど全然寝苦しくなく、触れる手のひらが心地よく、気持ちが良くて、そう、気持ち良く。
「……ん、」
よって、あまりにも普通のことだった。それは一緒に居るということだった。自然に呼びあい成立している、当たり前の行為であった。嫌悪感など微塵もなくて、されるがままが大切で、相手が王子で、同じ男で、それも俺を安心させた。どうすればどうなるかわかった上で、優しい手付きでそうされて、そろそろなのも調整されては、ティッシュと小声で俺が言っても。
「ううん、このまま手の中に」
まるでそれが俺達二人の『一緒に居る』の証のように、耳元、吐息交じりに囁かれ、流れのままにそうなった。ぬちぬちそのまままた弄られて、でもそれは本当に緩やかで、包み込まれるぬくもりで、気持ちが良くて幸せで、あまりに一緒な感じがすごくて、なんの抵抗もないまま、そのまま、もっと俺達は一緒になった。
 その時、確かに痛みで呻いた。けれど強張る俺の身体を王子は自在に操っていた。ひたすら俺は王子に縋り、名を呼び、必死に助けを乞うて、言葉はみるみる失われ、熱くて体が燃えてるみたいで、ともかく激しく揺さぶられ何も考えることが出来ないでいた。こんなにめちゃくちゃにされるだなんて、一緒がこんなであるなんて、全部知らないことだった。声にならない俺の悲鳴を、王子がキスして平らげていく。責め苦でありつつ確かに安堵で、浮かぶ涙も食べられていた。

 俺はベッドを酷く汚して、うつ伏せで枕に伏していた。背中の王子が重たくて、でもずっとこのままで居たいと思った。
「ごめんね、ザッキー。痛かった?」
謝られるのは悲しく感じた。嫌だったのに仰向けにされ、泣いているのにも気付かれて、王子の顔もみるみる曇って、そんなことにも泣きたくなった。あんなに幸せだったのに、あんなに一緒に居たというのに。
(謝罪するな、後悔するな、反省するな、お願いだからっ)
声が出なくて、腕も上がらず、目から無力に涙が落ちて、一緒を求めて、切なる思いで、なけなしの気力でその名を呼んだ。
 王子は黙って俺を抱き締め、
「ごめんね」
なんてさらに謝り、
「ああ、ごめん、駄目みたい」
なんて呟く吐息が熱くて、俺は王子と同性なので、彼の理性が壊れていくのを手に取るように理解した。多分笑っていたかと思う。ともかく嬉しく感じたからだ。
(違う……全然駄目じゃねぇッス)
考えられなくなっていく、俺と同じの無力な王子が、とてもとても愛おしかった。

*

 女に成りたいわけではなかった。女が欲しいわけでもなかった。愛が欲しいと表現するにも、同じなようで少し違った。
(ああ、王子……)
俺達はぐちゃぐちゃに絡み合い、眠って起きて、しては寝て、眠りながらも甘噛みをして、あまりにそれが普通に思えた。それが何故かはやがてわかった。霧が晴れていくように。

 そして俺は聞くことになる。すべての記憶を取り戻せた時、王子が必ず言うセリフ。

「おかえり、ザッキー。待ってたよ?」

      ジノザキ