おなか一杯のお正月
コーヒー一杯分のクリスマスの続編にあたるお正月のお話で相変わらず出来ていない二人です。ジノ→←←ザキのちょっと天然系のジーノ目線。長くなりましたがいつも通りチャガチャガと二人が騒いでいるだけです。お気軽に。季節物の話、楽しいですね。
時計を気にするパーティ会場。なんだか既視感?あぁ、つい先日のクリスマスパーティだ。
あの時も退屈で仕方がないのに、なんとなくこうして時間を潰していたっけ。ほんの数日前の出来事なのに、なんだか随分前のような気がした。しかし、ここ最近本当にボクはどうかしている。楽しかったことが楽しめなくなってくるこの傾向は、あんまり良いものではない。
ぼんやりしてても時間は過ぎて、いよいよカウントダウン開始。沢山の国の人たちの集まる会場はなんでもありの大騒ぎ。さあ、スプマンテ片手に会場のみんなとバーチョ(キス)。大声をあげて笑って祝おう。飛び交ういろんな国の言葉、国籍不明の料理達。ここは日本の中にある世界の縮図なんだから、この際、散々この時この場所を楽しんでしまおう!
* * *
これはパーティの数日前の出来事。
「だからおいで?」
「いや…でも…」
クリスマスが楽しかったボクが早速年末一緒に過ごそうよと声をかけたというのに、どうにも飼い犬のノリがイマイチ。なんだか少々不満気に思いつつも、それでも不機嫌を隠しながら電話を続けた。
「楽しいよ?料理もいろんなのがあるし、年越しの瞬間にはスプマンテをみんなでさ、ね?」
「……」
「参加メンバーはみんな気さくな人ばっかりだからキミもすぐ馴染めるんじゃないかな?」
「でも何話せばいいのか俺…」
「そっか、知り合いいないと気後れしちゃう?じゃあさ?一緒に過ごしたい友達とかいたら何人でも…ほら、セリーとかチームの仲間とかでも暇な人がいれば誰だって誘えばいい。ね?どう?」
「…別に…誘いたい奴なんて…」
「もしかして、ドレスコードとかそういうこと気にしてる?大丈夫、別にフォーマルな集まりでもないし、堅苦しく考える必要ないよ?ただのプライベートな集まりなんだから」
「……」
「なんならボクの服貸してあげてもいいよ?でもホント何でも…えーっと、ほら、ちょっとどこかに赤っぽいものをつけてさ、あぁ、でもそれはイタリア式なだけで…そうだよ、別にそんなものすら、なければないで」
「いや、そういうこと気にしてるわけでも…」
ボクは基本的に人を誘うことをあまりしないし、ましてやこんなに食い下がることなんて滅多にない。自分が他人に興味を持った場合に、相手が自分に興味を持たないなんてことも珍しく、日常の退屈なパターンから逸脱したこの傾向は確かに刺激的。でも、その反面プライドに触る部分があるのも確かだった。このボクがここまでしているというのに、何故今日に限ってこの飼い犬はちっともいうことを聞こうとしないのか。全く想定外だった。
「あれ?もしかしてパーティみたいな賑やかなの、苦手?」
「えぇ…、まぁ…あれですよね、イタリアの年越しは仲の良い知人たちと賑やかに過ごすのが普通なんでしょうけど」
「……」
「俺はどっちかっていうと、ワーワー外出して騒ぐってより…その…」
成程、そういうことだ。イタリアと日本ではクリスマスと年越しの過ごし方の定義がなんとなく逆だったりするのは知っていた。賑やかな日本式クリスマスに違和感を覚えるボクと同様、彼もまた賑やかなイタリア式年越しに違和感を感じているということなんだろう。
「あぁ。大切な日は好きな人と過ごしたいって言ってたっけね?」
「そ…そうなんです…」
「確かに日本風だと恋人とか親しい人間とのんびり過ごすほうがしっくりくるよね」
「よかった…やっとわかってもらえましたか?」
「ふーん…そっか、そうだよね?ボクてっきりキミにはそういう相手がいないもんだとばっかり…なんだか無理に誘っちゃって悪かったかな?」
「え?」
「ま、残念だけどしょうがないか。忙しいとこしつこくしてゴメンね?じゃあ…」
「え?ちょ…王子?」
電話を終えた途端、楽しいはずの年越しの時間がすっかり色褪せてしまった。ボクが適当に取り付けたクリスマスの約束を守ってくれた律儀で可愛い飼い犬は、年越しまではその身をあけてはくれないらしい。チームメイトにはズバズバと好きなことを言っているようなのに、ボクに対してだけはいつもこんな感じで歯切れが悪い。
「別に最初からイヤならイヤだってはっきり言えばいいのに…」
そんな愚痴を呟いてしまったがために今日の電話のやり取りが勝手に頭の中で再生されてしまった。柄にもないことをやった上に、余計な恥をかいてしまったようでどうにもいたたまれなかった。
「何?これじゃまるっきりバカみたい!」
ボクがあの子の大切枠に入ってないってことがそんなにショック?ハッ!まさか。別に平気さそんなこと。でも、イラッとしたのでコツンと軽く足でカウチを小突いてやった。けれど特に気が晴れることはなかった。ボクは彼と楽しい時間を過ごして普通に仲良くしたかっただけだ。断られたこと自体も用事があるなら仕方がないと納得だってできてる。ただ、今さっきの相手の態度に自分に対する不必要なまでの遠慮や距離感が感じられて寂しい気持ちがした。クリスマスの予定の確認すら出来ない飼い犬。きっぱりと年末は一緒に過ごせませんと言い切れない飼い犬。誰のせい?言わせないボクのせい?急に膨れ上がるイライラと虚しさ。
「なんで?どうしてうまくいかないかって?知らないよ!ボクはこういうことは苦手なんだから!」
自慢の飼い犬を見せびらかすことが出来なくなったせいなのかどうなのか。行くはずだったパーティに急に興味がなくなったボクはどうやって年末を過ごそうか途方に暮れた。でも、バカンスひとつ一緒に行く相手がいない今のボクには、どのみちそれに参加する選択しか残されていなかったのだった。
* * *
初日の出の時間を過ぎて、太陽はとっくの昔に空高くキラキラと。目の前に広がるひどい惨状。お祭りの後の汚らしい情景の中の静けさ、物寂しさ。目が覚めたボクは、また退屈な気持ちに逆戻り。すっかりぬるくなったテーブルの上の間抜けな味のする缶チューハイを煽りつつ、ウーンと伸びを一つしたのだった。
なんだか無理矢理楽しもうとしたおかげか、ボクは昨晩いろんな種類のお酒をしこたま飲み散らかし、気が付かないうちに随分羽目を外してしまったらしい。ここは一体どこ?いつのまにか誰かわからない他人の家で仲間と雑魚寝。おもちゃ箱がひっくり返ったような混沌の部屋の中で男、女、知ってる人間、知らない人間が何人も何人も折り重なるようにだらしなく。転がる酒瓶、ゴミの山。ゲーセンにでも寄ったのだろうか?でっかいぬいぐるみまで転がっていて。なんて、なんて、馬鹿げた年越し!
取りあえずボクが一番最初にやったことといえば自分の服を脱いだ形跡があるかどうかという確認だった。そしてその兆候がないことに思わず胸を撫で下ろす。全く前後不覚になるまで飲むなんて前代未聞。ホント危ない。滅茶苦茶だ。どうかしてる。
二日酔いで頭が痛い。みんなも寝てるし、ますますつまらない。なので取りあえずひっそりとその場を立ち去った。なにがどうしたかって話はまた後日彼らからゆっくりいやという程聞かされるだろう。
エレベーターでマンションの1階へ。陽の光がまぶしすぎて思わず眩暈。しょうがないのでフラフラとロビーのソファに腰を下ろして休憩することにした。まだまだたっぷりアルコールが体に残ってしまっている。そうしてしばらくしてから、ボクは飼い犬に電話をかけたのだった。
だってボクが年越しの夜にうるさい携帯の電源を切っておくのは例年の話で、だから朝まで気づきもしなかったんだ。元旦になった瞬間に届くおめでとうのメールの中に可愛い飼い犬のものが混ざってるだなんてね。
こんな日に電話を掛けるなんてどうかしてるのはわかっていたけれど、返信も今更面倒だし、オフ明けだと忘れてそうだし。嘘。言い訳だそんなこと。でも今は頭が痛くて不愉快で、何一つ深く物事を考えたくはなかった。
* * *
「王子?」
「やあ!ザッキー?」
数コールですぐ出てくれた飼い犬にボクは大満足。そうだよね、これでなくちゃ。
「どうも…」
全く飼い主というのは勝手なものだね。ぶしつけな電話に戸惑っている相手の様子なんて一向に気にしない、さあ、思いっきり憂さ晴らしだ。
「まずは挨拶だよ!明けましておめでとう!」
「あ…おめでとうございます…」
「ちゃんと飼い主に新年早々挨拶寄越すなんて偉いじゃない!しつけが行き届いててボクとしても嬉しい限りだよ」
「…今更」
「なんか言った?」
「いえ…ってかあの…新年早々何か俺に用事でも?」
「やだねぇ、ひねくれた言い方…本当は嬉しくない?ボクの声聞けてさぁ…あ、そうそう、ボクが今年日本語でおめでとうを言ったのは今のが最初だよ?ボクからのおめでとうの一番乗りもおめでとう!ハハ、今のが2回目だ」
「日本語でって…もしかして海外にいるンスか?」
「ん~?」
「なんだ、俺てっきり国内にいるんだと思ってメールを…くそ、時差どんくらいあったんだろ…」
「ってかザッキーさっきから声小っちゃくて聞こえないんだけど。ボク今東京にいるよ?多分」
「多分って…自分のいるとこくらい」
「何?聞こえないよぉ!メールは今気が付いただけ。ごめんね?ごちゃごちゃしてて連絡遅くなっちゃったね、でもいいよね?明けましておめでとう!ザッキー!」
「…最初に挨拶してますよ?」
「そうだっけ」
「あんたなんかテンションが…もしかして泥酔してます?」
「…フフフ、どうだろ?7杯目くらいまでは覚えてるんだけどその後は…う~ん、取りあえずグラッパ久しぶりで2杯は飲んだかな?美味しかった~」
「どんだけ飲んでるんだよ。ちょっと人格崩壊してていつも以上におかしいッスよ?」
「なんだよ失礼だなぁ~…まぁ、昨晩はちょっとはしゃぎすぎちゃったのは確かかも」
「…そりゃ…ご機嫌で何よりッスね」
「ハハハ、キミも楽しい年越しを過ごせた?」
「…え?あぁ、まぁ、それなりに…」
「フフ、キミは甘い夜を過ごしてたんだろうにボクにメールなんてくれちゃってさぁ…律儀はいいけどキミの大切な人に怒られなかった?ちゃんと無事に年越しエッチ出来た?」
「一体何の話だよ!元旦から下ネタかよ!」
「ハハハ!ボクは多分まだだけどね!」
「え?そうなんスか?って、なんだよそこも多分って!一体あんた何やってたんだよ!」
「ねぇ今彼女と一緒にいるんでしょ?ボクから掛けたんだから切らないでよ?そんで長電話してうんと怒られちゃえばいい!ついでに飼い主より先に盛っちゃった失礼な飼い犬のアレなんてもげちゃえ!」
「王子!いい加減にッ!」
「ハハハ!焦ってるぅ~、大きな声出しちゃうと益々怒られちゃうよ?いいの?わぁ~、大変だ」
「だから俺は昨日は実家で家族と年越しそば喰ってただけだよ!」
「え?」
「今も初詣の帰りで駅ん中で…ホームにいるからアナウンスとか雑音すごいでしょう?わかんねぇのかよ。だからこのまま俺のマンション戻って……ってあれ?王子?」
「……」
「王子?」
なんだろう?最後のぬるくて間の抜けた缶チューハイなんかが今更効いてきちゃったんだろうか?頭がくらくらして急に体が…。
「…じ…おう…王子?」
「……」
「助けてってなんですか?なんかあったんですか?大丈夫ですか?王子?」
「……」
耳元で可愛い飼い犬が何やらしゃべっているからボクも返事をしてるつもりなんだけど、それは気持ちばっかりで言葉になってないみたいだった。意識が飛んでいく。
「王子、返事してください。王子!」
(ん…ザッキー)
「どうしたんですか?」
(なんか頭ガンガンするし、気持ち悪いし…眠い…)
「なんだ、二日酔いなだけか。なんかあったのかと…」
(なんだってなに?失礼じゃない?この馬鹿犬)
「馬鹿はどっちだよ、ったく頭痛いのはこっちの…」
(駅かーいいなー、ボクも今すぐ家帰りたいな…ザッキー飛べればいいのに)
「支離滅裂じゃねぇか」
(迎えに来て)
「んだよ、わけわかんねぇ…しょうがない、最寄り駅はわかんないンスか?王子?」
(…なんでボクが)
「なんでって教えてもらえないと迎えに…」
なんでボクがこんな目に…。
* * *
あんな不用心な場所でボクはいつの間にかうたた寝をしてしまったらしい。まあそれもほんの一瞬だ。ここは平和の国日本で、カバンから携帯からそのままボクの傍に転がったままで助かった。
なにか夢を見ていた気がする。いい夢だったような、馬鹿馬鹿しくて間抜けな夢だったような?ボクを背に乗せて空を飛んだ白馬は確かにボクの飼い犬だった。馬だけど。そんなくだらないところは覚えてる。初夢は明日だったか?ではこの夢はなんの夢。
まだお酒の抜けない重たい体を引きずるように自分のマンションにたどり着くと、ロビーには角を生やした恐ろしい化け犬がボクを待っていた。
「やぁ、どうしたの?そんなところで」
「どうしたじゃねぇよ!」
「怒鳴らないでよ…頭に響く…えと…なんだろ、取りあえず…明けましておめでとう?ザッキー?」
「二日酔いだろ!飲みすぎなんだあんた!何回おめでとう言うつもりだよ!めでたいのはあんたの頭のほう!」
「もうやめてってば…痛い…」
酔った頭でくるくる考える。うーん、今日は元旦で、ボクは昨日パーティに行って…どうしたんだっけな?
「来いって言われても場所わかんねぇし!あんな感じでそのままって心配するだろう?どっかで行き倒れでもしてんじゃないかって俺がどれだけ!」
「さっぱり意味わかんない。取りあえず落ち着いて?ザッキー、人が見るよ」
ボクはこの可愛い飼い犬となんか今日約束してたっけな?う~ん、どうなんだろう、うまく思い出せない。パーティに行って、しこたま飲んで…ボーっとなんとなく家に帰ってきたら飼い犬がギャンギャンボクに吠えているっていう…。
「ちいせぇ声だと聞こえないって言ったのあんただろ!」
「そんなこといつ…イタタ」
「ったく!なんでこんな…のんきな面しながら帰ってくる奴のために俺は!午後からサッカー見る予定だったのに!クソ!」
「え?サッカー?」
「もう始まっちゃってるし今更間に合わねぇ!毎年元旦には必ず俺はあれ見て過ごしてたのに!」
「……」
時計を確認すればゲーム終了までは少し時間があるようだった。
「年末録画し忘れて実家帰ったから急いで録画しに戻ろうと思ってたのに…」
「…ボク、録画してあるけど…」
「え?」
「始まったばっかりだし今から追っかけで見ればハーフタイムで追いつけるかもよ?来る?」
「あ…いいンスか?」
「うん、ボクここの住人だし、こんなとこでもたついた話してるよりよっぽどそっちのほうが有意義かな」
なんてことはないボクのそんな一言で、急に彼のとげとげのイガが抜け落ちた。なんて可愛い単純なボクの飼い犬。体はだるくて頭も痛い。でも、その瞬間、年末からボクを締め付けていたもの寂しさの一切が消えてなくなっていた。
* * *
軽くシャワーを浴びてから試合に没頭中の飼い犬を横目にコーヒーを飲む。落ち着く。ボクの飼い犬はサッカーを見るとき色々と賑やかで、その一喜一憂が僕には試合よりも楽しかった。
「ハーフタイムだ。王子、飛ばすんでリモコンを…あ…」
「ん…」
「スイマセン、寝てましたか?」
ボクはいつの間にか居眠りをしていたようだった。リモコンを渡すと飼い犬は少し申し訳なさそうな顔をした。
「いや、ボクも本当は見たくて…前半どうだった?」
「あ、えっと」
一生懸命説明をしてくれる健気な飼い犬。でもボクは自分で話を振りながらもやっぱり睡魔には勝てなくて、瞼が重く重くとても開けてはいられなかった。
うとうと、うとうと。
気が付けばカーテンの開いた掃き出しの窓からは真っ赤な日差しが差し込んでいて、ボクは可愛い飼い犬の膝枕で寝ていたようだった。ザッキーの匂いとその体温。きっと彼が気遣ってくれたのだろう、ボクの体には彼の着てきたコートが掛けられていて、その温もりがまた格別だった。見上げるとその優しい後輩もまた僕と同じように居眠りをしていた。スースーという密やかな寝息が聞こえてくる。サッカーはとっくに終わったらしく、テレビはよくわからないお正月のバラエティ番組がダラダラと流れているばかり。これが飼い犬相手でなく彼女となら。そして飼い主でなく彼女だったなら?きっと彼のいうところの、大切な人と一緒に過ごす、大切な時間というものになるのだろうなんて。ボクは彼をぼんやり眺めながら、こういう平凡で退屈なお正月っていうのも意外と…なんて思っていたりしたのだった。
「確かにキミの言う通り、こういう地味なのもいいもんだね?ザッキー?」
眠っているのも気にしないで話しかけてみる。
「ねぇ、思い出したんだ。ボクはちょっとした誤解をしてて…そして多分だけど意地悪でキミに電話を掛けたんだね、今日…。いいところを邪魔してやろうなんてさ、最悪だ…まぁ、実際はキミは彼女と一緒になんかいなかったわけだけど…でもホント、ごめんね?」
可愛い飼い犬はボクの悪意にも気が付かないで、単なる酔っ払いを心配して、大事なサッカーを見るのも投げ出して家に戻らずボクのマンションまで駆け付けてくれて。一体どんな気持ちであそこで待っていたのかな。そんなことを考えてボクは急に胸が痛んだ。
「でも、彼女云々を別にしても結局ボクはキミの大切な時間を邪魔しちゃったね。お詫びに今年の初詣はキミに素敵なステディが見つかるようにお参りすることにするよ。来年はまだ見ぬ彼女といいお正月が過ごせるといいね、ザッキー」
「な…何言ってんだあんた!」
「あれ?起きてたの?」
子供のような顔をしながら眠っていたと思ったら急にトマトみたいな顔になって、突き飛ばすようにボクを膝から払いよかした。あんまりだよ、ザッキー。
「あんたは!ホント、ぜッんぜん!わかってないんだな!!!!」
「何が?」
「何がって!」
「なんかボク変なこと言った?」
「!」
意味がわからない、飼い犬のご機嫌の急転直下。そういうのもボクにとっては可愛いんだけどね。
「あー?そっか、神頼みしなきゃならないほどステディ探しに困ってるわけじゃないよ!って言いたいんだね?それは失礼」
「ちがッ」
「ハハハ、バレバレだよ?そうだねさすがのキミでもそこまで悲惨では…まだボクが女の子紹介してあげるとかのほうが現実味あるよね?でもどうかなぁ、ボクの周りにはボクみたいなのが好みって人が多くてキミみたいなのは…でも知り合いのつてを探してみれば意外と…」
「うるせぇよ!そんなの紹介していらねぇし!」
「そ?」
「そうだよ!」
「遠慮なさらず」
「遠慮なんてしてねぇよ!」
「ホント?」
「ただでさえこうなのに、あんたに遠慮なんかしてたらどんな目にあわされるか!しねぇよ!そんなもん!」
喧嘩腰の飼い犬のたった一言が、どれだけあっけなく今のボクの閉塞感を晴らしてしまったことか。ボクが今彼に必要としているのはそういうこと。遠慮とか、気後れとか、そういうものは一切必要なくて、こうやってポンポンとなんでも思ったことを口に…そう、ボクは今、やっとこキミの仲良しのチームメイトと同じくらいの距離感にはなれたと言っていいんだよね?
「なにニヤついてんだよ!」
「別に?」
「なんか変なこと考えてるに決まってる!」
「そんなことないよ」
「絶対そうだ!」
「違うってば」
* * *
外食に出かけるのもだるいけど、ボクんちの冷蔵庫はあいにく空っぽ。だって年明けにこんなに早く戻ってくるつもりなんかなかったし。そしたらなんと、ザッキーが実家からお節を持ってきてくれていた。断っても持っていきなさいと無理矢理帰りに持たされてしまったらしい。一人で食べきれない量だしって言ってたけど、優しい親御さんだなと感じた。大切に育てられているのだね。ボクの飼い犬は。
「あんた、まだ飲むつもりか!やめとけよ!」
「迎え酒だよ」
とっておきの日本酒を燗するのはちょっと勿体ない気がしたけれど、やっぱりお節には熱燗が一番だよね?とお猪口を手渡せば、彼もまた満更でもなかったようで。体温があがるので次は冷たい飲み物が必要で。サラミがあったっけかな?確かチーズもその辺に。となれば次は赤?白?え?ビール?そんなものうちには…あったかも。
あとはお決まりの。
「だから、ここのパス、惜しいって!雑!」
「おや?言うねぇ?これはここのDFの動きが」
今日見そびれたサッカーの録画のおさらいをしながら、二人でワイワイ。もうすっかり終電はなくなって、それでも構わずボク達二人はその後も何本もの試合を見ながらもうお腹が一杯でどうにかなりそうになるくらいに飲みまくった。
多分、最高のお正月を過ごせたんだと…いや、多分でなく、確かに素晴らしいお正月だったと、そう思う。ともかく、ボクと飼い犬の初めてのお正月は、こんな退屈で平凡で馬鹿げてて、そしてなんとも素敵なもので。これからもっともっと楽しい時間が増えていくことなど、この時のボクはちっともわかっちゃいなかったのだった。
(次のページはおまけです)
[newpage]
「イタリアではお正月にこれ食べるんでしょ?はいどうぞ!」
「え~?」
「あんたにぴったりだ!」
ザッキーが飲んでる最中に急に取り出したのは悪い子に贈られるという魔女ベファーナが配る炭のお菓子だ。
「ハハ、こんなものをどうやってキミ手に入れて…」
「エピファニアの日(1月6日)に会えるかどうかもわかんねぇし今渡しときますから」
「キミがイタリアのことそんなに詳しいなんて知らなかったよ。ああ、そうだ。今度イタリアの女の子紹介しようか?」
「いらねぇよ!」
頑なな飼い犬が可愛くてボクはつい。
「ねぇ、もう今日は1月の2日なわけだけど」
「それがどうしたンスか?」
「明日はボクがイタリアのお正月料理をキミに食べさせてあげる」
「え?」
「だから取りあえずエピファニアの日までうちで過ごしなよ。ベファーナのプレゼントはその日にちゃんと受け取るからさ。さすがに今日じゃ早すぎだ」
目を白黒させていた飼い犬がしばらくしてイタリア料理についてあれこれ質問をしてきた。これはYESだと思っていいのかな?それなら一人の時間が減って退屈しなくて済みそうだとボクも上機嫌。
「でも俺、着替えもなんも…」
「ボクの貸してあげるよ、そのかわり」
「そのかわり?」
「洗濯はボクの分も一緒によろしくね?」
「な!」
「今日はキミのお節をいただいたけど、明日からはただ飯食らうわけだから。働かざる者食うべからず」
「…わかりました」
「フフ、お利口さん」
「だからやめろよ、その言い方。俺、犬じゃねぇし!」
「あらら、悪い子ちゃん」
「ふざッ」
「ハハハ」
「王子!」
「お手!」
「やめろって!」
「ほーら、とってこーい!」
「サラミ投げんな!」
「アハハもう一枚!」
「ちょ!食べ物を粗末に…」
「早く!」
「待てって!」
「偉い偉い!」
「ヨシヨシすんなよ、あんた酔ってるだろ」
「ザッキーこそ」
「俺はまだ全然」
「隙あり!」
「やめ!こら!」
おしまい!
[maroyaka_webclap]
